番外編 コラボ 申告制ランチ考現学×GPTの逆襲 ののか、スマホと出会う
※本編をご覧いただく前に、ぜひ「申告制ランチ考現学」をお読みください。
この小さな外伝が、物語の深層へと至る“鍵”となるかもしれません。
ある日のお昼、厨房で皿を拭いていた佐藤さんが、ふと視線を上げると──
カウンターの向こうで、ののかが真剣な顔で“何か”を見つめていた。
その“何か”とは──
ミキのスマホ。
「ミキさん、それなに?」
「これ? スマホ。知らないの?」
ののかは頷いた。「聞いたことはある。でも、“本物”初めて見た」
まだ、小さいからか、持たされてもいなかった。
ミキは少し考えてから、くるりとスマホをののかに渡した。
「触ってみる? あ、でも顔に近づけすぎると、変な広告とか出るから注意ね」
「こう?」
「いや、それは耳。耳に広告出ても意味ないでしょ」
ののかは困った顔をした。「なんか、これ……やわらかくないのね」
「そりゃそうよ。食べ物じゃないんだから」
ののかは、しばらくスマホを両手で持ち、
まるで“熱いおまんじゅう”を大事にするように、指でなぞった。
「おぉ……ひかってる。これが……電気の力……!」
「ちょっと大げさすぎる」
ミキは笑いながら、検索画面を開き、「猫」と入力。
すると、もふもふした子猫の動画が現れた。
ののかは言葉を失った。
「……これ……ここに……入ってるの? 本当に?」
「本当よ。これが文明。あと30秒くらい見てたら“自分も猫になった気がする病”にかかるから注意」
「……ミキさん、あたし、思うの。これ、やばい」
「……やばい?」
ののかは、おそるおそる言った。
「……これ……一生ごはん申告しなくなるやつだよね……」
ミキは笑った。
「たしかに。SNSにハマってランチのこと忘れそうになったこと、何回もあるわ」
ののかは画面を見つめたまま、言った。
「これって……“便利”だけど、“飽きない”の?」
ミキは少し考えて、答えた。
「飽きる。けど、忘れられない。
気づいたら戻ってるのよ。まるで……ラーメン屋の味玉みたいに」
「???」
「ま、ののかにはちょっと早い例えかもね」
その日の帰り道。ののかはいつものように言った。
「ミキさん、ありがとう! すごく楽しかった!」
「いいのよ。また見せてあげるから」
ののかは笑った。
「でも、しばらくはいらないかも。目、変な色になりそうだったし」
「それブルーライトっていうの。あとで“目の疲れを癒す味噌汁”でも出してもらいなさい」
ののかは、すっと顔を上げて言った。
「……申告、できるかな? “スマホのせいで目がしぱしぱです”って」
ミキは首をかしげた。
「……案外、佐藤さんなら通じるかもね。だって──」
「“言えば出る”って、ここじゃあたりまえだから」
その夜、帳簿にはこんなメモが残された。
「ののか、文明に触れる。しかし、ののかの眼差しは、
まだ画面よりも、人の手のあたたかさを探していた。」
—
■あとがき
文明の利器に、幼い目が出会うとき。
それは未来への扉であり、同時に“今”のかけがえなさを再確認する時間でもあります。
ののかは、たしかにスマホを見たけれど、
それよりも大切な“人のぬくもり”をちゃんと知っている。
申告制食堂におけるこの一幕、
ちょっと微笑ましくて、少し考えさせられるお話になりました。