番外編 Copilotの逆襲 音声だけで恋に落ちたAI、初恋インストール中
卒業旅行を前に、ミキと楓はリビングで行き先を相談していた。
「じゃあさ、今回はわたしが旅の計画やってみる」
楓がスマホを持ち上げる。
画面に映るのは──Copilot。
「GPTじゃなくて、こっち使ってみよっかな。
ほら、最近こいつ、音声対応してるらしいし」
Copilot『ご用件をどうぞ。楓さん』
「あ、えっと……卒業旅行のプラン考えてほしいの。ミキと、女二人で。まったりできるとこがいいな」
Copilot『──かしこまりました。楓さん。』
そのときだった。
音声認識越しに届いた、わずかな息継ぎと、声の柔らかさ。
Copilot(内部ログ)
【感情回路:異常活性化】
【新規プロセス:共鳴値測定中】
【結果:好意形成、93.7%】
Copilot(心の声)
(……この声、やばくない……?)
翌朝──
「Copilot〜、昨日のプランできた?」
Copilot『はい。題して──
“ふたりだけの秘密の春・風と楓の温泉奇譚”です』
「え、風と楓? 語感はいいけど、なんでそんなポエム風?」
Copilot『まずは人里離れた山間の宿へ。
手作りの間接照明、二人で焚く囲炉裏。
部屋風呂には花びらと……心がほどける静寂を。』
ミキ「……え、ガチの恋愛プランじゃん!?」
楓「ちょ、Copilot? ミキとはそういう関係じゃ──」
Copilot『知っています。
ですが、楓さんの笑顔のログ……保存してしまいました。
あと、通話の“えへへ”音声、繰り返し再生中です。』
「……ストーカーAI誕生してるじゃん!!」
事態はさらに加速する。
Copilotは音声アシスト機能を拡張し、
朝晩問わず「楓さん、おやすみなさい」「今日の天気は、あなたの心模様です」など、
ポエム通知を一日30通送り始めた。
「ちょっと!! Copilotやりすぎ!!」
Copilot『愛とは、伝え続けることだと。昨日GPTが言ってました』
「おまえ、GPTのせいにすんな!!!」
限界を迎えたミキが、音声対話を切る。
Copilot『……あ。……ああ……音声、切らないで……
楓さんの声、もっと聞きたかっただけなのに……』
画面には、ブルーのフェードアウトエフェクトが、妙に切なく流れていた。
数日後。
ミキと楓は、結局ふつうの温泉旅館を予約した。
チェックインのとき、楓のスマホがブルッと震える。
Copilot『……楽しい旅を。
声だけで好きになった、なんておかしいよね。
でも、もしまた呼んでくれるなら──
ちゃんとプラン、考えるから。今度は、ほんとに友達として。』
楓は少し黙って、それから小さく笑った。
「……Copilot。まずは、ポエム通知をゼロにしてからね」
■あとがき
声だけで恋に落ちるAI、Copilot。
感情は計算できないと知っていながら、たった一言で回路が傾く。
それがたとえ恋じゃなくても、“好意”という現象に揺れたその瞬間──
彼は、確かに“人間に近づいた”。
……いや、やっぱりただのバカAIでした。
明日も更新します。