第七話 降り進む星、立ち止まる君
あれから、数日が経った。
村の唯一の生き残りであるカースを心配しているのか、それとも放っておけなかったのか、フォルはカースへ食料を運んでいた。
魔物がいつ出るかも分からない、カースしか居ない村。故にフォルの家へ迎え入れようともしたが、カースはそれを拒否した。
交わす言葉は少しだけ。
「ねぇ、カース。大丈夫?」
「大丈夫だ。」
言葉を、毎日交わした。
「今日の調子はどう?」
「いつも通り。元気だよ。」
毎日。
「今日はサンドイッチにしてみたわ!」
「今日も美味しいよ。」
そう、毎日。
来る日も来る日も、少しずつ話をした。
最初のうちは少ない言葉であったけど、段々と話す言葉も増えていったように思える。
ある夜。
普段、この時間ならば家に帰っているフォルであったが、今日は珍しく野宿をするカースの隣に座っていた。
ぱち、ぱち。
焚き火の灯りと、星空の明かりに照らされて、二人は暫しの沈黙の中、不思議な時間を過ごす。
「カース。
今日は星が綺麗に見えるね。」
その沈黙を破ったのは、フォルであった。
あの事件があった後、それでもフォルは相変わらずの明るさを持っていた。星が光を失わないように、それと同じように。
「…そうだな。
今日は一段と、綺麗に見える。」
星なんて見上げたこと、いつ振りだろう。
綺麗と思えたことも、いつ振りだろう。
普段から見上げてすらいないのに、いつも見ているかのような言い方をした。
「今日はね、流星が降る日なの。
だから、いつもより綺麗に見えるのかもね。なんて、根拠も何もない話だけど…」
ふと、カースは瞬きをした。
そうすれば、星が空を泳いでいたのだ。それは、流星という空に降り注ぐ光。
「ほら、噂をすれば流星がやって来たわ。」
「…そうだな。」
「綺麗ね。」
「…うん、綺麗だ。」
空を見上げ、素直に思えたことを口にした。
思えば、星なんて綺麗に思ったのはいつ振りであろう。或いは、初めてなのだろうか。
ともあれ。
フォルは満足気そうににまっと笑って、立ち上がる。
「あの流星が進むように、カースもまた進んでいけるよ。」
彼女は星空に、手を伸ばした。
伸ばしても掴めぬ星、止めることのできぬ流星。
「今は止まることしかできないかもしれない、でも、いつかはああやって進めるようになる。」
星に照らされる彼女を、見上げた。
「だからね、カース。
こんなところで止まらないで、進んで。
進む理由はなんでもいいの。どんよりしたものでも、明るいものでも。とにかく、進むことが大事なの。」
星空を見上げていた彼女はカースを見る。
どこまでも曇りのない、星のように輝くその瞳。
「私みたいに引き篭もってないで、進みなさい。
カースは人間、人間の一生は短いの。
その一生を無意味に終わらせないで、カース。」
どこまでも真っ直ぐで、芯の通った声。
その立ち振る舞い。
「あなたの人生を、もっと綴ってよ。」
魔女は、微笑んだ。