第六話 業火の魔女
「あぁ、おまえは―――
先生の作品――お人形ちゃんじゃあないですか。こんなところにあったんですねぇ?」
「???
よく分からないけど、見つけたいものを見つけたみたいね?」
相変わらずキョトンとした表情を浮かべながら、フォルはカースへと近寄った。
「カース、カース。
大丈夫かしら?そんなに汚れて…ああ、わかった。泥遊びでもしたのね?そこの動物さんと遊んだのね?」
女と怪物には物ともせず、しゃがんでカースを見つめている。血で汚れたカースを見ても、汚れたと。異様なまでの反応を、フォルは示した。
「もう、だめよ。
こんなに汚しちゃ。そうだ、一度私の家に帰りましょ?汚れを落とさなくちゃ―――そういうわけだから、今日のところは帰ってもらってもいいかしら?」
そんなフォルの言葉が聞こえているのかいないのか、カースはずっと俯いたまま。
「…ひひ、そうですねぇ。
今日はお暇としてやりましょう。成果も得られましたし。
帰りますよぅ、魔獣ちゃん。
あの方に報告するのです。きっと喜んでくれるはず、いひ、そしたら私様を選んでくれるのですぅ…ひひひ!」
怪物―――否、魔獣は「はいぃっ!」と、怯えた声を上げながら女の方へ向かい、女の立つ屋根の上へと飛び乗った。
「最後にご紹介に預かりましょうか。
私様はトルチェ。
【業火の魔女】トルチェ・ルークス。
そこの人間にとっては忘れたくても忘れられない、特別な女のコになっちゃいましたねぇ?」
そう口にして、女と魔獣は後ろ姿を見せ、飛び立とうとした時。
「……てやる…」
「……?どうしたの?カース?」
男の、カースの、低い、低い声がトルチェの耳に止まった。
「殺してやる…
殺してやる、殺してやる、殺してやる―――!!
怒りを、怨みを、憎悪を滲ませた声。
振り返るトルチェに見えた、顔を上げ睨みつけるカースの悍ましい顔。
「―――アンタら魔女を殺し尽くしてやる!!」
「いひ、いひひひひ!
おもしれーじゃねぇですか、憤怒に燃えるその顔…!あぁ、でも大罪にはまだ及ばない―――けれど、覚えておく価値は十分に!
ええ、ええ、ええ!
いいでしょう、その憤怒を私様にぶちまけるその日を待ってやりますよ、人間!!」
魔女はひときしり笑って、笑って―――そうして、落ち着いたのか、また背を向ける。
「いずれお人形ちゃんを迎えに来ます。
お人形ちゃんがこの世界を知り、人間と繋がり、夢を咲かせ、自我を成長させた時―――それを全て壊してあげるべく。
粉々に、戻らないように、跡形もなく。
全部全部全部壊してやります!それまで元気でねぇ?お人形ちゃん♡
それと―――
なぁ〜んにも出来ない、哀れな人間。
言葉にしたのなら復讐しに来なよ?
もっとも、それが叶うとは限りませんけどぉ。
それまでの成長に乞うご期待!
精々満足させてくださいねぇ?すぐ壊れるおもちゃはつまらないですもん。」
「………。」
「行きますよぉ、魔獣ちゃん。」
「はっはっ、はいぃっ!」
魔女と魔獣は、この村を飛び立ち―――やがて、姿が見えなくなった。そうして、ようやくカースは涙を流したのだ。
「あ、あ、あ…あぁあぁぁあぁぁぁぁ――――!!!!!!!」
無力で悲痛な声だけが、村に残った。
それ以外は何もない、なくなったのだ、全て。