第五話 燃ゆる村、潰えた幸せ
生存者はいないかと、そう確認するよりも先に、気付けば自分の家へと走って行っていた。家族の無事が、何よりの最優先だったのかもしれない。
そうして、今。家の前に立っている。
否、立ち尽くしている。
「父さん、母さ…
あ、あ!……母さん!母さん!!!!」
瓦礫の下に埋もれ、まだ息をしている母を見つけるや否や、カースは母を押し潰さんとする瓦礫を退かそうと、重い瓦礫に手を付けるも、あまりの重さに瓦礫はびくともしなった。
「母、さん…
待って、今助ける、助けるから…!」
「カ、ース……
逃げて、ここはもう…」
それでも。
それでもと、カースは一生懸命に母を助け出さんとする、していた。
「おやおやぁ?なにをしているのですか?」
ふいに聞こえてきた、やけに気に障る声のする方を見上げる。
そこには、ミディアムの白い髪を靡かせて、楽しげに紅く光る眼光で見下ろす女がいた。
「なんっ…なん、だよ、アンタ…」
「助け出そうと必死になっているところ大変申し訳ないんですけどぅ、"ソレ"は私様のおもちゃなのでぇ…手出ししないで頂けますかぁ?」
「おも、ちゃ…?は?アンタ、何言って―――」
信じられない言葉を聞いた、というような表情を浮かべるも、彼女に構う間も母の命は危ぶまれていく。だから、母の方へ向き直し、その目はしっかりと母を捉えた。
捉えていた。
そうしたら、なにか黒いものが降ってきて。
「あ」
グチャ。
嫌な音が鳴り響いて、何かの液体がカースへ飛んできた。それと同時に、母親"だった"ものは角が一本生えた、図体の大きい怪物とも言えるナニカが乗ったせいで瓦礫に押し潰されていった、いたのだ。
「へ?」
突然の事だから、理解が追い付かないカースの表情は、理解してしまっていくうちに、段々と青ざめ…絶望と恐怖に染まってゆく。
「あ、ああ、あぁァァァ!!!!!!!!」
その場に力無く崩れ落ち、カースはただ泣き叫ぶ。目の前の状況を理解することさえ、未だ大人ではないカースには難しかった。否、大人であれど母を目の前で潰されて現実を受け止められるものであろうか。
「ちょっとぉ、私様のおもちゃだったんですよ!?
それを奪うなんて、立場を弁えていないのです?魔獣ちゃん。おしおきが足りねぇでしたかね。」
「ひぃ?!ごっ、ごめんなさい、ごめんなさい。
そんなつもりじゃなかったんですぅ、ただちょっと、降りようとしただけなんですぅ、悪気なんてなんてないんです、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい痛いのはいや、許して、許してぇ、赦してくださぁいぃぃ…」
「あ、あっ…なんなんだよ、アンタら…!
なんでっ、なん、でっ…こんな…!!!」
「なんでって、そりゃぁ――――」
嘲笑い、言葉を紡ごうとした時。
「カースッ、やっと追いついたぁ…
えっと、えっとえっと…これはどういう…?」
息を切らせ、困惑の表情を浮かべた場違いな魔女が訪れたのだった。