第三話 魔女の夢
それから、カースは話を聞いた。
彼女の知る魔女の姿を、彼女の目指す魔女の姿を、彼女から、魔女の話をたくさん聞いたのだ。
どれも前向きなものであった。
彼女の知る魔女の姿は、まるで英雄のようであった。困る人々を助け、魔法で幸せにしていくのだ。
彼女の目指す魔女の姿は、まるでアーティストのように世界を回り、魔法を掛けて人々を喜ばせていく、そんな姿。
村の人々から聞いていた話とは、正反対の魔女の話。カースはそれらを聞いては、魔女へのイメージが変わっていく、悪いものから、良いものへ、少しずつ、少しずつ…。
「カースのお話を聞くはずが、すっかり私の話になっちゃった!」
口の前に手を当てて、無邪気に笑うフォル。
それに釣られて、カースもまた笑うのだった。
ふと、外を見遣る。
日も落ち、すっかり暗くなってしまった外。
季節が冬ということも相まって、太陽は早くも隠れてしまったのだろう。
「もうずいぶんと暗くなってきたし、今日はここで泊まっていく?」
暗い森の中は魔獣の絶好の狩場。
この村の辺りには、危険とも呼べる魔獣はいないけれど、その提案を呑むのもまた良かっただろう。
けど。
何故か、胸騒ぎがした。
「いや…
大丈夫、みんな心配するからさ、帰るよ。」
「そう?
なら、私送るわね。夜の森は暗くて危険だわ、だから一緒に行こう?」
一人で帰るには心細い。
…というよりも、まず一人で帰れるのかすら分からない。ここに来る間の意識は殆ど無く、無意識であったから。
だから、フォルの提案は心強いものであった。
女の子に守られ安心するなど、男の子として情けなくはあったけど。
ともあれ家から出れば、すっかり暗くなった外になんとも言えぬ不安を覚えながらも、そういえばお互いに村の場所が分からないのではないか、とカースは口を開いた。
「ありがとう、フォル。
この森の近くにある村が俺の家…なんだけど、分かる?」
「来た道がわかんなくなっちゃったのね?
任せて、出来る魔女が解決してしんぜましょう!」
フォルの足元に、魔法陣が現れる。
明かりの沈んだ森の中に、フォルが生んだ光。
やがて、小さな光がフォルの肩に触れたかと思えば、それは来た時に見た蝶へと姿を変えていく。蛹から蝶へと成るように、美しく。
「この子が案内してくれるわ。
それじゃあ、行きましょ。」
先をゆく蝶を追いかけるように、フォルは一歩踏み出した。そのフォルを追うように、カースもまた底しれぬ不安を抱え、一歩を踏み出したのだった。