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23話 はーい!部屋の主はここでーす!

「……て。……様。アルーシャ様、起きてください」

「……んーう?」



やっと眠りにつけたと思った早々に体を揺り動かされて、アルーシャは顔を顰めながら目を開ける。

ぼやけた視界を凝らして見れば、ほんのりと明るい室内で、布団を掴んでくるキュリアが見えた。


「アルーシャ様、酷いわ。お布団を全部とるだなんて。私、寒くて目が覚めてしまったのよ?」

「…………」


知るか。


だったら別室を用意してもらえと内心吐き捨てると、アルーシャはまだ文句を言っているキュリアを無視して二度寝した。



次に目が覚めると、時刻は昼をまわっていた。

ソファで寝たせいで、体にはまだ疲れが残り、頭もすっきりとしない。

今日はベッドでゆっくり過ごそうと思い、アルーシャがソファから起きてベッドへ向かうと、そこには別の部屋から布団を持ち込んで眠るキュリアがいた。

頭にきたので、アルーシャはキュリアを足でベッドの端に押しやり、そのまま読書をする事にした。

まだ体の節々が痛いが、もう眠る気分ではなくなった。



「酷いわアルーシャ様。一緒に寝れば良いのに、昨夜はお布団を全部とって行ってしまうなんて。私、とっても寒かったのよ?」


『お前の方がよっぽど酷いよ。この体の軋みは誰のせいだと思ってんだ』



暫く後に目覚めたキュリアの一言に、アルーシャは彼女をベッドから蹴り落としたくなった。

人のベッドで大の字になって寝ておきながら、よく一緒に寝るなどと言えたものである。

ネグリジェから胸がチラ見えしていなければ、ロウフェイルトにしたように頬を引っ叩いていたところだ。


前側室たちとは別の理由で、中庭でキャットファイトをしてやりたくなりなったアルーシャだったが、前世の記憶のオッサンたちが悪ノリして洒落にならない暴れ方をしそうだったのでその考えを捨てる。

山賊の暴力は言わずもがなだが、漁師の喧嘩も結構荒っぽいのだ。


一方的に好感度が上がっているキュリアは、ただ一言不満を言いたかっただけらしい。

綺麗に布団を畳み、ベッドサイドにある自分のガウンを着たキュリアは、当たり前のようにアルーシャが読み終わった本を読み始めた。


帰り支度する気配も、侍女を呼ぶ気配もない彼女に、嘘だろうと見つめてみるが、キュリアは既に本の世界に入り込んでいる。

注意するか否か考え、そこまで面倒見てやる方が懐かれると判断したアルーシャは、彼女を存在しないもとのして自分の読書を再開した。





結局、アルーシャは何故か居座るキュリアと二人、1日部屋でのんびり過ごす事になった。

王子が面会にくるという知らせも、その気配も全くない。

キュリアが出て行く気配も全くない。

この女、一体いつまで居座るのだろうと考えていると、明日王子がキュリアの見舞いに来ると連絡がきた。


何故アルーシャの部屋に来るのか。

キュリアの部屋を新たに用意するのが先ではなかろうか。


あれだけ痛めつけたというのに、あの王子全く分かっていないではないか。

いや、疲れすぎて、何故手をあげたのかまで言っていないので、分からなかったのだろうか?

ロウフェイルトは何を補佐しているのか。仕事より先にそちらを補佐してはくれまいか。


恐らく、何か意図があってキュリアをアルーシャの部屋に置いたままにしているのだろうが、一切の説明がされないのはどういう事か。

王子はアルーシャを部下や侍従と勘違いしている気がする。

昨夜は、外見が完璧に好みだとか言っていたが、奴の行動は最初から好みの相手に対するものではない。


夕方、キュリアの事情聴取のために応接間を貸し、その間、キュリア用のベッドを運び入れるためにテラスに追い出されたアルーシャは、庭の葡萄をつまみに自棄酒を始める。

傍からは、夕暮れを眺めながら静かに酒を楽しんでいるように見えるが、今日の酒はいつもよりキツかった。




「お泊り会みたいで楽しいわ」


などと意味不明の言動をする居候キュリアが寝てから飲みなおして眠った翌日、王子が見舞いのために訪れた。

化粧で隠してはいるが、目の周りが貼れて痣になっているその御尊顔に、アルーシャは指さして笑いたくなるのを堪えて唇を噛む。

一緒に応接間でソファにかけるキュリアは、目が悪いのか頭が悪いのか、はたまた元々そういう顔だと思っているのか、王子の怪我に気づいた様子がない。

一緒に来たロウフェイルは何故か無傷だが、この男の事なので多分上手く逃げたのだろう。



「見舞いが遅れてすまなかった。事後処理が立て込んでいたものでな」


王子を殴れる立場となると、国王陛下か王妃殿下、あとは陛下の異母兄である宰相閣下くらいだが、一体誰だろうか。

しかし、誰であろうとこってり絞られたことは間違いなさそうなので、アルーシャは小さく深呼吸すると笑いをおさめた。

これで王子も少しは落ち着いてくれたら嬉しい。


そもそも、何だって国の中でも特に権威がある立場なのに、やる事が学院生みたいなのか。

遊ぶのは構わないが、時と場を選ぶくらいはしてもらいたい。

真面目なのは結構だが、普段から遊び慣れていないから、そこが分からないのだろうか?

だとしても、近衛や騎士を慌てさせるような遊びは勘弁だ。

そこら辺を注意するのも側近の役目ではないのかとロウフェイルトを見るが、彼はキュリアと会話している王子しか見ていない。


王子とキュリアは既に和やかな会話を始めていて、そこにある空気は平和そのものだ。

部屋の主そっちのけでよくやるものである。

同じ側室に居候をかまされている状況について、全く説明しないまま交流を深めないでもらえないだろうか。

王子もキュリアも、まずはこちらに詫びを入れろ、詫びを。



「……ほう。キュリア、そなたにそのような面があったとは、意外だ」

「あら殿下ったら、わたくしにどんなイメージをお持ちでしたの?」

「ロウフェイルト様、昨今の騒ぎとこの状況について、テラスで説明をいただけますか?」

「……承知いたしました。キュリア様へは、後ほど侍女の方へ連絡をしておきます」


「あ……アルーシャ、ロウフェイルト、すまない。キュリアとの話が楽しくて、すっかり失念していた。説明は今ここでしよう」

「楽しんでいただけて光栄ですわ。わたくしも、雲の上の存在である殿下と、こんなに楽しくお話ができるなんて、思ってもおりませんでした」

「お二人はどうぞここで交流なさっていてくださいませ。エリス、テラスにさ……お茶をおねがい」

「では、殿下、キュリア様、どうぞお楽しみくださいませ」



すぐにキャッキャと話し始めた二人に、アルーシャは心を無にして席を立つと、ロウフェイルトと共にテラスへ出た。

昼間っからやけ酒を飲みたくなるのを堪え、ガーデンチェアに腰を下ろすと、ロウフェイルトも疲れを隠さない顔で席に着く。



「王子殿下の御無礼、代わってお詫びいたします。殿下は、昔から強く興味を惹かれると、周りが見えなくなるところがおありなもので」

「私、殿下に強く物理で抗議しましたのに、ご自分の行動を顧みられなかったのですか?」


「アルーシャ様は、御褒美と言って殴られましたので、殿下は、アルーシャ様は人を殴るのが好きなのだと理解しておりますよ」

「心外もいいところですね。そこは、あなた方が教えて差し上げるべきところでは?」


「私は、殴られた頬が痛くて喋ることができませんでしたので」

「あら、それは大変でしたのね。ところで、今回の騒ぎについて、言えることだけでいいから説明をお願いします。もちろん、キュリア様を私の部屋に押し付けている理由も」



この男、本当は王子の事が嫌いなのではなかろうか。

人の部屋の中で楽しそうに話す王子とキュリアをちらりと見ると、アルーシャは隠すことなく大きなため息をつく。

エリスがお茶を持ってくるのが見えたので姿勢を直した彼女は、楽し気に目を細めるロウフェイルトを睨んで先を促した。



「残念ながら、現状側室の方々にお話しできる事は、そう多くございません。ただ、南西の海賊国家が、また懲りもせず我が国に手を伸ばしておりますので、その関係……とだけ」

「前の側室の方々が功を焦って海賊の口車に乗ったところで、驚きはしません。……ああ、でも、そうですか。今の側室たちも、まだ疑わしいままなのですね」


「幸い、皆さま潔白であるという証拠しかございませんので、そちらはご安心を」

「キュリア様に部屋を用意せず、私たちを後宮から出さない事も、それが理由?まさか、側室を餌に……だなんて、考えていないでしょうね?」


「何と……殿下の大切な奥方様がたを餌になどと、そのような大それたこと、私にはとても考えられません」

「………………」


「アルーシャ様、私にそのような疑わしい眼差しを向けないでくださいませ」

「…………」



ロウフェイルトは考えていなくても、他の人間が考えているという事か。

悪びれもなく言うその顔に、アルーシャは舌打ちしたくなるのを堪え、狸疑惑が発生した王子を見る。

もしそうだったら、いつか次兄と共謀して痛い目をみせてやると心に決めると、アルーシャは再びロウフェイルトへ視線を戻した。



「ご安心ください。側室様がたの御実家には、了承を得ております」

「では、私が一昨日の夜のように呼び出されて捜索を手伝った事や、真夜中のご訪問についても……?」


「ええ。事後承諾ではありますが」

「……そうでしたか」


兄よ……父よ……やってくれたな。


流石のアルーシャも、この側室とは思えない雑な扱いが、実家公認だとは思わなかった。

道化を求められて後宮に入った以上、多くの情報を貰えないのは止む無しとしても、もう少し何かやり返してやりたいと思う。

王子とロウフェイルトを殴るだけでは足りない。

今日からはもっと高い酒を飲んでやらねば。


実家に関しては、とりあえず次の手紙で、母と、次兄の婚約者に、父と兄が隠している春本のありかをバラしてやると、アルーシャは決めた。

次兄をクールで異性に興味がない男だと思っている婚約者が、実は次兄がとんでもねえムッツリスケベと知ったらどうなるか、とても楽しみである。

父と母は勝手にどうにでもなればいい。



「実家の事は分かりました。では、長兄ヴァイツァーは、あの後どうなったのでしょう?」

「上官への暴行のため、1週間の謹慎となりました。ただ、第1騎士団の団長は、アルーシャ様への不敬により、南の塔へ送られました」


「そう。王妃殿下は私への協力は命じていても、不敬まで許可はされていませんものね」

「ええ。どちらにしろ、第1騎士団団長はそろそろ任期が終わる予定でしたから、混乱もございません」


「では、宰相閣下は予定通り、第1騎士団に戻られるのですね」

「元より、陛下も閣下も、5年というお約束でした。後任も、既に決まっております。内務の者達で引き留めたがっている者はおりますが」


「そうですか。私もお役に立てたようで、何よりです」

「…………」



既に解任が決まっている第1騎士団の団長を、わざわざ側室を使って捕まえさせたのだから、間違いなく何かあるのだろう。

有用に使ってくれているようで何よりだ、と、内心で舌打ちと共に吐き捨てると、アルーシャは少し冷めたハーブティーに口をつける。

お茶請けの果物を食べているロウフェイルトは、よほどお腹がすいていたのか、トレーの上から果物ナイフを取ると大きな果物の皮を次々とむいていた。

ナソド王国のお茶に出されるのは基本的に果物で、食べたい人が自分で皮を剥いて切るのが標準スタイルなので、トレーにナイフがあるのは普通の事だ。

元々精霊の国だったので、お茶会の形式も自由気ままなのだ。

外国のスタイルでのお茶会では、一口サイズのお菓子が配られたり、給仕が焼き菓子を出したりするが、自室での軽い話し合い程度なら自国スタイルになる。



「ロウフェイルト様、もしや、お食事をなさっていらっしゃらないのですか?」

「ここ暫く、立て込んでおりましたので、このようにゆっくりとした時間は久しぶりでございます」


「……私は結構ですから、全て召し上がってくださって結構ですよ」

「ありがとうございます」



飢えて求める者の口には果物を差し出そう。

飢えず求める者の口には砂を流し込もう。


そんな過激な歌詞がある国家の国民であるアルーシャは、目の前で腹を空かせているロウフェイルトに眉を顰めるでもなく、追加の果物を摘みに椅子を立つ。

庭の隅にある籠を手に、庭の木から大きめの果物をとって戻ると、ロウフェイルトは礼を言って差し出された果物に手をつけた。


アルーシャなら既にお腹が苦しくなる量を食べているのに、ロウフェイルトはペースを落とすことなく次々と果物を口に入れていく。

それなりに体を鍛えている男性……と、体つきを見て思っていたが、彼は親族の殆どが軍人な北方将軍の息子だ。

元々食事量は多いか、食べ溜めが出来る人なのかもしれない。


部下をここまで飢えさせるとは、王子は何をやっているんだと、アルーシャは室内へ目を向ける。

相変わらず、王子はキュリアと楽しそうに話しているが、場所はソファがある応接スペースから食事用のテーブルへ変わっており、その上、何だか暖かそうな食事をしていらっしゃった。


そこ私の部屋なんだがなぁ!?


キュリアが勧めたのか王子が勧めたのか知らないが、いや、王子の許可があったのだろうが、部屋の主を外に追い出してよくもやってくれたものである。

ニッコニコのキュリアと、死んだ目で給仕している彼女の侍女の顔のコントラストがある意味傑作だ。

一応部屋に控えているアルーシャの侍女は、当然だが無表情だった。


流石にこれは許容範囲外なので、アルーシャは傍に控えていたエリスを呼ぶと、王子との会談が終わり次第キュリアの荷物を廊下に出すよう指示を出す。

口出しせずに果物を食べ続けるロウフェイルトに、これもお前らの狙いだったのかとまた苛立ったアルーシャだったが、彼がたいらげた果物の量を見ると哀れみを感じたので、文句を言うのはやめた。



「殿下はキュリア様をお気に召したようですね。ロウフェイルト様から、今夜にでも渡られるよう仰ってみては?」

「廊下で眠る側室に渡るなど、あり得ません。それに、アルーシャ様が思っているほど、殿下はかの側室殿をお気に召してはおられませんので。少なくとも、最初にお渡りになる方にはなれませんね」


「そこまで好いていない側室のために自室を追い出された私って、一体なんでしょうか」

「大切な協力者……と、思っておられるようですよ」


「程よく重要な駒でございましょう?……ロウフェイルト様、私の部屋は安全という事で、よろしいのかしら?」

「アルーシャ様は、お話が早くて本当に助かります。既に側室様方のお部屋に通じる通路は塞いでおりますので、本日からは、安心してお休みくださいませ」


「でも、キュリア様は廊下で寝るのね」

「他の心優しい側室様方が受け入れてくださるでしょう」



この国では、いつから側室が王族の子を産む者ではなく、あぶり出しの道具になったのか。

食べ終わって口元を拭くロウフェイルトを見ながら、アルーシャはお茶のお代わりを入れ、ふと、過ぎった予感に手を止める。



「まさかと思いますが、今夜皆様がこちらにいらしたりする気は……」

「ご安心ください。今は仕事が立て込んでおります」



来ないって断言しておくれよ。

忙しいと言いながら、何故かわざわざ後宮にある人の庭に来て晩酌の邪魔してくる王子だぞ。

書類を手にしてる側近も無視して長々愚痴を零していく王子だぞ。

どこに安心できる要素があるのか詳細に教えておくれよ。


今日から窓に鍵をかけて寝室で晩酌をしようと決めると、アルーシャは王子たちの食事の終わりを見計らって席を立ったロウフェイルトを見送る。

テラスから戻ってきたアルーシャとロウフェイルトに悪びれる様子もなく、頬を染めて王子を見送る居候。

王子たちがアルーシャの部屋を後にし、食事の片づけが終わると同時に、アルーシャは近くにいた騎士達を巻き込んで、居候とその荷物を中庭に出した。





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