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タイガー、タイガー、ジレッタイガー!

 駄菓子屋は今にも閉店しそうだった。太陽は落ちて、月の光が増す時刻、店の中には白髪の老婆がいた。センゴクは壁を背にして、片手にはパンツを持ち、片目で店内を覗き込んだ。

 明らかに変質者以上だった。

「すみません。石仮面ありますか?」



「はあ?」当然の反応。かた



「石仮面」



「はあ?」



「えーと、ですね。なんというか――ジョジョです」

 ストレートだった。

「はあ、ジョジョ……ビートルズのゲットバックかい?」

「近い! 近いです。それが分かれば完璧です」



 そうか? つーか、最近パロディネタばかりですね。申し訳ない。



「残念ながら、石仮面は無いよ――でもね……」

「こ、これは……」

 センゴクは武器を手に入れた。これであのイノキを殺すことも出来るだろう。



 イノキはアッシュに騙されていることに気付いた。センゴクの本名が郵便受けに無かったのだ。つーか、アッシュに教えられた住所は床屋だった。イノキはこの木造二階建築を見て、もしかしたら一階が床屋だから、二階にセンゴクが部屋を借りているのかと思った。



 いや、有り得ない。



 二階のベランダにはブラジャーが干してある。あんな所にブラジャーを干していたらセンゴクは盗んでしまうだろう。イノキはそんな気がした。



 いや――もしかしたら盗んできたのかもしれない。



 イノキは頭を抱えて唸った。床屋から店員さんが不審げな眼で見ているが、イノキの殺気の込めた睨みで引っ込んだ。



 分かった。ここじゃない、何故なら――。



 あいつだったら盗んだものは洗濯をしないはずだ!



 一方――センゴクの手にはアッシュのパンツが握り締められていたのだった。



 正解。



 イノキは舌打ちをして、自分の敷地をアピールするように区切って建っているフェンスに、電信柱を使って登った。そして、そのまま平屋の建物の屋根に登った。センゴクの猫のような動きを見た後だと鈍く見えるが、それでもかなりの早さだった。



「南斗鳳凰拳奥義天翔十字鳳!」



 イノキの目の前に裸体が飛び込んできた。瓦屋根を転ぶように転がり、受身を取ってスッと立ち上がった。残念ながら叫んでいる技名が長すぎて、イノキは簡単に避けてしまったのだ。

 センゴクは片足でブレーキをかけた。瓦が次々とずれて、下に落ちて割れた。

 センゴクがイノキの方を向いた。



 虎の被り物をしていた。タイガーマスクだった。



「何しているの?」

「何のことかなお嬢さん。これは僕の顔だよ。グインだよ」誤魔化そうとしていた。

「グリーンだよ?」

「グイン!」

「グインは豹頭だろうが!」



「そんなことどうでもいいだろ! 知らない人は知らないんだから黙っとけよ!」



「どうでもいいだと?」



 イノキは屈伸を始めた。イノキはグイン・サーガのファンだった。何事も〇〇のファンを怒らせることはしないほうが良い、だいたい大変な目に合う。



 イノキは右腕を胸の前に伸ばし引いてから、左腕を胸の前に伸ばし引く、股間の前に右左のパンチをして、両手の拳を合わせて、両腕を広げて胸を張った。そして、飛び上がった。



「食らえ! 究極! ゲシュペェェェェンストォォォォォキィィィィックッ!」



 センゴクの右胸部にイノキの蹴りが決まった。だがイノキは右足首を掴まれた。センゴクの後ろには屋根は続いていなかった。



 まずいと思い、イノキはセンゴクを掴もうとした。



 普通の反応。



 だが、センゴクはイノキを殺す気だった。



 犯罪者の反応。



 何故、センゴクは仮面が欲しかったか? 答えは簡単だった。顔を隠して、イノキを殺すつもりだったからだ。センゴクは自分の名誉を守ることしか考えていなかった。これで捕まったら、ロリコン扱いをされて、一生を棒に振ることになってしまう。



 その思いが奇跡を起こした。



 こんなので奇跡を使って良いのだろうか?



 センゴクは優しさを見せたイノキのスキをついて、右腋でイノキの首を絞めた。



 つまり、背中側にイノキの頭がある。



「△@*■☆〇!」イノキは声にならない悲鳴を上げた。



 チーン。バイバイ、イノキ。



 大丈夫、コメディだから死にません。



 どすーん。ひらがなで表現をするのがはばかれるぐらいのグロテスクな音を出し、二人は庭に落ちた。



 センゴクは自分の尻を擦った。気持ち半分痛みを取り除くと、額から血を流して頭から煙を出しているイノキの上に乗っかった。腋を持ち、くるりと仰向けにさせて、両腕を腋の下に差し入れて運び出した。



 当然、助けるつもりは無い。この家は民家だったので、人のいないところに移動をしようとしていたのだ。センゴクはイノキの胸が当たるのを意識しながら、この胸を触るのは俺が最期になるのかと涙が流れる思いだった。



 書いてて思うけど、コイツ鬼畜だな。



「う、うーん」イノキが唸りだした。



 センゴクは両腕をイノキの首に絡めた。



「セ、センゴッ……」



 正気に戻ったら大変だ。今、殺すしかない。



「おまわりさん! こっちです。裸のタイガーマスク(デブ)が庭にいます」声の主は二階の窓からセンゴクたちを見下ろしていた。騒ぎを聞きつけたらしい。



「(デブ)とかつけんな!」

 センゴクは吠えた。

 そしてセンゴクはイノキの首を絞めながらこう囁いた。



「黙っていないと、殺す」



 イノキは首を縦に振り続けた。同級生にこんな危険人物がいたなんて、しかも自分がこんなやつに好意を持っていたなんて口が裂けても言えなかった。だから前回、顔を隠していたのを見て、体格とたたずまいだけでセンゴクと分かったのだった。



 センゴクの恋愛フラグがたった今消えた。



 ここまでやって、やっと消えたところにイノキの凄さがあるといえばあった。



「いたぞ、このデブ猫!」

 おまわりさんが警防を持って、センゴクに近づいてきた。

「フーッ! フーッ!」センゴクは威嚇をした。多分、デブといわれて怒っているのだろう。こういうアホっぽいところがイノキに好意をもたれたところなのだが――もう遅かった。

「このクソねこっ!」

 おまわりさんの持っていた棒を軽く避けて、センゴクは逆方向のフェンスに向かって飛んでいった。普段なら楽々登れるのだけど、センゴクはさきほど落ちた時に足を少し痛めていて、飛距離が足りなかった。



 フェンスにドゥゥゥゥゥゥゥン!



 コンクリートブロックのフェンスは鉄筋を入れていなかったようで簡単に崩れた。センゴクは立ち上がって唖然としているおまわりさんを見た。センゴクは鼻血をドクドクと出しながらこう言った。



「I will be back」

「発音良いな――って色々違うだろ!」

「戻ってきますから今は逃がしてください嘘だけど」

「さりげなく嘘だけどとか言ってんじゃねぇよ」

「嘘だ――――!」

「待て、こら。って、早いな、デブ!」

 まだまだセンゴクは逃げ続けるのだった。

今回のパロディネタ:ターミ〇ーター、ジ〇ジョ、グイン〇ーガ、北〇の拳

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