薄汚い契約
センゴクは、これからクラブ活動がある日暮と別れ、アッシュと一緒に駐輪場に向かった。貧乏学生どもは二輪駆動に魅せられるのか、駐輪所は箱につめたように自転車と原付が並んでいた。
「私の愛車はどこだ」愛車=自転車。
「甘いな、アッシュ。俺なんてたたずまいで分かるぞ」
長年乗っているとどんな数の原付からも自分の原付を見つけることが出来るのだ。
センゴクは本当に簡単に見つけて、とっととヘルメットを被り、エンジンをキックペダルでつけた。アッシュはいまだに自転車を探していた。
「おかしいな。センゴク、一緒に探してよ」
センゴクは座りながら、両足を動かして原付を進ませてアッシュの近くまで来た。センゴクもアッシュの自転車は知っていたので直ぐに見つかると思ったが、一通り見渡しても見つからなかった。
「あっ、あるじゃん」
センゴクが指を指した先は駐輪場を囲っているフェンスの外だった。
「い、いじめだー!」
「いい気味だ」
センゴクはぼそりと言った。その言葉に反応したアッシュが裏拳を回してきた。
それをセンゴクは――スロットルを回して原付でアッシュを軽く轢いた。
「殺す気かっ!」
「俺が原付を発進して無ければ、俺の首が持っていかれていた」
センゴクは真面目な顔をしていった。
アッシュが小さなフェンスの前に立った。
「何している?」
「こういうのって女の子にさせる?」
茂みの中に自転車があった。虫とかゴミとかプンプンしてそうだった。
「普通はさせないだろうね」
「あっ、エロ本がっ!」
センゴクは素早く原付を止め、シートを土台にフェンスを軽く登った。センゴクは太ってはいるが、運動神経はかなりに良かった。これでも昔はスポーツマンだった。
「エロ本じゃなくて、BL雑誌じゃねえか!」
今流行のホモ顔のアイドルのような二人が、愛し合っている表紙だった。
「相変わらず早い、天は二物を与えたね。太っていることと、運動神経が良いこと」
「馬鹿にしているのか。まあ、実際は俺にはイチモツしかないけどね」
「えっ?」
「いいえ、なんでもないです」
センゴクは茂みから自転車を取り出した。軽々と持ち上げると、フェンスの上越しにアッシュへ渡した。戦利品であるBL雑誌を駐輪場に投げてから、センゴクは戻ってきた。
「それもって帰るの?」
「ああ、薄目と俺の脳内補完を使えば、男も女に見えるってもんよ……どうした?」センゴクがアッシュを見ると、アッシュはプルプルと震えていた。
「私の自転車のサドルが無い」
アッシュの自転車のサドルが無かった。
「あー、サドルね。原付に乗っているとき、自転車で登下校する女子高生をよく見るけど、時々パンツで直に座っている人がいるよね。ああいう時、思うよね――一日でいいからサドルになりたいと」
「黙れ……お前だな?」
「何で、俺なんだよ。俺だったら目の前で盗って、サドルで股間をこすり始めるよ。目の前じゃないと、面白くないじゃん」
「それもそうか」
なんか嫌な納得の仕方だった。
「畜生、いったい誰だ」
「しかもサドルだけという悪質さ。お前の魅力は下半身にしかないといわれたような――」
「もんじゃない!」
「この自転車でどうやって帰るんだ? 立ちこぎでも良いだろうけど、もしも忘れて座った日には開発されてしまうぞ」
「そんなに上手く刺さるか!」
ツッコミどころが違うような気がする。
「俺に良い案が浮かんだのだが、ヘンリーのオシンをその棒状の金属に挿してその上に座れば大丈夫。もしくは、ヘンリーを挿す」
この場にいないのに散々な言われようだった。
「まだ、学校にいたの?」ジョーダンが女よりも可憐な表情を浮かべながらやって来た。
「あっ、ジョーダン。先に帰ったんじゃないの?」
「俺は友達が多いから、日暮じゃなくて、違う人に教えを乞うていたのだ。って、その自転車は少しハードすぎるだろう。十八禁だよ」
「そうなんだよ。ただでさえ処女なのに恥ずかしくないのかね」
「お前は童貞だろうが!」
「偉大な先輩、宮沢賢治がいるから怖くないもん!」
「つーか、処女なんだね。アッシュって」ジョーダンが感心したように言った。
二人は知らなかった。ジョーダンは口が軽く、男友達(愛人)が多いことを。後に、アッシュの処女が知れ渡ることによって、大学内に騒動が起きる。
「ああん。どうすればいいんのん」
「封神演義の妲己かよ、気持ち悪い喋り方するな」
センゴクは反撃に警戒してアッシュから離れて、ジョーダンへ話しかけた。
「ジョーダン、とある昼の番組で罰ゲームとして出ていたセンブリ茶って、聞くたびにエロいと感じないかい」
「おい、話をそらすな」
「なんだよ、アッシュ。何をすればいいんだよ」
「サドル買って」
「何で」
大学の近くは在学生が多く住んでいるので、床屋、クリーニング店、本屋、スーパーなど小さな店がまばらにだが集まっている場合が多い、この大学もその例に漏れず近くに自転車屋があるのだ。
「買って欲しいから」
「頼む態度がおかしいだろ。おっぱい出せや」
「私の家を使ってもいいっ!」
薄汚い契約が二人の間で交わされ、熱い握手を交わした。