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アルハラ・ワンダーランド

「たるんどる! すべてがたるんどる。腹がたるんどる! 起きろぉ!」

「うるせぇぇ!」

 センゴクは布団から飛び起きると、妹に蹴りを入れて転がし、飲みかけのサイダーをぶっかけて、紙コップを投げつけた。

「妹にぶっかけるなんて……破廉恥な」

「今日は朝から飛ばしているな。どうした……さては彼氏が出来たな?」

「その反応……やっといつものお兄ちゃんに戻った。あと、かぎ括弧も戻ってきた」

 センゴクは起きて伸びると、上着を脱いでパンツ一枚になった。そのまま体重計に乗って、その数値をカレンダーに書いた。カレンダーを見ると、順調に体重が減っている。今日は飲み会だから、一食減らしてトントンにしようと考えているようだ。

「お兄ちゃん。いつものノリで軽快にボケてよ」

「はあ? なに言っているんだ。お前?」

「いいからいいから」



「らむりんのお母さんならいける」



「……微妙」

「ハードル上げるからだろ。あっそうだ。どうでもいいけどさ、しまじろうにドット、からくさ、ペイズリーっていたじゃん。あいつら出なくなったよね。時代を感じるよ」

「……観てないし」

「観てないの? 駄目だぞ。子供向け番組は見ないと。一応言っておくけど、忍たまとおじゃる丸とまいんちゃんの大学生の視聴率は80パーセントを超える」

「クインテットとぜんまい侍、無視かよ」

「ぶっちゃけ、まいんちゃんよりミミカの方が面白かった。黒いところが好きだった」

「それは作者の趣味だろ」

「忍たまの腐率ぱねぇ」

「……好きなキャラは?」

「いたいのとんでん」

「……」

「……」



「ああ?」



「いえ……なんでもないです」

「さて……今日の飲み会の為に……酒買って来るかな」

 センゴクは妹の目の前で服を着替えた。

「少し積もっていたよ」

「大丈夫、大丈夫。それじゃあ行ってくるから」

 センゴクは厚着をすると、玄関から外に出た。しばらくすると、原付のシートを閉じる音がして、エンジンをかける音がした。アクセルをかけたようで、進む音がした。



 ガギャギャギャギャギャ!



「えーと、今日の教訓。

 最初にですね。原付は冬タイヤに変えておくこと。タイヤ交換代をケチったら俺みたいになります。

 次にですね。死を覚悟すること。雪道は危険ですからね。

 次は、自信過剰にならない。誰にでも死は来ますからね。

 これが一番大事なことですが、雪が降ったら原付に乗らない。これを守れば原付で事故を起こすことは無いです」



「大丈夫?」

 センゴクは凍った道を転がり、フェンスに激突していた。原付も同じように転がっているが、無傷だった。道に積もった雪には足で踏ん張った跡が残っていた。

「少し頭打った」

 センゴクはヘルメットを取ると、視点が合わないのかジッと正面を見つめている。立ち上がり、原付を立ち上げて、駐輪場まで戻った。

「雪にプラス雨なんて聞いてないぞ」

 天気は雪から雨に変わっていた。路面がかなり不安定になっていたようだ。



「ということで、こうなりました」

 センゴクは妹を連れて買出しに行った。

荷物持ち「なんで私が――って荷物持ちってつけてんじゃねぇよ」

「少し黙っていろ」

 センゴクは雨が降りしきる中、自分だけに傘を差していた。妹ちゃんは全身に水滴をつけて寒そうだ。妹はしきりに兄を睨んでいた。

「酸性雨で毛根が死ぬ~。死んだらお兄ちゃんのせいだからね」



「なんで俺がお前の毛根の全責任を持たなきゃならんのだ」



「酸性雨だよ? 森だって枯れるんだよ?」

「うるせぇな。だったら帰れよ」

「ここで帰ったらこのくだりの意味がなくなる」



 なんだかんだでスーパーにつき、酒のコーナーに到着。

「やはり、とりあえずビールだな」とセンゴク。

「聞いた話だと、ビールが嫌いな若者が多くなっているって」と妹ちゃん。

「何を言っているんですか? それはマスコミュニケーションの情報操作ですよ。まずテーブルを囲み、コップにビールをついで行くんですよ。それで、時計回りに飲んでいくんですね。当然一気ですよ。え? アルハラ? 飲めねぇやつは俺たちの飲み会に来ないから別にいいんだよ。ぐいっと飲んでよぉ、喉に詰まったりしたら――粗相だよね~、またついでよ~ぐいっと行くんだよ。まあまあ、俺たちの場合、ウオッカさんをぐいっと行くんだけどね。吐いたときの酒精が飛び出るような感覚、お前にはわからんかね~? 基本、飲み会ってのは、殺し合いだから、楽しいとか思ってんじゃねぇぞ! ど素人が! 最初に寄せ集めた一人千五百円分くらいの酒が一時間半でなくなるのは常識なんだよ!」

 妹ちゃん=がくがくぶるぶる。

「それでよ、雑魚どもは床で寝始めるのさ、手にはコンビニ袋か、ビニール袋かしらねぇが、ゲロ袋を持ってよ。だいたいのやつらはさ、ゲロを床にはいちまってよ。歩くたびにネチャネチャ踏んじまうし、油断していると服のままで風呂に入っているやつはいるし、火にウオッカかけて炎上させて死にかけたこともあるし、外を奇声をあげながら走るやつも現れるし、網戸吹っ飛ばすやつもいるし、ついでにガラス窓を全部蹴り壊すやつもいるしそのついでに大怪我したりもするし、使い古したテンガを投げつけてくるやつもいるし、関節外されたこともあるし、タバコの火を消そうとして親指をつかって火傷するやつもいるし、しまいにはオナニーし始めるやつも出てくるし、二時間くらい近くの河原を遭難したやつもいるし、しまいには急性アルコール中毒になるやつもいるし救急車も来るし、何でも出てくるからね! 俺たちの飲み会は魔窟だよ?」

「こ、怖いです」

「悲しいことに、全部実話と言う」



「フィクションって言っていたほうが良くない?」



「…………………フィクションです。ウオッカを火に注ぐなんて馬鹿なことをするはずが無いじゃないですか、かるい火炎瓶みたいなものですよ? 一メートル以上の火柱が出来たとか口が避けてもいえねーし。はははははは。そのほかも全部創作ですよ。はははははは」



 となんだかんだあり、買い物を終えたセンゴクたちは帰宅した。

 そして、この飲み会に参加する勇者たちをセンゴクは玄関の前で待ち続けた。



 ピンポーン。



 そして、最初の一人が現れた。

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