結果、ハーレムになった。
アッシュはヘンリーの部屋に素早く入り、持ってきた白いビニール製の手袋をつけた。万が一にも指紋を残さないようだ。
アッシュの目の前には南側の絶好の窓があり、床一面が輝いている。右手にはベッドがあり、左手には勉強机がある。
アッシュはとりあえず、勉強机の上にあったパソコンを起動させた。
アッシュは勉強机の引き出しを開けて、棚の下に手を伸ばした。楽々そこにあるものを掴んで、ベッドに放り投げた。エロ本だ。
本棚の前に立った。背表紙が綺麗に並んでいる。
アッシュは本の裏側を覗いた。普通の漫画が並んでいる。
「見つけた」アッシュは小声で言うと、奥にあった漫画を無造作に取り出した。
普通の少年誌の漫画だった。
中身を開くと、制服姿の女の子が頬を赤くしている漫画だった。
ヘンリーはカバーを変えていたようだが、奥にあった漫画の中で一つだけ違う漫画で、それに少しだけカバーに癖がついていたので分かったのだった。
この漫画もベッドの上に捨てられた。
アッシュはベッドの上に乗ると、枕の下を調べた――空振りだ。
ベッドと壁の隙間に手を伸ばして、エロ本をさらに回収した。
ベッドの下に潜り込み、例のものを見つけた。
「だいたい秋せつらの糸が分かる読者どれくらいいるんだよ」
アッシュがぶつぶつと文句を言いながら、糸をライターで炙り始めるがいっこうに燃えなかった。設定どおりの最強の糸だった。
仕方ないのでアッシュは自分の鞄に秋せつらの糸を押し込んだ。
さて……と言いながら、アッシュは一息をつくと、エロ本を探すと同時に作業していたCD、DVD,USBメモリー、ハードディスク等の電子媒体を回収したのだった。それも糸と共に鞄にぶち込んで肩に担いだ。
起動したパソコンに持参してきたUSBを挿して、とある画像をパソコンに移した。そしてそれを背景に設定した。そして、シャットダウン……。
扉の奥から足音が聞こえた。
即時にベッドの下に飛び込んだ。
ヘンリーが欠伸交じりに部屋に入ってきた。部屋の異変には気づいていないらしい。
アッシュはベッドの下にいるのでヘンリーの足しか見えなかった。つま先が持ち上がり、踵で着地した。その場所は本棚の前だったので、ヘンリーは本棚の上から何かを取り出したようだ。足が回転して、つま先が見えた。そのまま、ベッドの傍まで来て、ベッドが音を立てて軋んだ。どうやらヘンリーはベッドに座ったようだ。
ズリッ!
アッシュの目の前が暗くなった。
目の前にはズボンと柄の悪いパンツがあった。
コイツ! オナニーする気だ!
しかもアッシュが回収したエロ用品をすべて回避するという奇跡付きだ。
(あぎゃああぁぁぁぁ! セッちゃん、助けてぇぇぇ~)
~その頃、センゴクは~
「ひ、酷い目にあった。なんなのさ、野良猫のチートぶりなんなのさ」
「まっひゃふひゃ(まったくだ)。あいひゅらふぅよふぎりゅ(あいつら強すぎる)」
イノキも力士と海賊傷の野良猫にボコボコにされていた。
イノキの妹によって、二人とも見つけられていなかったら明日の朝まで死線を彷徨っていただろう。そのイノキの妹はセンゴクに背負われて、後ろからついて来る姉の膨れ上がった唇を触って遊んでいた。
「クソ姉貴チャッチャと歩け」
センゴクは河原を散歩していた犬から首輪を強奪すると、姉貴の首にそれをかけた。センゴクは野良猫にボコボコにされた後、あまりに腹が立ったので、姉を捕まえる時に容赦をしなかった。センゴクは姉の頭をぶん殴って捕まえたのだった。
姉は黒のタイツの所々に穴を開けていた。穴から見える肌は枯れ木や雑草によって傷ついたらしく、痛めつけたように血が植物の汁と共に凝り固まっていた。靴は履いておらず、足裏が黒々と汚れており、膝も同じように汚れている。
センゴクは言うことを聞かない姉を首輪で無理やり引っ張るので、姉は時々「ぐぅっ」や「かはっ」と苦悶を洩らした。首が絞まった拍子に全身を震わせ、口の端から唾液が流れる。口から漏れた液は輪郭を沿って顎から地面に落ちた。
赤い眼鏡はまだかかっている。長い黒髪によって遮られているが、伺うように弟に目を向けているのが分かった。リクルートスーツが自然と垂れ下がり、熟した胸の谷間が見える。歩くたびに、成熟した尻が柔らかく揺らぎ、贅肉のついた太ももがスカートから垣間見えた。服と肉の間に陰が落ち、再び明かりに晒される。エロティックな反復運動のようだった。
陰惨な外見とは裏腹に彼女の内面は純粋だった。脱ぎたくなるような熱が肉体に灯り、染み出すように塩辛い液体が現れる。玉のような汗が、彼女の目元に入り、白い部分を赤く染めた。弟が引っ張る首輪が締まり、彼女は嗚咽して舌を軽く出した。涙が自然と流れた。息が荒くなる。呼吸を整えようとする前に、弟が首輪を引っ張るので休む暇も無い、気のせいか歩くたびに擦っていた太ももの内側が汗ばんできた。数日つけたままの下着が、乳酸の溜まった汗でぐっしょりと濡れた。
(セ、センちゃん……痛いよ……もっとゆっくりして)
言葉として出てこなかった。声が出ないのに驚いていていたら、腕捌きを間違えて顔から地面に突っ伏した。不自然な格好倒れてしまい、桃尻がすべてを受け入れるように突き上がった。そのまま動けそうも無かった。
「姉ちゃん! 大丈夫か?」
弟は姉のだらしなく上がった尻のせいでめくりあがったスカートを直した。自然と下着を見てしまったが、何も言わず目を伏せるだけだった。センゴクは力ない姉のわき腹を掴んで、裏返した。左腕を姉の尻に当て、右腕を腰の部分に当てた。ゆっくりと姉を持ち上げた。
「……何かエロくない?」イノキが言った。
「気のせいだろ」センゴクは姉をお姫様抱っこ+イノキの妹を背負うと、軽快に歩き始めた。
アッシュのターン。
ヘンリーが部屋から出て行った。
アッシュはベッドから素早く出ると、窓を開けた。手入れのされていない庭が広がっている。いつでも逃げることは出来る。
咽ぶほどのイカの異臭が部屋を充満している。
アッシュは鞄からエロ本を取り出すと。左右に引き裂くように引っ張り始めた。
「死ねええええええ」小声で毒ついた。
見事引きちぎると、エロ本からページがバラバラと飛び散った。それをアッシュはビリビリト破り、部屋の中に散乱させた。CDを取り出して、折って捨てた。DVDを粉々に砕いた。USBを壁に埋め込んだ。
アッシュの怒りは収まらなかった。世にもおぞましい物を目撃してしまったのだ。当分、夢に出てきそうだ。部屋の中に置かれていた電話の子機を取り、窓から外へ飛び出た。すばやく庭から脱出して、電柱の影に隠れた。そして、電柱に張っているチラシを見て、アッシュは電話をした。
~その頃、妹ちゃんは~
日暮と一緒に大学の食堂にいた。
「……風の白猿神ってさ、いつになったら続き出るんだろうね?」
「ニャー」
ライトノベルの会話をしていた。
「むーっ、そんなに話したくないなら別にいいけどさ。あっ、これ食堂のクソがつくほど不味いカレーだけどさ、食べてよ」日暮は新品のカレーをセンゴクの妹の目の前に置いた。
「サノバビッチ!」
妹はカレーを猫パンチして、床に散乱させた。
「猫はタマネギが食えねぇんだよ!」
「あっ、直った」
「ううっ……僕のカレーが」
アッシュのターン。
アッシュは自分の形態のアドレス帳を見てどんどん電話をかけた。しばらくして、もうネタが尽きてしまったので、木陰に隠れながらツナギに着替えた。そうしている間にヘンリー家に女の人が現れた。
ピンポーン。少しかすれた音が響き、家の中から初老の女の人が顔を出した。おそらくヘンリーの母親だろう。
「すいませーん。ロリコンファックの者ですが」
アッシュはデリヘルを呼んでいた。
「えーと。なんでしょうか?」
「おたくの○○さんの依頼で来たんですけど、こちらでよろしいでしょうか?」
「はい、○○は息子ですが?」
「何? どうしたの母さん」
アッシュの目の前をバイクが通った。
「すいませーん。ピザ配達のものですけど」
「えっ? えっ?」
「すいません。少し遅れました。寿司三人前です」
「は……い?」
「ラーメンの配達なんですけど」
「パソコン修理のものですが」
「ダス○ンでーす」
「ブッ○オフですけど」
「コー○……」
「警察なんですが。この家に不審な家族がいるって聞いて」
「ナンジャコリャアアアア」
アッシュはヘンリーの叫び声を聞くと、満足したように頷いて子機を庭に放り込んだ。そして、走りもせず歩いて帰った。
「でよー! なんでお前はそんなにのん気に遊んでいるんだ?」
アッシュはセンゴクの家に押し入ってきた。アッシュが仕事をしているとき、センゴクがのんびりとしていたからだろう。文句を言いにきたようだ。
センゴクはコタツに入っている。姉も同じように入っているが、妹は押入れに入っていた。イノキとその妹が床に布団を敷きながら漫画を読んでいる。
テーブルの上には鍋がコンロの上で煮込まれている。
軽いハーレム状態になっていた。
「アーたん。ご苦労。ただし、作者が意外と面白い描写が出来なくてガッカリしている」
「シラネェよ!」
「まあ、そう怒らずに鍋でも食いなさい。温まるよ。主に股間が」
「意味の分からないこと言ってないで横開けろ」
アッシュは定員オーバー気味の部屋を横切り、センゴクの横に無理やり入った。
「あ~ぬくい」
センゴクはひそかに手を伸ばしていた。手はアッシュの尻に敷かれている。
「あ~、本当にぬくいなぁ~」
アッシュは尻に体重をかけて、センゴクの手を潰した。そして、顔めがけて頭突きをした。センゴクはクラッと来たのか、頭を振った。
「こんな豪快なキス初めて」
「誤解が生まれるような言い方は止めろ――あっ、オネェサン、お久しぶりです」
アッシュはセンゴクとは幼馴染である。当然、その姉とも知り合いだった。
「ワン。ワン」
アッシュは目を擦った。目の前にいるセンゴクの姉が、犬語を話しているのだった。
「アッシュさん。今は駄目みたいですよ」妹ちゃんが押入れの中でパソコンを弄りながら喋った。どうやら妹ちゃんの猫化は消えてしまったようだ。
アッシュは考えた。
センゴクと妹ちゃんは父親だけが一緒。
センゴクとお姉ちゃんは両方の親が一緒のはず、つまり父親も一緒のはず。
センゴクと妹ちゃんは、野生化すると猫になる=つまり父親が一緒だから?
お姉ちゃんは野生化すると犬になる=センゴクと妹ちゃんの父親と一緒ではない。
「そ、そんな馬鹿な」
アッシュは秘密を知ってしまい愕然とした。
「どったの?」
センゴクが御椀にアッシュの分を入れて、手渡した。
「い、いえ、なんでもないです。セッちゃん、ヘンリーは殺しておいたから安心してね」
「おう。さすがアーたん」アッシュが話をそらしたことにセンゴクは気づかなかった。
「それとね。セッちゃん
チンチンはね。小さくても大丈夫だからね
大きすぎるとグロテスクすぎて見れたもんじゃないから」
「馬鹿にしてんのか?」
「馬鹿にしてないよ。褒めているだけ」
「馬鹿にしてんのか?」
「馬鹿にしてないよ。褒めているだけ」
「馬鹿にしてんのか?」
「馬鹿にしてないよ。褒めているだけ」
五分後。
「どうせ、俺のチンチンはちっちゃいですよ」
センゴクはなぜか妹とイノキの妹にポンポンと肩を叩かれて慰められていた。
「大丈夫、私の同級生だって小さいから」イノキの妹が言った。
「それはお前の同級生が小学生だからだろ」
「大丈夫、まだ成長期は終わっていない」妹ちゃんが言った。
「終わっているつーの。昔は成長期が終わるまでには大きくなるって思っていたのにな」
「馬鹿にしていないのに」アッシュはヘンリーの本気を見た後で本当に思ったのことなのに、信用してもらえなくて残念だった。鍋を口に持っていき、熱い汁を飲み込んだ。全身が温まる。今日の疲れを癒してくれる気がした。