二人はプリ……犯罪者。
アッシュは家に帰り大きな鞄にいろいろ詰めて、家を出た。
そして、友達連中から聞きだしたヘンリーの降りる駅まで行き、大きな鞄から取り出した、小さな鞄をコインロッカーに詰め込んだ。
駅構内の鏡で身だしなみをチェックして、黒のショートのかつらを被り、黒いカラーコンタクトをした、服は高校時代の格好である。
アッシュは再び大学に戻ってきた。
服に注目が浴びないように、膝まで隠れるロングコートを着てきている。
誰もアッシュに気づかなかった。
食堂でスティック型の健康食品を食べ、スポーツドリンクを飲みながら、授業が終わるのを静かに待った。
ヘンリーは貧乏なので、単位を多くとりにいく傾向がある。たいして必要じゃない、外国語の授業を受けているのだった。
アッシュは淡々と待ち続けた。
~その頃、センゴクは~
「わっしゃっしゃっしゃ。いい亀頭しているの~。亀甲占いならぬ、亀頭占いしてやろうか?」
股間に伸ばしていた手を弾かれた。ジョーダンは呆れたようにセンゴクを見つめた。
「おまえ、本当に物心ついているのか?」
酷いことを言われていた。
~アッシュのターン~
アッシュはヘンリーの後ろをつけていた。
人目につくと困るので、距離を保ちながら歩く、ヘンリーは何の疑いもなく歩いている。
アッシュは既にコートを脱ぎ捨ててある。それは食堂にきちんと折りたたんで、椅子に置かれている。盗まれることは無いだろう。既に夕方を過ぎた時間、アッシュは食堂の人が混んだ時にしか座らないところにそれを置いて行ったのだった。
ヘンリーがバスに乗った。
あらかじめ買っておいたバスカードを入れる。
後でセンゴクに必要経費として徴収するつもりのカードである。
ヘンリーは現金で乗るらしく、整理券を取った。
おそらく、定期を使わないで本当は徒歩でいつも駅まで歩いているのだろう。
今日はたまたま疲れたか、何か用事があるようだ。
長い戦いになりそうだった。
ヘンリーはチラシ配りをしていた。
バイトなのだろう。
アッシュは姿を変えていた。
女子高生の格好のままでは辛いので、かつらを茶髪のロングにして、眼鏡をかけて、マフラーをつけて、ロングスカートとセーターを着た。携帯電話でSNSを見て、日記を書きながら、動くのを待った。
~その頃、センゴクは~
「酷い~」
物心がまだついていないのを指摘されて、まだ悲しんでいた。
大学を終えたセンゴクは河原を歩いていた。
河原で遊んでいる小学生がいっぱいいる。
目が合った。
「変質者だー!」
センゴクは当たりを見回した。
誰もいない――why?(出川風)
「あいつだ! あれがタイガーマスクだ!」
センゴクはその言葉の主を見た。
「てめぇは! イノキの妹か!」
タイガーマスクを後に引いていた。
~アッシュのターン~
アッシュは服屋に入り、着替え室に入った。
急いでOL風のスーツに着替えた。
髪は黒のウェーブが掛かったかつらに替えて、足はハイヒールにした。
「ちょっとお客さん!」
店員が呼び止めようとした。おそらく目を放した隙に姿が全く変わっていたので万引きだと思ったのだろう。だが、その店員をオカマ風の店長が止めた。
「止めなさい! その子は万引きをしていないわ」
アッシュはオカマの店長と目で会話した。
アッシュがストーカーにはまっていた時からの知り合いだった。
「恋する女性には、すべてを行使する権利が認められる」
店長は暴論を言い、アッシュを送り出した。
着替えに少し時間が掛かったので電車に乗るのが遅れそうだった。
ぎりぎり乗り込み、ヘンリーの背後に立った。
五センチのところにヘンリーがいる。
カンチョウして~――アッシュの脳には雑念があった。
~その頃、センゴクは~
「行くぞ! 超フライ!」
小学生たちと野球をしていた。
「すげ~、変質者って野球うまいんだね」
イノキの妹が言った。
センゴクは変質者というあだ名をつけられてしまった。
~アッシュのターン~
予定通りの駅に着いた。
急いで着替えた。
ジャージ姿のだらしない格好である。
かつらは継続して使い、靴は運動靴をはいた。
そして鞄をロッカーで交換した。
しばらく走り回り、ヘンリーを見つけた。
アッシュは――ヘンリーの背後五センチ後ろからつけていた。
ヘンリーが振り向くと、アッシュはしゃがみ視線を避けた。
「おかしいな。気配があったような」
ヘンリーは首をかしげながら呟いた。
周りの人はアッシュの姿が見えるので、アニメみたいな汗をかいていた。
そう――これがアッシュの能力だった。
思い出して欲しい――センゴク、幼馴染に有り得ない頼みをするの巻でアッシュの初登場シーンを。
はい~、思い出した/見たかね?
アッシュは至近距離で人の背後に立つことが出来るのだ!
どうでもいい伏線だった。
~その頃、センゴクは~
「なんで私が~」
イノキがセンゴクの姉捜索の手伝いをしていた。
センゴクはイノキの妹を肩車してあやしていた。
「変質者、思ったより良い人~」
「変質者に良い人はいないの!」イノキは怒ったが、センゴクに睨まれて意気消沈した。
「早く探せよ。下僕」
「誰が下僕だ!」
「あ~ん? 本気で勝負して負けたやつはどっちだったかな~?」最低な男だった。
「わ~い、下僕、下僕!」イノキの妹が拍車をかけた。
「うえ~ん。誰か帰して~」
~アッシュのターン~
ヘンリーの家は潮の匂いがして、平屋の一軒屋だった。
ヘンリーは自分の家までアッシュが後ろにいるのを気づかなかった。
何度も後ろを向いたが、誰もいないのだから仕方がなかった。
視線を避けるアッシュの技は、レスリングの吉田のタックルレベルだった。
ヘンリーは鍵をポケットから出した。
平凡な鍵だ。
ちゃらりと回して鍵穴に差し込んだ。
扉を開けた。
ヘンリーが入る。
アッシュはすばやく扉に入り込んだ。
ここからが勝負だった。
ヘンリーが靴をどうやって脱ぐかが勝負だ。
面倒くさがりならば一度も後ろを向かずに靴を脱ぎ捨てるだろう。
だが、靴をそろえるとなると大変だ。
アッシュの目に留まったのは、ヘンリーの靴の踵が潰れていることだった。
ヘンリーはめんどくさがり屋らしく、足だけで靴を脱ぐようだ。
これなら一度も後ろを向かず――アッシュはヘンリーの顔の動きに合わせて、動いた。
ヘンリーは手を伸ばして鍵をかけた。
ヘンリーの急な動きに合わせて、アッシュは反射的に動いた。
見つかりかけたが、何とか視線を避けたようだ。
すぐに顔を前に戻したので、すばやく戻った。
そして一回も後ろを振り向かずに靴を脱いだ。
真っ直ぐ行くと台所のようだ。ヘンリーは玄関に向かう廊下の途中にある扉を開けて荷物を放りこんだ。そして、台所らしき場所に向かった。
「今のは危なかった」アッシュが呟いた。
危ないのはお前だ。
~その頃、センゴクは~
「まてこらぁぁぁ!」
イノキが河原を全力疾走していた。
目の前には四本足で走るセンゴクの姉がいた。
「姉ちゃん! 正気に戻れぇぇぇ!」
センゴクはイノキを追い抜き、姉が消えていった草むらに飛び込んだ。
ボコボコ! ドスンドスン! ヌプヌプ! アンアン! イクイク!
「ま、負けた」
センゴクの姉は草むらを飛び出しどこかへ逃げてしまった。
センゴクは草むらからイノキに引きずられた。
センゴクの背中には二匹の野良猫が座って、血のついた爪を舐めていた。
「ごにゃああああ!」と太った力士のような猫が言った。
「にいいいいいいっ!」海賊傷のある風格のある猫が言った。
「私は野良猫に負けた男に負けたのかぁぁぁ!」イノキが悲観して叫んだ。