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そして彼は復讐を果たした

「セッちゃんのどこがいいの?」

「黙れ、フリーター。ニートに進化しておけ」

「それ以上言ってみろ。人権保護団体に告げ口するぞ」

「しろよ。バーカ。どうせ取り合ってくれないから、そらやれ、ほら携帯電話貸してやろうか、とっととやれよ」

 姉のパンチがセンゴクの顎を打ち抜いた。ボクシング漫画のようなスピード線が見えたような気がした。

「暴力姉め。なんでもかんでも暴力で解決すると思うなよ」

「うるせぇ、カス。風呂見てこいや」

「おめぇが行けよ。行き遅れているからいけねぇのか」

「寒いから行きたくないんだよ」

「寒いから行きたくないってどういうことだよ。湯船に溜めたお湯に足つけなくて良いのかよ」

「面倒だから風呂桶に入れて持ってきて」

「ちっ!」

「ちっ!」

「ちっ!」

「ちっ!」=舌打ち合戦。

「おい、行って来い」



「えっ、私」妹ちゃんが姉と弟の口げんかを見てオドオドしていたが、この発言にはもっと驚いたようだ。

「おい、彼女をつかうのかよ」

「か……関係ないだろ」彼女? というのを何とか耐えた。

「それだったら私が行くよ」

「いや待て、こいつに行かせる」

「私が行くからいいって言っているだろ」

「そんなにあっさり行ったらさっきまでの会話が意味なくなるだろう。こいつに行かせるから待ってくれ」

「離せ」

 センゴクは姉の足に縋り、風呂へ行こうとする姉のタイツをどさくさにまぎれて伝線させようとした。

「死ね、クソタイツ」言ってしまった。

 姉の蹴りがセンゴクに何発かはいりやっとセンゴクは手を離した。

 振り向くと妹がキラキラした顔でセンゴクを見ていた。



「いいなあ」

「何が?」

「仲が良いんだもん」

「あれくらい普通だろ。猫と猫がじゃれるのと同じだ」

「いいなあ」



 姉はセンゴクの顔拭きタオルで足を拭いた。水気が取りきれていないらしくフローリングに歩いた跡が残った。そのままコタツに入り、背中に布団をかけた。

「寒い。泊まらせろ」

「金よこせ。一秒二円な」

「一分で百二十円。一時間で七千二百円。さらに九時間と考えると六万四千八百円。高い、高すぎるぞ。身内からぼったくるなんて最低だ」

 姉は意外に計算が得意だった。

「でさー、君何歳?」

 姉の先制攻撃。


 ――さて、妹ちゃんの答えは?



「十六歳です」



「セッちゃんは?」



「二十歳でちゅ」



「……ギリギリオッケー」

 『ちゅ』は黙殺された。

「オッケーなのか?」

「オッケー、オッケー。私だって中学生のときに大学生と付き合っていたから」

「あっ! やっぱりあいつと付き合っていたのか! 塾の講師と付き合うなんて……あら、嫌だわ。不純過ぎる」

「あの時は大学生を大人だと思っていたのよ。毎日ジュース買ってくれたし」

「やすっ」

「あの時は高かったの。セッちゃんだって分かるでしょ? うちがどれくらい貧乏だったかを……クソ親父が外に女作って母さんと離婚したあの日から、われわれ男二人と女一人の兄弟はどれくらいのおもちゃを我慢してきたか。慰謝料は払わない。養育費も払わない。挙句の果てに娘が家出したからって私たちを頼ってくるし。自分の娘ぐらい自分で探せばいいのに」

「忙しいんじゃないの?」センゴクは冷蔵庫からオレンジジュースを出して口をつけながら飲んだ。姉の言葉が、センゴクの口を乾かしたのだろう。

 妹ちゃん=無言。

「でさ、名前は何? 教えてよ」



 センゴクは床に落ちてあるライトノベルを見ていった。

妹尾光せのおひかり

「せのお?」

「そう。妹に尻尾のお。それに光よあれの――ひかり」

 ライトノベルで書いているときのペンネームだった。

「なんかライトノベル作家にそういう人いなかった?」



「妹尾河童と間違えているんじゃない?」

「違う。違う……。光ちゃんに問題です」

「は、はい!」気持ちのいい返事だった。

「妹尾光のデビュー作の『レプリカ』の二巻目は衝撃的な出来事から始まっています。その衝撃的な出来事とは?」

「お姉さん系のヒロインが主人公たちを守るために死んだことですか?」

「正解!」

「ガーン……あの女死ぬの……まだ読んでいないのに」

 センゴクは妹ちゃんのライトノベルを一巻の途中までしか読んでいなかった。

「では、第二問! 三巻の初めに衝撃的な出来事が起きます。それは?」

「親友が、主人公が搭乗するはずだったロボットを盗んで、主人公たちの元から離れる事?」

「なんだとーっ! お前ら俺のことを考えて発言しろ!」

「あっ、ごめん」=姉。

「ごめんなさい」=妹。



「でさー、セッちゃん。どこまでいっているの?」

「Fくらいかな」

 意味が分からなかった。

「ABCを越えて――Fだと?」

「そうです。Fです。ポワッ、ポワッ、ポワッです」

「ホルモンですか」

「ホルモンです」

「焼肉いきたいね」

「お金ないけどね」

「光ちゃんはお金あるんじゃないの? 『レプリカ』ってアニメ化しているし」

「あるにはありますけど」



「「やーきにく。やーきにく。やーきにく」」

 たちの悪い姉と弟だった。床をどんどん鳴らしている。

「い、嫌ですよ。お金は無限には無いんですから」

「命も有限だ。だから尽きる前に楽しむべきだ。だから奢りなさい」

「自分の稼いだお金で楽しんでください」

「いいじゃん奢ってよ。いつか借りは返すよ。嘘だけど」

「みーまーですか」センゴクがテーブルに顎をつけながら言った。

「みーまーですよ」

「少し話が戻るけど。ABCって言い方古いよね」

「私が学生のころも言っていなかったよ」

「死語だよね」

「死語ですね」

「あのー、すみません」

「「何?」」



「何か変なものがはりついています」

 センゴクは妹ちゃんの見ている方向を見た。ベランダに出るガラス窓は先日センゴクが割ったのでガムテープで補強されていた。その窓ガラスにヘンリーがはりついていた。

「センゴクゥゥゥ」

「あらイケメン♪」姉は余裕だった。妹は言葉を無くしている。

「ヘンリー、何のようだ?」

「貴様を殺す。よくも警察の味方をして俺の逮捕を協力したな。お前に殴られた脇腹が痛いぞ。しかも、俺は無実だ。今ここにいるのもそれが証明されたからだ。ここがお前の墓場だと思え」

 ヘンリーが捕まったのは俺のせいだし、逮捕にも協力したけど、お前は無実ではないとセンゴクは思った。センゴクは、ヘンリーが捕まった後にいろいろと根回しをして早く出られるようにしたけど、その事情を説明するとタイガーマスクなのがばれるかも知れないので――センゴクは黙った。

「覚悟はいいな?」

 ヘンリーは懐から何かを取り出した。

 ボールのような形だ。



「食らえ! 異臭つき煙だま!」

 ヘンリーはベランダから飛び降りると同時に玉を床に叩き付けた。

 煙が充満。臭いが炸裂。

「くっ、くせぇー」センゴクは鼻を抑えて叫んだ。

「おえっ! 何だこれ?」姉は吐くようなまねをした。吐かなかったのが不思議なほどの臭いだった。

「ま、まずい。意識がと……」

「せ、セッちゃん……」




 センゴクは留置場にいた。センゴクが異臭騒ぎの犯人として捕まったのだった。センゴクの姉も留置場に一緒に入れられたが、妹はセンゴクとその姉と一緒に連れてこられなかったので、どうやら逃げたらしい。

「しかし、ヘンリーがなんであんな凶器を?」センゴクは首を傾げた。

「おい、二番! 喋るんじゃない!」看守が厳しい口調で言った。

「く、くそー」

 センゴクは心の中でヘンリーを殺すことを誓った。

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