新生活始めます
(今日、この日まで良く頑張った!私!)
前とは違うこの世界に生まれて15年間、死亡フラグを回避してこの世界で1人で生きていくための対策と努力はしてきた。
いろんなことを独学で学び、何かがあってもそれなりに対応できるだろう。ただ、私が処刑のルートに近づかないためにはそれに関わる人物たちと関わらないことが一番の回避方法。そのためにはこの家にいることはできない。この家にいる限り、どんなに避けていてもロベルト、そしてロベルトと結ばれるヒロインと関わってしまう可能性は決して0にはならない。
最小限の荷物だけを小さな袋に入れ、動きやすい服装に着替えてその上からフード付きのマントを羽織る。一応姫だからと着ていた重くて動きにくいドレスなんておさらばよ!なんて思いつつドレスはベッドの上に脱ぎ捨てた。
音を立てずに部屋を出て、事前に調べておいた脱出ルートを通って屋敷の外へ出る。
そもそもこの家の人間は私に興味も期待もないのだから堂々と出ていく宣言をしても誰も止めないだろうとも思ったが、万が一を考えてそれはしなかった。私は誰にも見つかることなくこの家を出て、そして何事もなかったかのように両親、そしてロベルトはこの家で暮らしていけば良いと思う。
(さあ、私は消えるわ!家族3人仲良く暮らしてね、さらばクラスト家!アディオス!)
暗闇の中、私は屋敷の外を出てとにかく走った。
この15年間で極めた忍者のごとく存在を消しつつ素早く動く方法で!
屋敷の敷地内にある木々がたくさん生えており、まるで森なのではないかと思うような場所を明かりは付けず、ただ、月明かりだけを頼りに転ばないように走り抜ける。雨が降ると脱出に支障が出るため不安だったが、今日は運良く晴れ、雨で滑ったりすることもなく順調に家から離れることができた。
この世界には防犯カメラというものがないからそれもまた幸運だ。元居た世界じゃこんな簡単に脱出することはできなかっただろう。
塀を上り家の敷地内から外へ出る。そして再び走り出す。
家を出てどこへ行こうか、行先はもう決めていた。小さいころに教育の一環として一度だけ連れて来られたことがある場所。ここから少し離れた場所で、都会というより田舎に近い村。村自体は結構広く、当時は空き家も多かったため、月日は経ってしまっているがあまり変わっていなければ住む場所は確保できると思う。
「待っていてね、私の順風満帆ハッピーライフ!第2の人生楽しむわよ!」
私は期待を膨らませ、目を輝かせながら村へ走った。
ーー ーー ーー ーー ーー
5日後…
「ふう、今日も大量大量!」
家を出て5日が経過た。私はというと、本当に毎日楽しくやっている。
家を出た後、目的の村まで一生懸命走った。
村にたどり着いたのは朝日が出始めた頃だった。まだ人は外に出ておらず、静まり返っていた。
私は物陰に隠れ、ある準備を始めた。いくら世間に私の顔を知られていないからといっても今までの自分とは全く違う自分になって人生を送ると決めたんだ。そのためにはまず見た目から変わらなければ!
伸びに伸びまくった前髪を切り、魔法でミルクティー色だった髪の毛をガラッと変えて金髪に!瞳の色も黄色から緑へ。
この世界の人たちは髪色も瞳の色もいろいろだから金髪になろうが目立つことはない。そしてこういった魔法はほとんど使われていないため魔法で変装しているとも思われないだろう。
そうこうしているうちに日が昇り、人が少しずつ活動し始めていた。
ここに住むため村の人に空き家がないか尋ねると、村長を訪ねるといいと教えてくれた。お礼を言い、教えてもらった村長を訪ね、住むことができる空き家を紹介してもらった。その空き家は木材でできており、山小屋のような見た目だった。長年誰も手入れをしておらず、草木は生えっぱなしで家の中はホコリまみれ。こんな所で良ければと紹介してくれたが、住むことができる場所を紹介してくれただけでとてもありがたいのに申し訳なさそうに言う村長さんはなんて良い人なんだろう。
村長さんは、もう誰も使っていないからお金も払わなくて良いし好きに使って良いと言ってくれたので、私は何度もお礼を言い、頭を下げた。
嬉しそうにする私を見て村長さんは「ほっほっほ」と優しく笑った。
(ありがとう村長さん…ううん、もうこの世界の私のおじいちゃん!)
村長と別れ、早速家の手入れを始めることにした。
まず、寝床を確保するために家の中の掃除をすることにした。村長から借りた掃除用具でテキパキと掃除をこなす。あまりのホコリの量に咳き込んでしまったりもしたが、ネズミや虫が出ることはなく時間はかかったが、家の中は見違えるほどきれいになった。
朝から始めていたはずの掃除も気がつけば日は落ち、外は暗くなっていた。
朝から晩までずっと動きっぱなしだったためさすがに疲れた。
水周りもきれいにし、水が通るようにもした。お風呂に入ってさっさと寝ようとお湯を張って浸かると今日の疲れが取れたように感じた。
(ああ、やばい。寝そう…)
お湯がブクブクと音を立てたとこでハッとする。こんなと所で死んでたまるか!せっかく家から脱出して新たな人生を謳歌しようとしているのに溺死なんてあり得ない!
睡魔を振り払い、浴槽から勢い良く立ち上がるとお湯がザバーンと音を立てた。
お風呂から出て今後のことを考えていると再び睡魔に襲われ、まあ、何とかなるだろうと思いながら私はすぐに眠りについた。
次の日、朝日と共に目が覚める。
外に出て朝の空気を吸って伸びをする。なんて良い朝なんだろう。
「よーし、今日も頑張るぞー!」
気合を入れて今日も作業に取り掛かる。今日は外の作業。家自体はぼろく見えるがしっかりしているため特に手入れをしなくても良さそうだが、問題は庭…
見事に雑草が生き生きと伸びまくっているのでこの雑草を刈っていかなければならない。
全身が泥まみれになりながらも雑草を刈っていき、あっという間に雑草の山ができた。
「つ、疲れたー」
お昼過ぎに雑草を刈り終わり、もうこの時点でくたくたで地面に寝転がる。
でもここでへばっているわけにはいかない。住むところの次の問題は、そう、食料!お金がそんなにあるわけではないし、節約していかなければならない。そのためには自給自足が一番だと考えた。
もう一息と気合を入れ直して立ち上がり、畑にする場所を決め、どんどん土を耕していく。
(こんな所で田舎に住むおじいちゃんとおばあちゃんに教わったことが役に立つなんて!ありがとう、おじいちゃん、おばあちゃん!)
耕した所に肥料をまき、野菜の苗を植えていく。
実は昨日、村の人に肥料と野菜の苗を分けてもらっていた。村の人は良い人で、一人で暮らすと言ったら若いのに偉いねとたくさん苗を分けてくれた。ジャガイモに人参、玉ねぎに…といろいろ。
ぐぅ~…
気が付けば既に夕方。
昨日から何も食べず、ずっと動きっぱなしだったためお腹が限界を迎えたかのように大きな音を立てた。お腹がぐぅぐぅと音を鳴らすがいくら鳴らしても今は食べ物を持っていない。そう思いながらも目に入ったのは今さっき植えたばかりの野菜の苗。
苗をじーっと見ながら、ゴクリと喉を鳴らした。
(少しぐらい良いよね…)
きょろきょろと周りを見渡し、誰もいないことを確認する。
膝をつき、祈るように手を合わせて目を閉じる。すると、さっき植えたばかりの苗がにょきにょきと動き出し、みるみるうちに成長した。
目を開けて野菜の苗を引っこ抜くと成長しきった野菜が現れた。
『やったー!やったー!』
心の中の私は大喜び。
私が何をしたのか、それは緑の魔法を使った。緑の魔法は植物を自由自在に操ることができる。今回はすぐに収穫するために成長を速めただけだけど。
緑の魔法は自給自足する時に必要だろうと勉強したんだけれど、まさかこんなに早く使うことになるとは思っていなかった。過去の私、ナイス選択!
(じゃっがいも~じゃっがいも~)
ルンルンとしながら引っこ抜いたジャガイモを手に持って家の中に入って早速調理を始めた。調理といっても鍋に水を入れ、そこにジャガイモを入れて茹でるだけなんだけど。
茹で上がったらお湯を切り、ジャガイモの皮を剥いて我慢できずにかぶりつく。ホクホクとしたジャガイモはとても美味しくて顔がにやける。
「ん~!」
久しぶりのご飯たまらん!と今度は塩を軽く振ってかぶりつく。塩のしょっぱさがいい!マヨネーズも欲しくなるなーなんて、今はこれだけで十分。
ジャガイモを頬張る私を覗く影に私は気づいていなかった。
それも、まさか魔法を使っている段階から見られていたと知るのは三日後になる。
そして今、現在。今日も大量のジャガイモを収穫した。
「毎日楽しそうだね」
「…ん?」
今日は何のジャガイモ料理を作ろうかなんて考えていたら急に横から声が聞こえた。声のした方に顔を向けると、知らない男が木にもたれ掛かりながらこちらを見ていた。
何も言わずに目をぱちくりさせるだけの私を見て、見た感じ好青年の男はクスクスと笑った。
いや、何笑ってるんすか?いやね、言いたいことはたくさんあるけどね?とりあえず、とりあえずさ…
『あんた、誰やねん!?』
心の中の私は壮大にそう叫んだ。




