あれ、転生してません?
ひそひそと1人1人は話しているが、これだけの人数のほとんどが話していれば、ひそひそ声もざわざわと騒がしくなる。
1人の女は腕と脚に鎖で繋がれた錠をつけ、ジャラジャラと鎖の音をさせなが裸足でゆらゆらと歩く。
女の身体は何日も食べ物を与えられていないのがわかる程、痩せ細っており、頬はこけ、全身煤で汚れている。
何年も切っていないであろう髪の毛は伸びっぱなしで艶もなくボサボサで、チラリと髪の間から見える瞳には何の輝きもない。
「早く歩け!」
女は男に連れられ民衆皆が見える台に登れされ、そこで両膝をつかされると先程のざわざわと騒がしかったのは収まった。
「早くその女を殺せ!」
「そうだ!この国の恥さらしめ!」
静かになったのはほんの数秒だった。民衆の1人が女に罵声を浴びせると、次々と声が上がり、ここぞとばかりに女を浴びせ、罵る。
女はそんな言葉には聞く耳を持たず、チラリと横目で豪華な椅子に座る男を見る。男は足を組み、頬杖をつきながらこちらを見る。男の目は民衆たちの様に「怒り」の目ではない。その目は「どうでも良い」という目だった。
それがそういう目だと女は知っていた。何故なら昔からその目で見られていたからだ。
女は次に男の横にいる女に目を向けた。
その女はこちらに顔は向けず、カタカタと少し震えて冷や汗をかいている。
男は女のその様子に気づくと、女の手を握り何かを言うと女に優しい顔で微笑みかける。
何か…それは「見なくても良い」とでも言ったのだろう。
あの顔、あの微笑み。それは手を握る女によく見せている顔だということも女は知っていた。
女への民衆の罵声は収まらず、そのままことが進む。
「最後に何か言い残すことはあるか?」
女は自分の髪の毛で口元が隠れているがボソボソと誰も聞き取れない声で話す。
剣を持った男は偉そうに座る男の方に顔を向けると、男は目を伏せた。
剣を持った男はその様子を見て、コクッと頷くと持っていた剣を構える。偉そうに座る男がスッと手を挙げると、その合図とともに構えられた剣が振り下ろされた。
女は最後にこう言ったのだ。
『次こそは幸せになってやる』
ーー ーー ーー ーー ーー
(変な夢を見た…)
ゆっくりと目を開けると朝日が部屋に差し込んでいた。
(ん?朝日?おかしいな…)
確か、さっき学校に行くために家を出たはずなのに、またベッドの上で目覚めるなんて。と身体を起こそうとしたが何故か起き上がることができない。
そしてよくよく見ると知らない天井と知らない部屋。
「あ〜う〜(だ、誰かー!)」
(!?)
声が出ない。そして何だこの嫌な感じは。
「あらあら、姫様。もう起きたのですね」
前から巨大な手が現れると、抱き抱えられ、よしよしとまるで赤ちゃんをあやすように接せられた。
状況が飲み込めず、頭でぐるぐると考える。聞きたいことはたくさんあるのに声が出ない。いや、出ても、「あ〜」だの「う〜」だのとしか話せない。
これじゃあまるで本当に赤ちゃ…
(んあ?)
目の前に映るのは一体誰だ。
大きな鏡に映るのは赤ちゃんと赤ちゃんを抱き抱えるメイドのような格好をした女の人。
少し手を動かすと、鏡の中の赤ちゃんは同じ動きをし、鏡の中の女の人と自分を抱き抱える女の人を見比べると、同じ顔、同じ髪型、同じ格好をしている。
(まさか…まーさーかー…!)
「あ〜!う〜!(赤ちゃんになってる!!??)」
「どうしたのですか姫様!」
状況に理解できずギャーギャー騒ぐ私をメイドのような格好をした女の人は大変そうにあやすのだった。
ーー ーー ーー ーー ーー
(やっと落ちつてきた…)
あの後、大変だった。
混乱してギャーギャー騒ぐ私と、それをあやすメイドのような格好をした女の人。なかなか騒ぐのをやめない私に女の人が困っているとバタバタと足音が聞こえ、勢いよく部屋の扉が開いた。
慌ただしく部屋に入って来たのは私をあやす女の人と同じ格好をした女性が数名、そして執事の様な格好をしている男性が数名。そして、外国の昔の貴族やアニメや漫画で出てきそうな高そうなドレスを身に纏った女の人。
「騒がしくして申し訳ありません、王妃様!」
(お、王妃だと!?)
「私の可愛い姫、よしよし」
王妃と呼ばれる女の人は私を抱き、あやす。
「流石です、王妃様!王妃様に抱き抱えられた途端、姫が大人しくなりました!」
だんだんと今の状況を理解してきて、言葉が出なくなってきていた。
自分が姫と呼ばれる理由、このドレスを着た女の人は王妃、つまり姫と呼ばれる自分はこの人の娘。そして鏡に映る赤ちゃんは紛れもなく自分だと信じるしかない。
こういったことを全て含め、見たことのない部屋、見たこともない人たち、そして、この自分の姿。
これは夢なのかとも思ったが感覚もあり、妙にリアルだ。
信じたくはないが、これってもしかして…いや、たぶん…いや、かなり…いや、絶対…。
(俗に言う転生ってやつ!?私、赤ちゃんに転生しちゃったの!?)
落ち着いた私をベッドに戻し、王妃は声を一言かけると、一緒に部屋に入って来た人たちと一緒に部屋を出て行った。
部屋に取り残されたのは私と、起きた私をあやした女の人だけだった。
そして今に至る。
あなたも何処かに行って良いよと思が、声に出してもまだ話せない為、通じないから仕方ない。まあ、赤ちゃんを1人にさせておく訳にもいかないだろうし、今の自分では何も1人ではできないから、何かあった時の為、ここにいてもらった方が助かるか。
そんなことより、この状況を一旦整理しなくてはならない。
まず、ここでの私の名前はソフィアというらしい。名前からして女だろう。まだハイハイどころか、うまく身体を動かせないことから首も据わってないのだろうか。まあとにかく生まれたばかりということだ。
見たところ、海外の家みたいな家具ばかり。それに王妃のあの服装。そもそも、私が住んでいた国に王妃なんていなかったし、ドレスとかも着ない。つまりここは元いた国ではない。そして今この部屋にもいる女の人と、さっき部屋に入って来た女性たち。そして執事のような格好をしていた男性たちはこの家に仕える本物のメイドと執事であろう。
王妃、姫…。つまり、私はこの国の王、国王の娘ということだ。王妃が愛人を作るのは考えにくいし、ほぼ確実に国王の娘だろう。
(さて、この国は一体どこだろう…。そもそも私は何で転生してしまったのか。確か私は…)
そう、確か私はいつも通りに起きて、いつも通り学校へ行くために家を出たんだ。ただいつもと違うことは、その日が自分の誕生日だったということ。17歳、高校2年生。流石に行動には出さないが、心の中では浮かれていた。
学校に向かう道には歩道橋があり、階段を上っていたその時だ。前からランドセルを背負った男の子が落ちてきた。とっさに男の子を庇い、そのまま階段から落ち、硬い地面に頭を強く打った。
悲鳴や駆け寄ってくる人たちの声が聞こえるが反応できない。庇った男の子は起き上がり、その子も何か声をかけていたが、だんだんと声も遠くなり、視界も暗くなっていった。
(良かった、無事で…)
そう思った瞬間、目の前は真っ暗になり、意識を失った。
(ああ、たぶん私そこで死んだんだな)
打ち所が悪かったのか、それとも結構な高さから落ちたからなのか。死んだとわかっても不思議と冷静なのは、まあ、前とは違う姿とはいえ、こうして生きているからだろか。
それより……。
(誕生日の日に死ぬって……。同じ月日に死ぬってなかなかないことだよ?!レアじゃない?私、レアキャラだよ?!ゲームとかだとSSR的な!)
起こってしまったことは仕方がないと前向きに捉えることができるのは私の良いところ!ポジティブ、ポジティブにいこう。
そうと決まればこれからやることは決まってくる。花の女子高生生活を充実して過ごすはずだったのにそれも途中で終わってしまったんだ。まずはこの国のことを知ることから始めて第二の人生、順風満帆、楽しく過ごそう!
(それに私は姫だっていうしね)
ニシシッと心の中で笑いそう決意したが、再度、自分がうまく動けないことに気がつきしばらくは何もできず、赤ちゃんとして過ごしていかなければいけないことに気がついたのであった。
ーー ーー ーー ーー ーー
そして月日が経ち、私がこの家を自由に歩き回れるようになったのは3歳になってからだった。




