ファミレスとフードファイター
時間は22時を過ぎている。人の行き来は少なくなり、店内の明かりが夜道を照らしていた。
正面には先ほどの女性が、メニューとにらめっこして5分ほど経とうとしていた。
長い茶髪に、線の細い眉。先程は煩い女性という印象だったが、黙っていると綺麗という印象に変わった。
なぜ俺がこの女性とファミレスに居るのかというと、女性がトイレに去った後に任されたパチンコ台がかなり儲かったのだ。金額にしては10万程。まさか俺のビギナーズラックが他人に奪われるとは思わなかったが、それはどうでもいい。
俺としてはトイレから戻った彼女と交代して、すぐに帰ろうとしたのだが
「私の代わりに打って!私、運無いの!」
と、これまたよくわからない展開になり呆気に取られて黙っていた俺の返事をイエスと捉えたのだろう、流されるままやってしまった。
結果的には儲かったので良かったのだが、女性はまたもや帰ろうとする俺に
「すごいねお兄さん!お礼にご飯奢るよ!」
と満面の笑みで言ってきた。
流石に俺はこれ以上恐怖の対象と一緒にいるのは精神衛生上よろしくなかったので、やんわり断ったのだが
「どこ食べ行きたい?好きなとこに連れてってあげよう!」
人の話を聞かない性格のようだった。
俺は聞こえないようにため息ついた。
「じゃあファミレスでお願いします」
「オッケ〜グーグル!」
女性の返事に愛想笑いをしながら、女性と距離を取って歩きながらファミレスへ向かい現在に至るということだ。
「キミにきめた!」
某アニメのトレーナーのような決め声とともに、女性はこちらに向いてきた。
「お兄さんはメニュー決めた?」
「俺はオレンジジュースで大丈夫です」
「私もそれ好きなんだ。食べ物はなに頼む?」
「いえ、ジュースだけで大丈夫です」
俺としては早いとこ帰りたかったので、空腹感はあるが仕方ない。
「お腹減ってないの?」
「最近食欲がないので大丈夫です」
「それはいかんな!食欲なくても無理にでも腹にいれんと!」
「………」
俺の父親のような台詞で女性は言い放ち、すぐさま呼び出しベルを押した。空いているせいかすぐに店員がやってきて注文を尋ねてきた。
女性はどう考えても一人で食べ切れる量ではない品数を注文し終えると、こちらを向いて
「さあ、最後の晩餐を始めよう」
意味のわからない台詞を言い、悪女のようにニヒルに笑った。
しばらくして大量の料理が届いた。テーブル一面に置かれた料理は、誰が見ても2人で食べ切れる量ではない。女性は長い髪を束ねてポニーテールにし、さながらフードファイターのような格好料理を食べ始めた。
俺も早く帰りたいと思っていたが、空腹時に目前に美味しそうな料理があっては流石に我慢の限界で女性と一緒に食べ始めた。