不思議の部屋のアリス
この世界の戦いにおいて、とある戦略思想が根深く根付いている・・・それが"重火力・攻撃魔法主義"である
戦争において・・攻撃魔法が何よりも重要であり 勝敗を決める最大の要因。
それ故に 攻撃力の強い魔導師を どれだけ確保できるかが重要となる。
どこか異世界の古い思考、大艦巨砲主義に通じるところもある高火力魔法主義。
そして、このヴェイネス帝国でもしかりであった。
魔法とは武器であり兵器! 戦争の道具!
特に火力の強い魔術・・・ "轟音の火炎" "灼熱の炎柱" などの魔法が少しでも使用できるだけで優良な魔導師とされ・・・エリートコースにも乗れた。
この帝国、この世界では・・・攻撃魔法が全てであり それ以外はあまり重要視されない。
例外として聖女という存在はあるが・・・これはまた違う次元の話である。
ともかく・・・戦闘以外で使われる魔法、すなわち、日常生活に使われる生活系魔法は三流のものとして軽視されていたのであった。
・・・アリスには攻撃魔法の素養がなかった。攻撃魔法が使えないのである。
だからといってアリスには魔法が使えないわけではない。
それどころか・・・母親譲りの膨大な魔力量を保有しているのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
天蓋ベットに寝転びながら・・・アリスは母親が残した魔術本を読みあさる。
小難しい文字で書かれているわけではなく・・・絵柄などをはさみ・・・わかりやすい解説書となっていた。
この魔術本の題名は ""アリスでもわかる初級魔術本""
アリスという名の・・・おバカなゴブリンが魔法を取得するという物語仕立ての解説書。
もちろん・・著者はミリナ・・・・母親である。
「お・・・お母様。こんなとこで娘の名を使うなんて・・・
でも・・このコプリン!! なんとなく哀愁をかんじる」
・・・・物語に登場する・・・おバカなゴブリン(アリス)は真っ暗な洞窟にはいってしまい迷子になってしまった。
さてさて・・・どうしたものか!?
おバカなゴブリンはここで無謀にも魔法を使おうとがんばりだす!!
・・・・ということで初級魔法でもある明かりの魔法、光球の解説となった。
解説によると体内の魔力を手のひらに集めるという・・・シンプルすぎる解説なので よくわからん!!
それでも・・・アリスは自分がゴブリンとなったと想像し真っ暗な世界で魔力を引き出そうと練習する。
「いまいち感覚がつかめないのよね」
体内の熱い何かを手のひらにのせようと想像する・・・想像する・・・瞑想する・・・・お腹がすく。
ぐ~ぐ~ぐ~ぐ~
お腹が悲鳴を上げた。
「あっ! この部屋に来てから何も食べてなかった」
この部屋には・・・食料がなかった。
狭い四畳半に天蓋ベット・・・そして書籍。
書籍はあるが食べ物はない!
「うん!」
アリスはベットから立ち上がり決意する。
そうだ!! ここは皇宮といえども・・・もはやラビリンス!!
いわゆるダンジョンである!!
このラビリンスダンジョンで迷った人間を狩るのだ!
「ふっふふふふ・・・今日からアリスは王族から盗賊にジョブチェンジよ」
ただし!! アリスはまだ10歳・・非力であるうえに少女である。
弱いのである!!
狩る側というより狩られる側だが・・・とりあえずアリスは隠れ部屋から飛び出した。
そしたら・・・いきなり目の前に男性が倒れていた。
都合よく・・・ご都合主義のように倒れていた。
皇宮の地下10階の廊下で堂々と 大の字になっているのである。
・・・というか このラビリンスの奥深くにまで どうやって入ってきたのだ!?
いやいや!! もしかしたら・・・割と多くの人が この奥地まで入り込んできてるのかもしれない。
とにかく・・・アリスの目の前に人が倒れているのは間違いない!!
もちろん、アリスが倒したのではないですよ!!
勝手に倒れていたのです・・・いわゆる行き倒れ!!
ラビリンス皇宮の名物・・道に迷ったあげくの行き倒れである。
・・・でもご安心を!! 生きてます! 息をしてます!!
この行き倒れ男性・・・年齢はだいたい40代!?
服装からすると官僚や貴族ではないだろう。
商人かな!? 皇宮内で官僚相手に商売をしている人かもしれない。
とにかく・・・アリスの目の前に 行き倒れの獲物が倒れているのである!!
ちょうどいい!! 美味しくいただいてしまおう。
気分は・・・ハイエナ状態。
・・・などと考えつつアリスは声をかける。
「おじさ~ん どうしたの!? やっぱし迷って行き倒れ!?」
◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇
その男の名はラーイン。
皇宮内における下級官僚向けのお食事処""峠の茶屋""の店長である。
かなり美味しいとの評判!!
下級官僚向けにも関わらず・・・王族や貴族たちも お忍びで食べに来ているらしいとか!?
この峠の茶屋のおいしさの秘訣とは・・・・それは店長自ら食材を買いに行くことであった。
この日も・・・いつものように皇宮の外へと買いに出かけた。
そして・・・目一杯の食材をリュックに押し込み ラーインは意気揚々と帰ってきた・・・
間違いなく無事に皇宮までは帰れたのである。
だが・・・店内に帰り着くまでが遠足(買い付け)である。
ラーインは・・・この原則に違反してしまった。
ちょっと近道しようと・・・皇宮の深部、大深度ラビリンス地帯に足を踏み入れてしまったのである。
そして・・迷った! 迷った!
誰かに助けを求めようとしても・・・誰とも会うことができない。
噂通り・・・とんでもないラビリンス皇宮である。
そしてラーインは・・・罠にはまり・・・落とし穴に落ち・・ワープし、転がり、こけて、また穴に落ち・・
地下10階まで下りてきてしまうという事態になってしまった。
ラーインの背負っているリュックには食材が入っているので・・・食料の心配はとりあえずない。
10年は戦えるとは言わないが・・・一ヶ月ぐらいは持つであろう。
・・・一応、迷った場合、6時間すれば・・・迷いの森へと飛ばされる安全設計なラビリンスのため 遭難死はないはず・・
そのあたりは安心ではあるが・・・
・・・とはいえ・・疲れた!!疲れた!! そして、眠たい・・・パタンZzzzzz
ラーインは・・・背負っているリュックを枕がわりにして・・・堂々と廊下の真ん中で大の字となって寝たのである。
このラビリンス地帯に迷ってしまってから・・・ラーインは誰とも会っていない。
だが・・・大の字となって廊下の通行を邪魔するように寝ていたら
きっと誰かに気付いてもらい・・うまくいけば助けてくれるかも・・・
そんな期待をしていたのであった。
そして・・・その期待に応じたのか・・・・アリスの足元には大の字状態となった男性が横たわっていた。
アリスは男性に声をかけて・・・すこし体をゆすると男性の枕となっていたリュックが目に入った。
「このリュック・・・!!」
アリスは一瞬にして そのリュックの中身が食材であることを見抜いた・・・・・・
というか・・・リュックの口から 食肉の一部が飛び出していたのだから 見抜けて当然!!
そんなことより最も重要なこと 大事なことを見抜いたのである。
このリュックは見た目は普通のぼろいリュックだが 普通のリュックではない!!
特殊な魔道具・・・
見た目以上の物をしまい込むことができる上に重量も軽減できる。
リュックの中身は・・時空間魔法により空間が拡張されていたのであった。
どれぐらいの物を仕舞い込めるかというと
異世界的にいえば・・・軽トラ分の荷物量・・・しかも重量を1/100にできる。
この男性・・ラーインは皇宮の外で仕入れた大量の食材をしまい込んでいるのである。
そして・・・ここからが重要!!
このリュックの製作者は母親ミリナであることを・・・
なんたって・・・このリュックを 母親が制作している所をアリスは見ていたからである。
その上・・・このリュックのへたくそな縫い目は・・・アリスが手伝ってぬっていたのだ。
「悪かったわね!! へたくそで・・」
ちなみに この帝国随一の魔導師である母親ミリナの手にかかれば
この程度の魔導具の制作など簡単!!簡単!!
「この人・・・お母さまの知り合いかな!? このリュックを持っているなんて」
◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇
その男…ラーインは・・少女の声に気付き、ようやく目を覚ます。
目の前には・・心配そうな顔をしているメイド少女がいた。
ちなみに・・・現在、アリスの姿はメイドモードである。
王女の姿はしていません!
「あれ! ここはどこだ!?」
ラーインは周囲をぐるりと見渡し・・・やっと思い出した。
皇宮のラビリンスに迷った挙句に・・・つかれて寝てしまっていた!!!
一応、言い訳させてもらうと・・・買い付けのための行き帰りを含め、一日中、歩きまわってたのだから仕方がない!!
でも・・・ひと眠りしたので・・・実に気分がいい!!
「えっと・・・お嬢さん!? 俺・・・助かった!?」
「・・・助かった!? やっぱし、おじさんは道に迷ったんだ」
子供の迷子のように言われた気もしたが・・・このラビリンスでの遭難は日常茶飯事。
恥ずかしがることではないのだ!!・・・・ということにしたラーインであった。
「近道して店に帰ろうとしたのが不味かったみたいだ!! でも‥助かったよ!! 帰り道は・・・・」
ここでラーインは・・・ふと悪い予感がした。
まさか・・・目の前のお嬢さんも迷子になったのではないかと!?
二重遭難!? いや 言葉の意味が違うか! 迷子が一人増えただけとか・・・
だが・・・そんな予感も杞憂であった。
「おじさーん! 帰り道を教えてもいいけど・・・うち、お腹が空いた~」
もちろん アリスには脳内ナビがある!! 皇宮ラビリンスで迷うことはない。
目の前の男性を連れ帰ることなど簡単であるのだが・・その前に・・何かお礼が欲しい。
リュックの中身がほしい!!
交渉である!!
食事の要求である。
ラーインは・・・そのメイド姿の少女、
上目づかいで おねだりする少女にドキリとした。
彼はロリコンではないが ドキリとしたのである。
ちょっと嬉しくなるラーイン。やっぱしロリコンの疑いあり。
ラーイン! 思わず何かを振り払うように頭を振った。
それはともかく幸い・・・リュックには食材が山のようにある。
ここで料理を作るのもいいだろう。
「お・・お嬢さん。何か・・・食べるかい!? 食材は山ほどあるんだ!
そうだね! 調理室とかあったら 美味しいもの作るよ!! おじさんは・・・調理師なんだ!! 」
「うん! うん! つくってつくって! 」
アリスは・・・脳内ナビで近くに調理室がないかと探し出す。
この脳内ナビは実に便利にできていて・・脳内に付近の見取り図が映し出される。
その上・・・詳細説明まで表示されるのだ。
この大深度ラビリンスは・・・縦横無尽に通路が行き交い・・・数多くの部屋が存在した。
しかし・・・その部屋の大部分は なにもない空き部屋な状態であるのだが・・・
たまに、風呂場やら便所・・・炊事など特定の部屋などもあったりする。
もちろん・・・調理室もどこかにあるはずであり そして・・・あっさりと見つかった。
アリスの目の前、右四つ目の部屋が調理室だったのである。
「おじさーん! あの部屋が調理室だよ」
「へ~ お嬢さんはこの辺りのことをよく知ってるんだね」
「うん! この辺りに・・・うちの部屋があるからね」
脳内ナビという 不思議な能力で付近を調べているとは決して言わない。
ややこしいことになるからね!!
ラーインは少し・・・いぶかしがった。
ここは皇宮の奥深く・・・ラビリンス地帯! こんなとこに部屋があるのかと・・!?
「名乗るのが遅くなって申し分けない! 俺は・・知ってるかな!? お食事処""峠の茶屋""の店長をしているラーインっていうんだ!」
アリスは・・・おじさんの発言、""峠の茶屋""の名称を聞いて、ワクワクしだした。
これは期待大である。
アリスでも""峠の茶屋""の話は聞いたことがある。
皇宮内の片隅で 下級官僚向けの格安食堂があると・・・それもかなり美味しいらしい!!
王族や貴族たちさえもお忍びで食べに来るほどの味らしい。
「え! 知ってるよ!知ってるよ! ちょっと訳があって 食べに行くことができないけど・・・噂を聞いて・・一度は行きたいと思ってたよ」
アリスが・・・食べに行けない訳・・・それはお金がないからであるが・・・お金がないとは決して言わない!
「そう・・そうか!? 身分的に来れない方もいるからね・・・もしかしてお嬢さんって高貴な・・・でもメイド姿!?」
「いえ! うちは・・・見た目通りのメイドですので高貴な身分じゃないよ」
ラーインと名乗るおじさんに 何かを勘ぐられると思って 即座に否定した。
とりあえず・・・メイド姿でよかったです!! メイドという身分を称することにした。
・・・・となると、名前を名乗らないとだめだね・・・適当に設定を考えないと!!
どんな名前がいいかな・・・メイドのメイ!? いや、安直すぎ!!
「えっと・・・うちの名前はメ・・・メルです! メルです! ・・・アリスフィーナさ・・まのメイドをしてます」
はい! 偽名はメルに決定しました。
しかもアリスフィーナ・・・・自分のメイドを自分で演じることにしたのです。
「メルちゃんなんだ! それもアリスフィ!? あっ! 王女様だよね・・・王族様のメイドなんだ」
ラーインは・・アリスフィーナ姫の名前を知っており・・王女だとも知っていたようだ。
この皇宮にいる人たちの基本的知識なんたけどね・・
「う・・うん! えっと・・見習いだけどね」
とりあえず・・・なんとか誤魔化す。 10歳の少女が王族のメイドって・・・無理があったかな!?
信じてもらえる!? 不信人物に見られてるかな・・
だが・・・ラーインは適当につじつまを合わせて・・納得したようである。
「なるほど! 王族のメイドともなると・・俺の店に入りにくいのか~ そうか!! それは残念だなぁ」
「うんうん そうなんだ! アリスフィーナ様も一度は食べに行きたいと言ってたよ」
「それは・・・光栄だなぁ おじさんはうれしいよ」
◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇
アリスは脳内ナビで検索した部屋の扉を開けた。
脳内ナビでは・・・調理室らしい。
調理ができる器具やら道具があればいいのだが・・・
調理室と言う名称だけで・・・ただの部屋という可能性もあるのだ。
とにかく・・・アリスは部屋に入り・・ぐるりと見渡す。
内部は割と広かった。
調理室というより・・・食堂のような部屋である。
もちろん 無人であり人はいない。
部屋の中は・・調理を行う魔道具類が設置されており、多くの椅子やテーブルも整然とおかれていた。
すぐにでも ここで食堂を開店できるのではないかと思えるほどの状態である。
しかも明るい!!
ここは地下十階などだが・・・天井がガラス張りとなっており日光がはいってくるのだ。
もちろん時空のゆがみによるトンデモ現象。
納得いかなくても現実的に納得するしかないのである。
もちろん・・・アリスの横にいるラーインの顔がものすごく複雑な顔になっていた。
理解不能の顔であろう。
このラビリンスは・・・頭で理解してはならない!
感覚で理解するのだ・・・そうでないと、思考が崩壊する。
そんな不可思議空間であるが・・・ラーインの目のターゲットが調理器具へと移った。
ラーイン・・・やる気120%・・エネルギー充填。
ここは・・・調理人ラーインを燃え上がらせるに十分な調理器具がそろっていたのである!!
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)