アリス危機一髪
アリスは目前の・・・限りなく怪しいキザ男から 自分の本名を言われ・・わずかに目線を上げた。
そして・・そのわずかな目線を・・ナイフ伯爵は見逃さなかったのである。
「やはり・・・アリスフィーナ姫でしたか! だけど・・噂と違って魔法はお得意のようですね!」
「・・・えっと いいえ、うちはメルといいます。姫様に間違われて光栄ですが・・うちはしがない神官です」
アリスは・・・おもっきり否定したが・・・ナイフ伯爵は首を横に振った。
「・・・うそですね! 男性を神官…女性を巫女と称しているのですよ! どうやら アリスフィーナ姫はルーラー教に疎いようですな」
「えっ!?」
アリス! 目線が金魚のように泳ぎまくり・・うろたえる。
性別で名称が変わる!? ほんと!? リサーチ不足だった。
「いや~ アリスフィーナ姫、動揺しまくって・・・バレバレですよ! やっぱし姫様ですよね!」
勝ち誇ったように・・持っている財布をまるで扇子のようにして口を隠し笑うナイフ伯爵。嫌味な奴である。
「うちは・・・えっと姫ではなく名前はメル あらためて巫女をやってます」
「ほっほほ・・・ルーラー教には実は・・・巫女なんていないのです!!
男性の神官しかおらず、女人禁制なのですよ~ またまた 騙されましたね姫!」
「え~ いや えっ!? 女性がいない!?」
ナイフ伯爵に遊ばれまくられるアリス!
うっうう・・・悔しい!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
パンチ、パンチ、フック、ガード! パンチ、ガード!
ルティス皇帝とユセル大公、両者の壮絶なボクシングは なおも続く・・
決して譲れない・・・帝国をかけた決闘!
だが そんな戦いの最中・・・アリスとナイフ伯爵のやり取りの声が ユセル大公の耳に入ってきてしまった。
そして・・思わずナイフ伯爵の発言に対して ツッコミをいれてしまう。
「ルーラー教に巫女はいたぞ!! 俺の正室は そのルーラー教の元巫女だったのだ!!」
この何気ない一言!! この一瞬の間!!
ユセル大公にとって、致命的なミスになってしまった。
互角で殴り合いしていたルティス皇帝とユセル大公、ついにこのとき・・・均衡がくずれてしまった!
「油断したな!! くらえ、余のミラクルアッパーカット~」
ルティス皇帝の炎を巻き込んだ腕が、旋風を巻き起こしながら 大公のアゴをめがけて飛び込んでいく。
一瞬のよそ見が命運を分ける! 大公に防ぐ手段はない。
"不味い!" 大公は心の中で叫んだ時・・・彼は宙を舞っていた。
身体をクルクルと回しながら恐るべき浮遊感を感じていたのである。
そして・・・ドッサッという音ともに・・・
「ぐにゃゃぁぁぁぁぁあぁぁぁ」
ナイフ伯爵の悲鳴がこだまし・・・ドップラー効果のようにその悲鳴は 遥か彼方へと去っていった。
一体何が起きたのか!?
そう! アリスは その時、目撃したのである。
機嫌よく話していた目前の男、ナイフ伯爵の頭上からユセル大公が降ってきて激突したのだ。
詳しく言うと・・・ルティス皇帝のアッパーカットによって ユセル大公は宙を舞い・・・
・・・ナイフ伯爵の唇を奪うがごとくガッチンコ!
そのまま両者は抱き合いながら ナイフ伯爵の悲鳴とともにラビリンスの通路奥深くへと転がっていった。
ゴロゴロゴロゴロ♪
そして・・・転がっていく二人の男たちをアリスは・・冷ややかに見ていた。
実はこの時! アリスは知らず知らずに命拾いをしていたのである。
時系列はわずかに時間を戻し 視点はナイフ伯爵へ。
そのナイフ伯爵は アリスとの何気ない!?会話によって
その少女が アリスフィーナ姫だという確証を得た。
そして・・
・・・ヴェーラ皇太子からの依頼、すなわち・・・アリスフィーナ姫の抹殺を決意する。
伯爵は手にしていた財布を強く握った。
この財布・・・見た目は高級感あふれるエレガントな財布でもあるが、実は武器にもなっていたのである。
そう!! この財布には・・・切れ味の鋭いナイフが仕込まれており、
ボタン一つで ナイフがアリスに向かって飛び出す仕様になっていた。
ナイフ伯爵のナイフである。
ナイフ家代々に伝わる暗殺術でありその家名にもなったナイフ術!!
目の前の可愛い少女に・・・伯爵はわずかにためらったが これもナイフ家の宿命、やらねばならない!
これはビジネスなのだ。
ナイフ伯爵の目が突然、殺意の目となった。
ターゲットは目前のアリスフィーナ姫!!
だが、その瞬間、頭上から なにやら物体が降り注ぎ・・・
・・・ナイフ伯爵の情けない悲鳴と共に通路の彼方へと転がっていったのであった。
アリスは・・・ナイフ伯爵の暗殺術から 知らず知らずのうちに からくも逃れたのである!?
(世間的には・・・主人公補正とも言われている)
◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇
ラビリンス地下5階の広場・・・・
・・・そこの格闘技リング上には・・・
ユセル大公にとどめの一発を与え ついに打ち勝ったルティス皇帝。
そして・・その勝利をアピールするように片手を上げる
だが・・そのアピールに反応する者はいなかった。
皇帝の周辺にいる兵士たちの大半は・・渇きと飢えで倒れ伏しており だれもボクシング試合など見てはいなかったのだ。
実にさびしい。
いや!・・・違う! 一人だけ、なんとか頑張って拍手する御仁がいた。
そう! 一人だけいたのである。
それは帝国参議の役職についているネイレル。
ユセル大公の怒りを買い、太った体系でこのラビリンスを逃げまくりダイエットをした結果・・・
オーク参議とまで言われた体系は嘘のようにやせ細り・・・ものすごい好青年となって別人化してしまっていた。
そんなネイレルは 政敵であるユセル大公に対して 強烈な一撃を与えた皇帝に拍手喝采をするのである。
パチパチパチ
ひとりだけの拍手なので やっぱし寂しい。
皇帝は拍手する人物を 参議のネイレルだとは思っていない。
ルティス皇帝は太ったネイレルと 何度か会話し・・見知った間柄だったのだが・・・
現在・・・イケメン化した青年となりはてている人物をネイレルだと理解していなかったのである。
とりあえず拍手してくれたので、そのネイレルに向かって サムズアップなんかしたりするのであった。
その後・・・おまけとして上半身裸の筋肉モリモリを見せるため・・・ポージングとかもしていたりする。
ほとばしる汗・・・ちょっと暑苦しそうである!!
ルティス皇帝は弟のユセル大公を倒し、意気揚々、大満足であった。
そんな上機嫌な皇帝は フト!気づいた。
この広場の片隅に神官服を着ている少女がいるではないか!!
しかも・・・その少女の顔は・・・
「おっ・・・久しぶり アリスフィーナ! 元気にしてたか・・」
アリスにとって父親でもある皇帝ルティスは・・・気軽な感じで声をかけてきた。
皇帝は・・・神官服でコスプレしている少女を娘だと 見破ったのである。
さすがの皇帝と言うべきか・・・または、アリスの放つオーラの色で娘だと判断したのかもしれない!?
だが・・・そんなトンデモ皇帝であっても、アリスの境遇については知らなかったのであった。
皇太子ならいざ知らず・・・
・・・王子、王女が9人もいるとなると、一人一人にそれほど関心を持つわけにもいかず 人任せにしていた。
そのため アリスの立場を理解しきれず、彼女が王室内で孤立していることや、
上級官僚や貴族たちに無視されたあげくに 食事もだされなくなっていた境遇を 把握できなかったのである。
その反面・・・ラビリンス内で籠り、幻の姫やら大吉姫やらと面白い噂になっていたことは知っていたので・・・
・・・他の王女よりは気になっていたのかもしれない。
一方・・・
気軽に声をかけてきた格闘リング上にいる半裸のおじさんが いったい誰なのか アリスには分からなかった。
こんな半裸な人、露出狂!? いったい誰!?
アリスは・・父親、つまり帝国皇帝と顔を合わせた記憶がほとんどなかったからである。
「・・・どなたなのです!?」
娘に誰と言われるショック!!
だが・・・よくよく考えると・・・皇帝ルティスとアリスフィーナ姫が出会うことはほとんどなかった。
今となっては少し後悔・・・頻繁に顔ぐらい合わせるべきだったと反省とかしていた。
「そうか! そうか! ほとんど会わなかったからなぁ 余は皇帝だ・・お前の父親だ」
「えっ! 皇帝!? 裸なのに!? えっ!?・・お父様!?」
「は・・・裸ではないぞ! ズボンは履いているぞ!」
「あ・・うん! そうだね! でも お父様!?」
アリスは困惑しつつ父親と名乗る皇帝を凝視する。
目前の人物、父親と名乗る皇帝の姿は上半身裸・・それは仕方がないが
・・ボクシング試合のため汗だく・・・所々に血が・・・というか血だらけ!
あまりにも・・痛々しい姿であった。
アリスは詠唱を唱えた。
精神系に類する魔法で・・・体の傷を軽く治す魔法である。
ただし・・・軽く治せる程度で 完治できるのではない!!
父親であるルティス皇帝が わずかに白く輝くと・・傷ついた皮膚が修復され・・・痛みも消えていった・・
「お~さすが! ミリナの娘だ! この治療された感じ・・・ミリナとそっくりじゃ」
ルティス皇帝は 昔のことを思い出した。
たしか娘のアリスフィーナ・・・目の前の娘はたしか・・魔法が使えなかったはず・・・
だが! みごとな治療魔法をつかっているではないか!!
さすがミリナの娘!
幼い時の魔法判定など・・気にする必要などなかったのだ!
ルティス皇帝は わずかに涙腺がゆるむ。
そんな皇帝・・・いや父親をアリスは見た。
白髪が目立つ彫りの深い顔・・でも、わりと若い顔なのね・・などとおもった。
もしかして・・初めて父親の顔を見たのかもしれない。
父親にして皇帝・・・・いったいどういう礼儀をしたらいいのか・・・アリスにはわからない。
首をフリフリしながら・・・思わず困り果てたのだが・・・
そんな仕草をするアリスをおもわず かわいいと思う皇帝であった。
「うんうん・・・アリスフィーナよ! 学園はどうなのだ?! いや! まだ入学してなかったか!」
「学園!?」
「おやっ 知らされていない?! それはいかん・・手続きをしておいてやるので 後で学園にいくといい!!」
「う!? うん いってみる!」
いきなり・・・父親から言われた学園とは・・・皇宮内にある王立学園、すなわちカールレン学園のことである。
皇宮内に住まう貴族や官僚の子女から・・帝国内で優秀だと認められた平民などが通える高等教育機関。
一応・・・王侯貴族には入学試験がパスされることになっているが・・・
・・・・あまりにも標準以下の成績だと 入学をあきらめてもらうことになっている。
「アリスフィーナよ! たまには 顔を見せにこないと 余は寂しいぞ!・・・というか正直言うと、忘れかけていたのじゃ」
「うん お父様に会いに行くよ」
アリスは・・・安心した。
他の王侯貴族たちとは違い・・・父親である皇帝は・・うちのことを邪魔だとはおもってはいなかった。
「うれしい! お父様!」
「あっ そうか うん!」
よく分からないが アリスの笑顔につられて 顔を同じく笑顔になってしまう皇帝。
そして・・・そんな様子を伺うネイレル。
かつてオーク参議といわれ太りまくっていた彼だが・・・今ではすっかり飢えで痩せてしまいイケメン化してしまっていた。
そして・・・父娘の再開!?に涙してたりする。
そんな感動な再開の周囲では・・・もはや限界寸前の兵士たちがへたりこんでいた。
かなり・・ヤバイ状態かもしれないが・・・・ここで奇跡が起きた。
ラビリンスの安全機能が復活したのである。
ラビリンスの謎機能の謎判断によって・・・現在、戦時下ではないと判断されたようだ。
おそらく戦争の当事者であるユセル大公が地獄でも落ちて消滅!?
戦闘終了とでも判断したのであろう
ルティス皇帝やネイレル・・・そして 飢えと渇きに苦しむ兵士たちが白い霧につつまれ・・・
そして・・・陽炎のように姿を消していく。
あれほど・・・人が多くいたこの広場には・・現在、アリスしかいない。
あと・・・なんか下着とかが床に散乱しているのだけど 足で蹴とばして隅においやり・・・見ないことにした。
祭の後の静けさ・・・
「みんな・・・帰っていったのね! なんか寂しい!」
・・・・と思ったが、・・・とりあえず、金貨2枚と・・色々な鎧と剣が手に入ったので・・・当分の資金には困らないだろう。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




