落日対決・アリス戦記
ユセル大公は王座の間の出入り口にあたる重厚な扉を閉め 厳重に鍵をかけた。
もちろん・・・危険な少女から逃げるための時間稼ぎである。
その危険な少女アリスは この扉を開けようとしたが・・・硬くて開かない!!
叩いても引っ張っても開かない。
一刻も早く・・扉を開けないと・・・大公を逃がしてしまう。
やはり!! 魔法で扉を破壊するしかなさそうだ。
アリスは両手を広げ・・再び必殺魔法、超重力弾の準備を始めた。
「ターゲットオープン・・・出力100%・・・耐重力バリア確認・・・なんかめんどくさいなぁ 撃てぇ~」
途中のセリフをぶっとばし・・・アリスは即座に超重力弾を放った。
ズドゥゥゥゥ―ン
玉座の間の出入り口・・・装飾を凝らした重厚な扉は まるで積み木が崩れるがごとく崩壊し
その弾頭は そのまま勢いを殺さず内部へと吸い込まれていった。
・・・・アリスの視界は埃で真っ白! まるで霧が立ち込めたように全く前が見えないが・・
遠くからの悲鳴だけは聞こえてくる。
アリスの超重力弾は 周囲に衝撃波をバラまきながら突き進んだ。
玉座の間を飾る彫刻を粉砕し・・・ステンドガラスは破片となる。
そして、皇帝が座る王座・・・様々な模様で装飾された威厳ある王座は・・
見事に粉砕され・・・跡形もなく消滅してしまったのである。
玉座の間の隅っこには・・・吹き飛ばされた人たちが床に倒れていた。
彼らはユセル大公の側近や騎士の人たちである。
しかし・・・大公だけはなんとか助かったようであった。
大公が身につけているマントを盾代わりにして ・・・衝撃波をしのいだのだ。
このマントは・・・魔導マントであり・・・それなりの防御力をほこっていたのである。
「な・・・なんてやつだ!! あの少女!! やはり恐るべき少女だったか! 」
側近も騎士も・・・あの少女の不可思議な魔法で吹き飛ばされ・・・再起不能となっている。
しかも・・玉座の間は瓦礫の山。破壊尽くされ原形を留めていない。
手加減無用の魔法を撃ちこむ・・とんでもない少女の存在に大公の手が震えた。
これが死の恐怖!!
「うっううう」
とにかく・・・ユセル大公は転がりながらも 瓦礫をよりわけ 少女のいない方向・・・裏手のドアに向かって逃げた!
・・・一人で逃げた。
もはや ついてくる側近も騎士もいなかったのである。
とにかく・・・逃げるのだ!!
逃げさえすれば・・・再び協力者を増やし・・兵を挙げる事ができる。
白い霧が晴れ 視界が良好になると・・・
アリスの目前には・・見事に破壊された扉が目に入ってきた。
もちろん・・・アリスは玉座の間に侵入する。
伯父であり・・仕返しのターゲット、ユセル大公をどつき倒すため!!
そこは玉座の間・・・皇帝が座する部屋である。
本来なら 美しく装飾され 帝国の威信をこれでもかと示す場でもあるのだが・・
・・・そこは瓦礫だった。
もちろん・・・破壊したのはアリス!! 超重力弾を撃ち込んだためである!!
玉座の間で飾られていた絵画は・・・木っ端みじん!!
装飾された美しい柱は折れ 天井の角材は落ち 全ての装飾品が無残な姿となって散らばっていた。
アリスの目に映ったものは残骸だった・・・しかし!!
そんな残骸の中から ターゲットすべきものが目に入る。
それはユセル大公ではなく・・・人の欲望を掻き立てるものであった。
「宝石だ! 宝石よ! これだけ宝石があれば・・・10年は戦える」
キラキラと光る石の結晶。世間的には宝石というらしい。
この宝石類は・・・王座の間で装飾品とともに飾られていたのだが・・・
超重力弾による破壊工作によって バラバラとなり 床一面に散らばってしまったのである!!
もちろん、アリスは遠慮せず宝石に手を伸ばし、懐にしまいこむ。
掴んではしまい込み・・掴んではしまい込み・・どんどん懐にしまいこむ。
生活費の確保だ!
割りと大きめで、ずっしりとした質量感、これぞ宝石と言う風貌!!
宝石の種類は分からないが・・・たぶん、かなりの値打ちの物だろう。
さすが・・・王家ご用達の宝石といったところか!?
見ていて飽きない・・心を奪われてしまいそうである。
第四王女なのに・・・はてしなく貧しいアリスは生活費のために これら宝石を自分の所有物にしてしまったのであった。
「えへっ えっへへへへ うれしいなぁ うれしいなぁ 宝石が一杯だ!」
奇怪な笑い声が玉座の間で鳴り響く・・・
アリスは目先の利益に走ったのであった。
欲にかられたアリスは・・・すっかりユセル大公のことを忘れてしまった。
そのユセル大公は・・・ふら付きながらも玉座の間の裏手から脱出した。
「な・・・なんと恐ろしい魔法を・・・あの少女は誰なんだ」
ユセル大公は・・・あの少女を姪のアリスフィーナだと理解していなかったのである。
アリスフィーナは魔法を使えないという固定概念から・・・彼女の可能性を除外していた。
いや! それ以前にアリスフィーナの存在自体、忘れていたのかもしれない。
ユセル大公は・・壁に手をあて ふらつきながらも身体を動かしていた。
逃げるのだ!!
この皇宮から脱出するのだ。
だが・・・ユセル大公は見た。
通路の窓から・・・外の景色を見たのだ。
そこには・・無数の旗!
皇太子の紋章が描かれている無数の旗が・・・風にたなびいていたのである
そう! 皇宮奪還のため ヴェーラ皇太子は素早く兵を集め 素早く進軍してきていたのであった。
そして・・・すでに皇宮内に入り込まれていた。
「不味い 不味い・・・これでは逃げ場がない!」
ユセル大公は最後の選択をした・・・兄である皇帝がいる場所、あの大深度ラビリンスに逃げ込むのだ。
とりあえず時間稼ぎになる!!
◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇
クーデターが発生した当日・・ヴェーラ皇太子は皇宮にいなかった。
その日・・・たまたま数人のお供を連れて・・・ルエルの町にまで・・・遊びに行ってたのである。
ルエルで評判の茶菓子屋に興味をいだき 庶民の味を食べるためのお忍び、そのおかげで・・・クーデターに巻き込まれずに済んだ。
丸っこい顔の幼さが残る皇太子ヴェーラ・・・24歳のはずだが・・・10代前半に見えてしまう残念な姿である。
10歳も若く見えるなんて・・・羨ましいなどと女性たちは思うかもしれないが・・・
・・・皇太子の場合、完全なる威厳不足となってしまっていた。
そんな彼が・・・茶菓子屋で・・・団子を頰張りながら・・・皇宮の異変のしらせを聞いたのである。
知らせをもたらしたのは・・・クーデター軍から間一髪で脱出した皇太子ヴェーラの側近の一人であった。
「もぐもぐ・・ユセルのおじさんが!? まさか・・・」
「そのユセル大公です。1万の兵を率いて決起! 皇宮が占領されています。
皇帝陛下はラビリンスへ逃げ込み消息不明、母君も皇宮から脱出したようです」
「もぐもぐ・・・母上は大丈夫そうで安心だが・・・父上がラビリンスか・・・すこし不安だな!!
それにしても・・もぐもぐ・・おじさん・・なんてことを!! いや!! あのおじさんなら・・やりかねん」
「ヴェーラ様! ここにも敵の手が及ぶかもしれません。すぐにでもここから離れるべきかと・・」
「いや! もぐもぐ 私は逃げない! 反撃をするのだ!
そうだ! まずは金だ! 金の用意だ。このルエルには私の名義になっている資金があるだろ!
その資金を下ろし・・・とりあえず傭兵を雇うのだ 急げ・・・ もぐもぐ」
大事な要件を話しながらも・・・とりあえず団子だけは口にいれる皇太子だった。
ついでに言うと・・・このような要件を 茶菓子屋で・・・それも一般客の多い場所で話たものだから・・・
あっという間にルエルの町中に 皇太子が反撃のための兵を集めているという話が広まった。
そう! 皇太子ヴェーラの評判は悪くない。それどころか人気がある!!
貧しい人に食べ物を施したり・・・孤児院への寄付・・・各ギルドへの挨拶周り・・・
腰が低く威張らない性格などによって・・町の住民から好感を得ていたのであった。
そんな好感度の高い彼が 反撃のための兵を集めているとなれば・・すぐにでも傭兵が集まってくるであろう。
事実、茶菓子屋から出て・・・ルエルの町の代官所に向かう途中で・・すでに傭兵の数人から声をかけられていた。
「ぜひ! 我らも参加させていただきたい」
「お~ 願ってもない! 協力を感謝する!」
「我らも」
「俺も・・」
「わしらも・・」
それから・・続々と人が合流してくる。
中には、ただの野次馬もいるであろうが・・かなりの人数だ。
皇太子ヴェーラが ルエルの町の中央にある代官所につくころには・・・なにやらデモ隊のように叫び声をあげる集団となっていた。
そして・・・その様子を見たルエルの代官所の人たちに冷たい汗が流れたのである。
この代官所には 今だ、クーデター情報が伝わっておらず・・・いつもの平穏な一日だと思っていたはずなのに・・・
代官所をとりまく・・傭兵のような集団。
「げっ 暴動なのか!? 私たちは何かやらかしたのか!?」
代官の顔が引きつった。
ルエルの代官であるセールナイは品行方正であり不正などしない人物であった。
そんなセールナイは その妙な集団の・・ど真ん中に陣取る人物の顔を見て・・・驚いた。
「皇太子様がいる! なぜに!?」
皇太子は・・・町の住人に人気もあり・・住人の訴えにも耳を貸し・・・数々の事件を解決してきた。
・・・となれば、これだけの住民、傭兵を率いて代官所にくるということは・・・とんでもない事件が起きたという事なのか!?
間違いなく誰かが不正をしたな! いや、賄賂事件か!? ・・となると奴だ ドザクだ! ついに・・・ここまで大騒動にしてしまったか!!
セールナイは振り向き 賄賂と汚職疑惑のあるドザクを睨んだ。
「とうとう・・・皇太子様を怒らしたようだな・・・・だが! 私も部下の管理不足で罰せられそうだ」
「え!? 俺は・・・やって・・・ぎゃぁぁぁ~」
ブクブクと賄賂で太り切ったドザクは 自分の体重で転がりながらも 慌てて逃げ出した!
どうやら・・・心当たりがあるらしい。
ついでに 賄賂か何かで得た金貨を床に パラパラと落とすなどということもやらかした。
チャリーン チャリーン
「あいつの給料で・・・あの金貨の量はないだろ! すぐに捕縛しろ!」
セールナイの命令で・・・ドザクはすぐさま・・・御用となった。
そんな事件はあったものの・・・・皇太子の要件は賄賂官僚の逮捕ではなかった。
「えっ・・・クーデターが発生したというのですか!!」
ヴェーラ皇太子から聞かされた話で・・・キョトンとする代官のセールナイであったという。
「おい! ほうけている場合じゃないぞ! 国家の危機だ! この代官所を臨時作戦基地とする。
傭兵たちも参集するはずだ」
ヴェーラ皇太子は できるだけ傭兵の力たけで解決しようと考えていた。
地方領主の力を借りれば・・・その領主になんらかの権力をわたす必要がでてくる。
できるだけ独断で解決したいのだ。
そのためにも 持てる資金で できるだけ多くの傭兵を雇い入れる。
ただし・・・傭兵を完全に信用できない点も考慮しないといけない。
一応、各地の皇帝直轄領に伝令を飛ばし・・・兵を集めさせているが・・即座に集まることはないだろう。
そして
・・・数時間後、ヴェーラ皇太子の予想を上回るほどの傭兵や義勇兵があつまった。
もはや・・・代官所前は、人の海であふれていた。
こうなると別の不安が生じ始めてきた。
この傭兵や義勇兵が このルエルの町で悪さをやらかす可能性だ。
おそらく・・・中には質のわるいゴロツキのような連中も混ざっているに違いない・・
そして・・・最大の懸念は食料だ。
彼らに供給する食料に問題が出かねない。
「いかん!! このまま傭兵や義勇兵が増えると収拾がつかなくなるぞ・・・・・
・・・・すぐに皇宮に向かって進撃開始だ!! 」
ヴェーラ皇太子に冷や汗がでる。
彼ら傭兵や義勇兵を統率できる者は少ない。
ヴェーラ皇太子でさえ・・・兵の指揮をしたことがないのだ。
「だが・・・やるしかない!」
ルエルの町を出撃し・・・統率が取れないがゆえに バラバラとなりながらも カールレン皇宮へ
ヴェーラ皇太子軍は進撃を開始した・・・
途中で・・・・ビジネスですと陽気に手をふるお調子者のナイフ伯爵と合流、
皇宮内部の詳しい情報を得ており
もはやクーデター軍の半分は瓦解しているという情報を得たのであった。
そして、その情報通り皇太子軍が皇宮に到着した時には
敵となるべきユセル大公のクーデター軍はあっけなく降伏したのである。
ヴェーラ皇太子軍は 寄せ集めとはいえ・・1万近くの兵力に対し・・
ユセル大公のクーデター軍で戦力になるのは300名たらず・・・もはや戦いにならないレベルであった。
クーデター軍の指導者・ユセル大公が不在である以上、ユセル大公に味方した貴族たちは バラバラと逃げ出し、
残された兵たちは あっさり矛を収めたのであった。
上からの命令でクーデターに参加させられただけの兵隊たちなので 仕方がない事である。
ヴェーラ皇太子と側近たち数名は皇宮の宮殿、玉座の間に入り・・・その惨状を見て唖然としてしまった。
王座の間は・・・破壊の限りを尽くされていた。
もちろん ここで破壊活動をしたのはアリスである! ついでに宝石類も盗んでいる!!
アリスの存在など 皇太子の知るよしもない。
常識的な判断をすれば・・・この場所で激戦が行われたという結論に至る。
まさに戦場跡という風景であった。
「こ・・・これほどの激戦・・・父上に怪我はなかったのだな! 間違いなく大深度ラビリンスに逃げたのだな!」
「敵兵からの尋問で・・・皇帝陛下は無事とのことです」
「母上は皇宮から無事に脱出・・・他の兄弟たちの・・・安否・・・」
この時・・・ヴェーラ皇太子はあることに気が付いた。
魔法が使えないあの出来損ないの妹、第四王女・・たしか・・アリス、そうだアリスフィーナだ。
平民出の怪しい女魔導師ミリナと皇帝である父上との間に生まれた腹違いの妹・・・そして邪魔な妹。
だいたい・・あの側妃ミリナ、あの女魔導師は・・・異常すぎる! 人間離れしすぎている。
ありえないような魔法を操っていたのだ。
それに私は・・・見たのだ!! 魔方陣から悪魔を呼び出し・・・ミリナとなにかの会話を交わしていたところを・・
私は確信したのだよ・・・あの女魔導師ミリナは人間ではなく、魔族だと!!
人間に災いをもたらす魔族だ!
幸いなことに・・・あの女魔導師は死んだ!!
それに あの妹には魔法の素質は無かったのだが・・・安心などしてはならない!!
あの妹に魔族の血がはいっているのだから・・・
そうだ・・・・このドサクサまぎれに・・・あの妹を処分しよう!
皇太子は・・・側近の一人に命じた。
「ナイフ伯爵に私の自室に来るように伝えてくれ・・」
「はっ ただちに!」
皇太子の口から ナイフ伯爵の名前が出てきたことで・・・何人かの側近は怪訝な顔をした。
伯爵は・・お調子者で道化師のような振舞いをおこない・・・貴族として問題のある人物だとおもわれていたからである。
だが裏では・・・汚い仕事に手を染める人物・・・・
・・・つまり 皇太子ヴェーラの裏側を担当する人物だったのである。
その日の深夜・・・ナイフ伯爵は皇太子の自室に訪れていた。
裏の仕事を受けるのは いつも深夜である。
決して人に知られてはいけない。
特に・・・国民から人気のある皇太子にとって 決して明るみにしてはならない たくらみなのである。
皇太子は・・・ナイフ伯爵に命じた。
「この混乱に乗じて 第四王女を排除できないか検討してくれ」
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




