カールレン皇宮は燃えています!
-----聖誕暦1156年、空月の前三日の早朝-----
その日は朝から賑やかだった。
爆発音・・・悲鳴・・・叫び・・・泣き声
そして、敵の侵入を知らせるサイレン!
ただならぬ事態が発生している。
戦争である!
敵が侵入してきたのは・・・正門からではない。
何者かの手びきによって皇宮の城壁が 突如として爆破され
そして・・崩れた城壁の隙間から およそ1万の敵兵が皇宮内部へと侵入したのである。
皇宮守備隊にとっては・・完全な不意打ちであった。
守備兵は右往左往して混乱、反撃もままならず・・・指揮系統も崩壊!
あっという間に壊滅した。
現在・・・広大なカールレン皇宮の各所から白い煙が立ちのぼり・・火災も発生しているようである。
鎧の音を響かせた兵士が走り回り、各所で小規模な小競り合いが発生しているようだ。
逃げ惑う官僚や非戦闘員で通路は大混乱ではあるが・・・
攻め込んできた敵の兵士たちは・・・冷静に判断しているようで、非戦闘員には危害をくわえていない。
おそらくは訓練をほどこされた正規兵・・・
・・・しかも、その兵士の鎧にはヴェイネス帝国の紋章が刻まれていた!?
すなわち・・・侵入してきた敵兵は敵国の兵士ではない!
同じヴェイネス帝国の兵士が皇宮を襲撃してきたというわけである。
味方が味方を襲っている!!
一体なにが起きたかというとそれは・・・・・クーデター。
首謀者はユセル大公。
アリスの父親、皇帝ルティスの弟にあたる人物。
アリスから見ると叔父にあたる。
ユセル大公率いるクーデター軍は・・・皇宮の要所を確実に占領していった。
反抗する者もほとんどおらず作戦は順調である。
クーデター軍の兵士たちのほとんどが・・皇宮外部の兵士たち。
この皇宮特有のラビリンス構造については まったく理解はしていないだろうが・・・
今のところ・・・問題は発生していない。
ただし・・百名ほどの兵士がラビリンスに入り込み行方不明となっている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
クーデター発生から3時間。
皇宮の中心部、皇帝の住まう宮殿、王座の間に一人の男性とその側近たちが入って行く。
歳は若く30代、黒髪に黒マントに黒衣装・・・あげくに黒帽子をかぶり
目元だけを隠す・・・あれなマスク!をつけている。
どこかで見たようなヒーロー衣装で身を固めたこの男性が・・・ユセル大公。
アリスと同じように・・・または血すじのせいなのか・・・この男も恰好をつけたがる中二病であった。
とにかく・・・ユセル大公はマントをひるがえし・・
新皇帝誕生を印象づけるようにして 中央の玉座に座った。
「なるほど・・・よい座り心地だ」
すでにカールレン皇宮の中心部は・・ユセル大公配下の兵士たちによって制圧されていた。
大公の政敵、または敵対する者は・・・次々と拘束されていっている。
反抗勢力は ほぼ壊滅しているだろう。
ユセル大公に与する貴族たちは・・・帝国貴族の1/3にもおよび 支持基盤はがっちり固めている。
その上、兄である皇帝を捕縛すれば・・・皇帝の玉座を手にすることも可能であろう。
「ふっ 警戒心がないから・・クーデターなど起こされるのだ!
だが俺は心やさしい! やさしい気持ちをもっている。
そうだなぁ~ バカ兄には どこか遠くの島で幽閉でもしてもらうか!」
ユセル大公は上機嫌である・・・すでに勝った気でいたのであった。
クーデター決行の前日、ユセル大公と皇帝ルティスは 二人で大笑いしながら酒を酌み交わしていた。
それはそれは・・・上機嫌なほど羽目をはずし 仲良く飲む姿であった。
クーデターで政権奪取するなど想像できないぐらい仲の良い姿だったのである。
・・・もちろん本心で仲良くなったわけではない!
兄である皇帝を油断させるためだったのだ。
「油断大敵ってやつだ!!」
王座の間に次々と伝令が駆け込んでくる。
クーデター軍の各連隊からの報告である。
皇宮各所の占領を伝える伝令であり作戦は順調に推移している
その報告を聞いたユセル大公は・・・まさに我が世の春を絶賛体験中であった。
「よくやった 褒めてつかわすぞ」
大公は伝令の報告を聞きながら・・・ワイン片手に匂いと味を楽しんでいた。
まさに勝利の味というわけである。
すでに勝ったも当然!
近い将来に実現するであろう皇帝即位式に思いを馳せるのであった。
だが・・・我が世の春も長くは続かない!
ここまで順調だったのだが・・・最後のツメで失敗したのだ。
兄である皇帝ルティスを取り逃がしてしまったのである!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
クーデター軍1万の中核ともいえる騎士団。
その騎士団の隊長ゲルラは 数十人の騎士達を率いて宮殿上層部にある皇帝の寝室前に集結していた。
いよいよ正念場である!!
ルティス皇帝を拘束するのだ!!
騎士隊長ゲルラは片手をあげ、無言で他の騎士に"状況の開始"を知らせる。
そして・・ゆっくりとした動きでドアノブに手をかけた。
隊長ゲルラは・・・背中に冷や汗を感じていた。
これから相手する人物は・・・皇帝である。
帝国でもっとも貴き存在。いわば神聖不可侵の存在に手をかけようとしているのだ!
体中が震えている! だが命令なのだ。やらねばならない! やるしかない!
「いけ!」
ゲルラは叫びのような号令とともに 寝室のドアを一挙に開けた。
だが・・・真っ白い!!
皇帝寝室が白い煙で染まっていたのだ。
騎士達は・・予想外の事態に戸惑う。
寝室全体が白い煙幕でつつまれ・・・まったく視界が効かない
皇帝の姿も確認できないのだ。
だが・・・皇帝の声だけは聞こえてきた。
『 馬鹿な弟に伝えよ!! ここまで余を追い込んだのは褒めてやる。だが! ここからが勝負だ
はたして・・余を捕えることが出来るかな!?
さぁ ここから始めよう! 帝国の命運をかけた追いかけっこを・・・』
騎士達の耳には煙幕に包まれた寝室から・・・なにやら皇帝の声のような セリフのような声が聞こえてきた。
『 余を捕えても第二、第三の・・・余は復活する。余は滅びないのだ・・・ビー、ガタガタ、ビー
・・よし、ここで録音を止めたらいいのだな! いえ、あっ ここの声も録音され・・・
・・・・・・・
余を倒しても第二、第三の・・・余は復活する。余は滅びないのだ・・・』
どうやら魔導録音機による繰り返しメッセージのようである。
ついでにいうと・・録音機の操作に不慣れで・・なにやらおちゃめな皇帝の姿を騎士達は想像するのであった。
それはともかくとして・・騎士たちは寝室に踏み込む!
そして・・・寝室中の窓を全開させて煙幕の煙を外部に逃がした。
だが・・やはりというべきか・・煙の晴れた部屋には皇帝の姿はなく・・繰り返し流される魔導録音機だけが置かれていた。
どうやら逃げられたようである。
皇帝の寝室には脱出用の隠し扉が存在する・・・
・・・というのはよくあるあるパターンであり おそらくその隠し扉から脱出したのであろう。
◇◆◇◆◇◆
玉座でふんぞりかえりながら ワイン片手に・・・・クーデターの進展状況報告を聞くユセル大公。
次々ともたらされる情報に満足な顔をしていたが・・・
・・・そこへ 甲冑の金属音を響かせながら騎士団の隊長であるゲルラが走りこんで来た。
「申し訳ありません! 皇帝の確保に失敗しました。
我ら騎士団が踏み込んだ時には・・皇帝の姿はすでになく・・」
この報告を聞くや・・・ユセル大公の顔色がみるみる悪くなっていった。
最大の懸念問題となるであろう皇帝に逃げられたのである。
前日の夜に・・・ユセル大公は 兄にあたるルティス皇帝を酒で散々に酔わしたはずだ。
あげくに・・睡眠剤まで入れた。
今頃・・・二日酔いと睡眠剤で グ~スカと寝ているはずなのに何故だ!!
簡単に捕縛できるのではなかったのか!?
「なんて失態をしたんだ! あのバカ兄に逃げられただと・・・!! まずいぞ! まずいぞ!
もしも・・・あのラビリンス地帯に逃げこまれると・・・厄介なことになる!」
ユセル大公は地団駄を踏み・・目前にいる騎士団長ゲルラの胸ぐらをつかんだ。
「なんとしても探し出せ・・・皇宮内・・・いや! あのラビリンスをくまなく探すのだ!!」
「失礼ながら・・大公様! あのラビリンスに入り込んだとしても6時間待てば・・・迷いの森に召喚されます。
迷いの森で皇帝を待ち伏せすれば楽に捕らえることができます」
「おい! お前は知らないのか!! それでも騎士団長なのか!? この皇宮が戦時体制にはいると・・ラビリンスの安全機構が自動的に停止するのだ!!」
「え! いえ、はっ!・・・御意でございます。 直ちに皇帝の追跡をいたします」
騎士団長ゲルラは顔を真っ青にしながら・・慌てて退出していくのであった。
敵勢力が皇宮内に侵入した場合・・・迷宮ラビリンスの迷子転移機能は自動的に停止する。
そして逆に・・・その複雑な迷宮ラビリンスが 敵兵を迷子にさせる防衛設備となるのであった。
日本の城的にいえば・・一種の縄張り
これは・・・まだヴェイネス帝国と呼ばれず・・・王国と呼ばれてたころからの古い防衛機能の一つであり・・
かつて難攻不落と呼ばれたカールレン城のなごりでもあった。
隊長ゲルラがユセル大公に報告した通り・・・・・
皇帝ルティスは自室にあった秘密の隠し扉をつかい・・脱出したのであった。
巨大ドラゴンとの戦いによって現在、行方不明となっている側妃ミリナ、すなわちアリスの母親が秘密裏につくった・・隠し扉である。
時空をひん曲げることにより ワーム通路を作り上げ・・・ラビリンスのどこかへと繋げたのであった。
ちなみに・・・皇帝ルティスが睡眠薬の効果もなく二日酔いもしていないのは、
側妃ミリナが用意した・・・もしもの時の即効性解毒剤のおかげでもあった。
側妃ミリナは あらゆる事態を想定して 危機に備えていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日・・・アリスはメイド姿となり アリスフィーナ姫付きメイドということにして・・・
・・・いつものようにお食事処""峠の茶屋""へと向かっていたが、なぜか閉店していた。
この時間帯なら・・・下級官僚たちがあつまって賑やかなはずなのに・・・なぜか人がいない。
閑散としていた。
アリスは首をひねる。
「休み!? どうしたのだろう・・・」
現在、カールレン皇宮内は・・完全にユセル大公率いるクーデター軍によって掌握されていた。
そして 皇宮内全体にお触れを出していたのである。
""緊急事態のため、一般人の外出を一切禁止する。違反すれば重い罰を課すこととする""
いわゆる・・・戒厳令であった。
クーデター軍の兵士たちは おもな貴族たち、官僚たちを拘束していた。
それ以外の者たちも・・・無用に出歩くことを禁止されていたのである。
アリスは・・・ラビリンスの奥深くの隠れ部屋にいたので・・・皇宮の騒ぎを知らない。
いつものように お気楽気分で""峠の茶屋""に訪れたのであった。
ちなみに・・・
お食事処""峠の茶屋""の店長であるラーインは拘束されず・・無事である。
ラーインは 戒厳令中ということで 店を開けるわけにもいかず暇である。
そんなわけで・・創作料理などつくって楽しんでいたりしていた。
おじさんは・・・気楽だった。
だが・・・皇宮内で気楽にできない人たちがいた。
反乱をおこしたユセル大公と対立していた派閥の人達である。
いわゆる皇帝派・・・もちろん・・逃げ込む先は・・皇宮内奥深くの大深度ラビリンス。
太った体型で走るのもやっと・・・走るというより転がるようにラビリンス奥深くへと逃げ込む一人の人物がいた。
参議職の地位についていたネイレル。
先ほどまで・・・側近がいたのだが・・何やかやではぐれてしまい・・・
・・・・一人だけとなって走るようにコロコロと転がっていた。
以前の会議で・・・ユセル大公の掲げる西方生存圏の拡大計画、
すなわち、西方の大国エーレル・ハン国への大規模出兵を大公は主張してたのであった。
だが、その計画に猛反対したのがネイレル参議である。
それゆえに・・・大公の敵・・・政敵と認識されたのであった。
いや! それ以前に ネイレルは平民出の参議、保守主義的傾向の強い大公にとって
平民出のネイレルの存在自体が目障りだったのかもしれない。
ネイレルは 駆け巡るように大深度ラビリンスを走り回る。
太った体型・・・脂肪におおわれた顔やお腹を震わせながら走る。
オーク参議などとあだ名されるネイレルにとって・・このような運動もいいのだが・・・
ただし・・・追いつかれたら命を失う命がけの運動でもあった。
そんなネイレル・・・ラビリンスを走る。
そして・・本人でさえ・・・ここがどこだか分からない。
完全に迷路に迷ってしまっていた。
だが・・ネイレルは走った・・・追われている! 捕まったら殺される!
そんな恐怖にさいなまれたネイレルは走った。
走れ!ネイレル・・・どこかの文学作品とは関係はない! 友情ではなく自分のために・・走るのだ!
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




