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必殺・裏稼業  作者: Taylor raw
関本屋無惨
8/97

「じゃあ、今日も行ってくるよ、おふみ…… ご飯はしっかり食べとくんだよ」


 菅四郎のその言葉に妹からの返事はなく、彼は今日も奉行所へと向かう。


 いつものように奉行所への道を急いでいると呼び止める者が居た。


「菅四郎さん、菅四郎さんだね? 私は高木誠心だ。私を探してると聞いてね。今まで会えなくて済まない」


 温厚そうなその男は父親が頼りにしていた同心高木と名乗った。

 今の今まで探していた相手との思わぬ邂逅に菅四郎は驚きと苛立ちの感情を相手にぶつける。


「高木さん⁈ 探しましたよ! どうして今まで会ってくれなかったんですか⁉︎」


 父親の葬儀にも来なかった高木は済まなさそうに頬をかくと辺りを伺うように話し始めた。


「済まないね。お父さんがあんな事になっただろう? やはり典和さんに手渡された文書を狙ってるんだと思うんだよ。身の危険を感じていてね」


 高木が言うには身辺に危険を感じていたため身を隠していたという。


「……やはり、稲富商会の仕業でしょうか」


「私はそう思うよ。さあさあ、人目につかないうちに私の家で話そうじゃないか」


 そう言うと高木は先導して菅四郎に案内を始めた。

 ……高木が何故か人通りの少ない道を選んでいることに菅四郎は気づかない


 やがて町外れの一軒家に到着すると、高木は茶の準備を始める。

 菅四郎は苛立ちながらそんな高木に先に用件を進めるように促した。


「高木さん! 茶なんかいい‼︎ 早速ですが親父が渡したという資料はどこです? 同心であるあなたが奉行所にそれを持って訴え出れば役人だって動くはずだ。

 お願いです! どうか勇気を持って親父の仇を討ってください」


 高木は菅四郎を振り返りふう、と息を吐くとバツが悪そうに頭を掻き始めた。


「それなんだがねえ、菅四郎さん。

 もう忘れねえか? 過去の遺恨は」


「な、何を言ってるんだあんた⁉︎」


 この男は確か父の友人ではなかったのか……?

 何故そのようなことを……


 思わぬその発言に菅四郎が呆気に取られていると、奥の部屋の襖が開き見知った男が現れた。

 その男の顔を目にして菅四郎の顔は更に強ばり、目を見開く。


「やあ菅四郎さん。お久しぶりだね。典和さんの葬式には出られなくて残念だよ」


 その男は稲富商会元締、稲富弥平治いなとみやへいじであった。

 菅四郎は怒りに顔を紅潮させながら拳を握りしめた。

 憎き父の仇が突然現れたのである。

 ……しかし、いったい何故高木の家に稲富が現れたのだろうか


「てめえ……! 稲富‼︎ どう言うことです⁉︎ 高木さん⁉ なんでこいつがここに居るんです⁉︎︎」


 高木は人の良さそうな笑顔を浮かべながらそんな菅四郎を宥める。


「まあ菅四郎さん。落ち着いて。我々は友人でね。誤解があるようだから話し合いましょうや」


 ……友人だと⁈


 そして菅四郎は彼らの薄汚れた笑みと黒い繋がりに気づいて思わず障子に拳を叩きつけた。


「話し合いだと⁉︎ ふざけるな‼︎

 ……そうか、お前らそういうことか」


 激昂する菅四郎に構うことなく、稲富は煙管に火をつけ諭すように話し始める。


「なあ、菅四郎さんや。アンタの親父の仇云々は置いといて仕事の話をしませんか?

 確かに私と晩年の典和さんは折り合いが悪かった。

 でもな、アンタも妹さんも食ってかなきゃならないだろ?

 これからの関本屋は我々稲富商会と調子を合わせて歩んでいかんかね?」


 菅四郎は怒りに打ち震えながら稲富の顔をじっと睨みつけた。

 稲富は菅四郎の様子を見て取り、笑みを深めながら話を続ける。


「どうだね? あんたさあ、典和さんが私らに殺されたと思ってるのは逆恨みだよ。全く我々は典和さんの死に関与していない。これまでの関係を水に流そうじゃないか」


「新しい関係だと⁈」


「ああ、その通りさ。アンタは遺恨を忘れて稲富商会に残り、我々と歩調を合わせながら商いを続ける。

 親父さんの頃より良い関係が築けると思わんかね?」


 菅四郎は暗い笑みを浮かべる稲富と高木を見つめながら障子の間の外から刺す光に目を顰めた。

 ……目の前に居るのはまるで妖怪のような男たちだ


 黙って頷けば何事もなく明日から身の危険を感じることもない安全な生活を送れるだろう。

 ……しかし


 菅四郎は数日前に病院送りにされた丁稚や番頭たちの様子を思い浮かべる。

 父親の無残な亡骸を思い浮かべる。

 妹おふみの痩せこけた姿を思い浮かべる。


 到底首を縦に振ることなど出来なかった。


『臆するな菅四郎』


 菅四郎はそこにあったちゃぶ台をひっくり返し怒鳴った。


「ふざけんな‼︎」


 じっと見つめてくる二人の眼差しに黒いものが混じってくるが、構わず菅四郎は男たちに向けて怒りをぶつける。


「汚ねえことばかりしやがって‼︎ やっと分かったぜ親父の言ってたことが!

 俺はアンタらなんかには絶対屈しないからな‼︎」


 そう言って菅四郎は二人に背を向け、その場を後にしようとしたが……


「やれやれ、本当に頑固な小僧だ……」


「残念だよ菅四郎さん」


 不意に現れ菅四郎の前に立ちはだかる者が居た。


「なんだ⁉︎ てめえ! どけよ‼︎」


 その大きな男は額に大きな傷があり、歪んだ笑みを浮かべ手には金棒を持ち菅四郎を見つめていた。

 轟々組組長轟熊一とどろきくまいちである。

 轟は菅四郎の胸ぐらを掴み引き寄せると二人をちらと見遣った。


「じゃあやっちまっていいですね? 稲富さん、高木さん。ちいと散らかりますが」


 菅四郎はその風態から相手の正体を推察する。

 金棒に額に大きな傷といえば轟々組の組長のことであった。

 震える感情を押し隠しながら菅四郎は轟に負けまいと強く睨み返した。


「轟のクソヤクザだな……! 噂通り不細工なツラしてやがる」


 その言葉に轟は傷の入った額に青筋を立て、更に歪んだ笑みを浮かべ菅四郎を掴んだまま二人を振り返った。


「稲富さん、高木さん、俺ぁいま思いついたんですが殺すよりもっといい方法がありますよ。

 俺は今までこうしていろんな奴を痛めつけてきてねえ。

 人間はどれくらい殴ればしゃべれなく・・・・・・なるかわかってるんですわ……!」

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[一言] うわ、たち悪。
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