三 不器用過ぎる男
壬午郎は首を振り、白石に渋い顔を向ける。
「……ダメだな 筋が悪すぎる」
白石はため息をつき、疲れたように土間に倒れ込んでいる根岸と、壬午郎の苦り切った顔を見つめた。
「どうしてもか?」
根岸の職の面倒を見ることにした白石たちは、差し当たって大工である壬午郎に預けてみたが、一日で適正なし、と判断されたようだ。
壬午郎は渋い顔のまま、やり取りを聞いていたのか、決まり悪そうに佇む根岸をチラと見遣る。
「数年仕込めばマシになるかもしれんが、ウチじゃあそんな人材間に合ってんだ」
「そうか…… だ、そうだ根岸」
小さくため息を吐き根岸は口を曲げ、首を振った。
「……だから拙者不器用と言ったではないですか」
見ていた勢二郎は根岸の態度にイラつきながら、その肩を小突く。
「グダグダ言うな、次だ次」
白石も同調し、頷く。
「仕事は探さねえとな」
そうして、自信なさげに俯く根岸を見遣った。
乗りかかった船だ。
最後まで面倒を見てやるつもりではある。
根岸が方々から借りた金や物資は返させないといけない。
……しかし、根岸は彼らの想像以上に不器用で
鍬を振るくらいは出来るが、畑仕事をさせても細かい作業は覚えられず──
「ちょっと! 違うよ! そこに植えるんじゃないよ!」
「す、すみませんでござる!」
小売の店番をさせても、愛想の一つも出来ず──
「ダメだよお! 何でムスッと座ったままなのさ! もっと愛想良く!」
「……いやあ 拙者客あしらいはあまり……」
配達の仕事をさせても、道を間違えてばかり──
「ちょっと! なんで道も覚えられないんだよ! 頼むよ! まったく!」
「拙者、物覚えが悪くて…… すみませんでござる!」
色々な仕事をやらせてみても、根岸は一日持たずにクビになってしまう。
勢二郎と白石兄妹は頭を抱えながら、眉を顰めて相談した。
「……ダメだ あのおっさん、予想以上に駄目だぞ」
「はあ……どうしたもんかねえ。 根岸さんに合った職なんてあるのか……」
申し訳なさそうにぽりぽりと頭をかく根岸を見つめて、お駒は首を振る。
「根岸さん、働かないと借りたものも返せないよ」
そして、三人は大きなため息をついた。
「「「困ったなあ……」」」
ちょうど、その折、長屋の扉が叩かれる音と共に開き、知った声が聞こえてきた。
「よお、邪魔するぜ」
見ると、壬午郎の相変わらずの仏頂面がそこにはあった。
「ああ、壬さんか。どうした?」
「根岸に合った職を持ってきた」
勢二郎と白石はその言葉に顔を見合わせる。
根岸の体たらくを散々見た後なので、壬午郎の言葉とはいえ、半信半疑のようだ。
「おいおい、本当か? 言っちゃなんだが、あの根岸だぜ?」
「畑仕事をやれば、苗を植える位置も分からねえし、小売店の店番を任せれば客の顔を睨むし、配達をやらせても道を間違えまくる、あの根岸だぜ⁉︎」
お駒は二人の言葉と根岸の決まり悪そうな顔を見て慌てて、嗜める。
「ちょっと、二人とも言い過ぎだよ……!」
しかし、壬午郎は無表情の中にも自信ありげな様子を見せ、頷いた。
「多分、アイツにも出来るだろう」




