二 珍客
バクバク、と飯をかっこみ続ける浪人風の男に呆れながら勢二郎はため息を吐く。
「……なあ、おっさん。三杯目ともなれば申し訳なさそうに腕を差し出すもんだぜ?」
浪人は一応は謝りながらも、箸を止めない。
「すみませぬっ! ……五日も! 五日も何も食べておらぬ故っ!」
「歳をとってもアンタみてえにはなりたくねえなあ……」
呆れながらため息を吐く勢二郎の横をお駒が通り、浪人の前へと置く。
結局、白石の長屋で朝飯をご馳走になる事になった浪人は稗と粟に薄い味噌をかけたような質素な飯でも旨そうに喰らう。
やがて、六杯ほどの汁飯を平らげた浪人は両手を合わせながら、白石とお駒に礼を述べた。
「ふう…… ご馳走さまでした! 白石どの! お駒どの! 本当にありがとうございました!」
呆れたように、そんな様子を見つめていた白石は、腕を組みながらその浮浪者のような外観に指さす。
「それはいいんだけどよお、食った分と、長屋のみんなから借りた分は返さねえとなあ」
「……えっ」
面食らったような男の顔に思わず、勢二郎は苛立った声をあげる。
「えっ、じゃねーよ! 踏み倒すつもりだったのかよ、おっさん!」
浪人はもじもじとしながら、言いにくそうに三名を見つめた。
「……でもお 拙者、稼ごうにも幾分不器用で……」
白石が仕方ないな、と小さく首を振りながら、そんな浪人に尋ねる。
「あんた、ここへ来る前は何やってたんだ?」
「……各地を旅しながら、野良仕事や皿洗いなどを手伝って、日銭を稼いでおり申した」
驚いて三人は浪人の小汚い風体を見る。
ボロボロになった服に、日に焼けた黒い顔。
男は本当に浮浪者のような生活を送っていたらしい。
「ええ? そんな生活をどれくらい続けてたんだ?」
「拙者は三年ほど…… そうやって旅を続けておりました。野ざらしで星を見ながら寝る夜も数えきれないほどにござる」
なるほど、と一同は顔を見合わせ納得する。
白石は浪人を振り返り、また一つ尋ねてみた。
「その前…… を聞くのは野暮ってものかな?」
浪人はその質問に肩をピクリと震わせ、言いにくそうに床を見つめる。
「……拙者は」
白石は黙ってしまった浪人を見て頭を振り、無理に過去を聞き出すことを辞める。
「ああ、もういい。俺たちがこう言うのもなんだがよお…… ここは幸か不幸かドブ街だ。脛にどんな傷を持つ野郎でも受け入れてくれる不浄の街なんだぜ」
勢二郎も頷きながら、浪人の不安そうな顔を見つめる。
「アンタに合う仕事だってあるはずさ。そろそろ地に足をつけな」
その言葉に浪人はボロボロと涙を零し、床に手をつきながら礼を言う。
「……あ、ありがとう御座ります! そのような! お気遣いを頂いたのは久々にござる!」
白石はそんな男を苦笑いしながら見つめた。
「大袈裟な奴だぜ。そうそう、聞いてなかったな。アンタの名は?」
男は顔を上げて、はきはきと己の名を名乗る。
「拙者、根岸新之介と申します。どうかよろしくお願い申し上げます!」




