明日の相撲を担う者たち (了)
羽鳥の葬式を挙げて数日ののち、大きな男と綺麗な小袖を着て紅を塗った女が街外れにある二つの墓の前に立っていた。
黒い袴を着た伏虎は微笑みを浮かべながら墓に語りかける。
「兄貴、おまさ姐さん、羽鳥親方…… なんと言っていいか分からんが、あの世でも達者か?」
竜ヶ峰の墓にはおまさが合祀されることとなり、羽鳥の墓もその隣に建てられることとなった。
伏虎は隣の律子を抱き寄せながら、なんともめでたい報告をする。
「俺たち、祝言を挙げることになったよ。喜んでくれ」
律子は頬を染め、ぴとと伏虎の背を抱きしめる。
初々しい二人を祝福するようにそよ風が野花を揺らした。
「新しい亀川部屋はなかなか賑やかな所だよ。大龍の野郎がいちいち突っかかってきてうっとうしいがな。……まあ悪い気はしねえ」
悲しむ暇もなく、亀川部屋の稽古の日々は過ぎていく。
これからは伏虎が力士たちを引っ張っていかなければならない。
弟弟子たちのためにやらなくてはならない事は山ほどあるのだ。
……悲しみに立ち止まっている暇はない
伏虎は改めて手を合わせ、律子の手を取ると墓に語りかける。
「また来るよ。今度は俺たちのガキを連れてくる。なあ、三人とも聞いてくれ。俺はこれからはアンタたちだけのためだけじゃなく、俺を信じて着いてきてくれる奴らや、相撲を楽しみに見にきてくれる奴らのために相撲を取るよ。だからよ、これからも見守っててくれよ」
多くの人たちに支えられ、伏虎は本当に強い男となった。
この別れの悲しみも力に変え、これからは仲間の為に頑張ろうと伏虎は決意する。
「……アニキぃーー!」
兎丸の間抜けな声が聞こえる。
伏虎と律子は思わず苦笑しながら、駆け寄る兎丸を振り向いた。
「ははっ! 言ったそばからうるせえのが来やがった」
兎丸は息を切らせながら、用意してきたらしい花を掲げる。
「兄貴ぃ! 律子さん! 墓参りするなら俺もお供しますよ」
律子は笑いながら目立った雑草を引き抜く。
「分かった、分かった。少し草刈りしようか」
その後、伏虎は律子との間に二男一女をもうけ、いつまでも仲睦まじく添い遂げたという。
また、一年後に綱を取り、同門の大龍とは何度も優勝旗を巡って争い、彼ら二人の取り組みは相撲愛好家たちからは名勝負と呼ばれ大いに人気を博した。
そして彼らが相撲につけた火種は燃え盛り、これから名力士と呼ばれる者たちが次々と生まれることとなる。
谷風、雷電、不知火、雲龍……
江戸期の相撲は力士一人一人の情熱と、それを支える者たちの熱意、観衆たちの声援によりこれから隆盛を迎え、その精神は現代にまで受け継がれている。
その一方で、闇に棲む者たちが相撲の隆盛に一役買った場面もあったかもしれない。
横綱仕置 〜了〜
最後までお読みいただきありがとうございました。
次章は二〇二三年三月頃開始予定です。




