五
奉行所に連れられてきた関本兄妹は変わり果てた父親の姿を見るや悲嘆に暮れ縋り付く。
「ああ…… 親父……! なんでこんなことに……‼︎」
「おとっつぁん‼︎ なんで……!」
青白く冷たくなった典和の遺体の首には大きく開いた切痕があり、それが致命傷だと一目でわかる。
泣き続ける兄妹を困ったように見つめながら役人たちは説明を続けた。
「典和さん、昨夜は散々酔った帰り道に武士に絡んでしまったそうな。やむ無く手討ちにしたと相手の方が主張している。酒の匂いがするだろう? 気の毒だが……」
「そんなはずはありません‼︎」
その役人の説明に納得できず菅四郎は憤って立ち上がった。
そう、そんなはずはないのだ。
「親父は酒を飲めないんです‼︎ 間違っても酔っ払って武士に喧嘩を売るような人じゃありません! 相手の人はどこなんですか⁈」
町人とはいえ、父親を殺された怒りで真っ赤になった菅四郎の勢いに押されたか、または同情しているのか役人たちは強い態度は取らず宥めるように説明を続ける。
「落ち着きなさい、菅四郎さん。無理もないが……
そうは言うが相手の顔にも青痣が出来ておった。二、三発拳で殴られたそうだ。
相手はさる藩の藩士で身元のしっかりした方だ。
辻褄も合っているだろう」
当然そんな事では納得出来ない菅四郎は役人に頼み込むように取りすがる。
「そんな……! 納得出来ません‼︎ 相手に! その野郎に会わせてください‼︎」
その年配の役人は困ったように眉を顰め、菅四郎を押し留める。
「無茶を言うな…… 納得はいかないだろうが諦めるんだな」
「気持ちは分かるのである程度は容認するがこれ以上はお前を獄に繋ぐことになるよ」
その言葉に菅四郎は肝が冷え、ぐっとその縋り付く手を押さえる。
菅四郎の頭が少し冷えたとみるや、役人たちは内心で安心したように顔を見合わせ、これで仕舞いとばかりに兄妹に言い放った。
「じゃあ、典和さんの遺体はお前たちの家に持ち帰ってやることだな。では我々はこれで」
そう言い残すと役人たちは背を向けて兄妹たちを後にした。
唖然としてその背を見送りながら菅四郎は弱々しく叫び続けた。
……当然こんな事では納得できない
「待って……!待ってください! ちゃんと調べてください!」
おいおい、と泣きながら懇願する菅四郎の声に足を止める者はおらず、悲嘆に暮れる兄はそのまま地へと這いつくばるように泣き崩れた。
……そこには父親の遺骸と取り残された兄妹の哀れな姿だけが残った
やがて涙を拭いながらおふみは兄の背へとそっと手を伸ばす。
「菅四郎兄さん…… とにかくこのままではお父さんが可哀想よ…… 今日のところは帰りましょう」