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必殺・裏稼業  作者: Taylor raw
横綱仕置
58/97

降る仕置き

 日がとっぷりと暮れた頃、多賀崎は受け取った手紙を読むとニヤリと口角を上げ、横綱を振り返る。


「横綱、朗報です……! 羽鳥親方を毒の塗った小刀で刺すことに成功し、更にはおまさの妹を捕まえたそうで」


 今や遅し、と奸計の朗報を待っていた張天山は膝を叩き、喜色満面で立ち上がった。


「よし! よくやった‼︎」


 雇われたらしい臨時の配達人に手渡された手紙には、羽鳥親方を毒殺し、律子を誘拐した旨が認められていた。

 早速、出かける準備を整えながら張天山と多賀は笑いあう。


「クク……! あとは去年の焼き直しですな!」


「全く……! 若い芽を潰すのは気が重いのお!」


「さっそく、例の場所へ向かいましょうか」


 事前の打ち合わせ通り、凶行を果たした弟弟子たちとは去年と全く同じ場所で落ち合う手筈であった。





 二人は街外れの林の茂る境内に到着し、辺りを見回す。


「おい! 誰もおらぬではないか? 女もどこじゃ?」


「……おかしいですねえ たしかに去年と同じここで落ち合う予定で」


 しかし、どれだけ探しても人影が見えず二人は困惑していた。

 そうこうしていると、どこからともなく暗闇の中から男の声が響いてくる。


「よお、のこのこと現れやがったな。クズどもが」


「何だ⁈ 誰だ⁉︎」


 張天山は声のする方を振り返り、ドスの効いた声を上げる。


「おい! ふざけてるのか⁈ こちらは横綱‼︎ 張天山だぞ‼︎ 暴れたらお前らなんぞ一捻りだ‼︎ なんだ? 悪ふざけなら今のうちに謝って帰んな‼︎」


 多賀崎は顔を紅潮させながら声の方に鋭い目線を送った。


「悪ふざけ⁉︎ 悪ふざけはてめえらの人生だろうが。つまらねえことばかりしやがってよ」


 また、違う男の声が闇の方から冷たく響いてくる。

 多賀崎は戸惑いながら、必死で目を凝らした。


「なんだと⁈」


「去年、同じ場所でお前らがおまささんを人質にとって竜ヶ峰を痛めつけたことは知ってるんだぞ。……そのせいで竜ヶ峰とおまささんは心中することになった。恥を知れ。人間のクズが」


 徐々に近づいてくる人影がぼうと見えてきた。

 狐やら顔なしの仮面をつけた者たちが四名、こちらへとゆっくりと歩みを進めてくるのが確認できると、多賀崎はますます激昂する。

 そして、すでにここに着いているはずの弟弟子たちを探して辺りを見回す。


「……素人どもが なぜそこまで知ってるか知らんが生きて帰れると思うなよ? ふざけた仮面どもめ! おい! お前ら! 早く出てこい!」


 多賀崎は数に頼んで攻めるつもりであったが、無駄である。

 白石は馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「お前らが探してるのは律子さんの誘拐を命じた弟弟子どもだろ? それとも羽鳥親方の暗殺を命じた奴らか? 残念だったな。俺たちがとっくに始末してやったよ」


 その言葉に流石の張天山も顔色を変えた。


「……なんだと⁉︎」


「ふん! はったりですよ、横綱。あんなにいる俺たちの弟弟子たちがふざけた素人ごときに負けるはずがない」


 闇の奥から聞こえてくる仮面の者たちは嘲笑いながら冷たく二人を見つめ返した。


「果たしてそうかな? 今までお前らに楯突く奴なんていなかったんだろうな。無闇に力を振るうやつはな、いつか更に力ある奴に倒される宿命なのさ。今まで悪さしてきたツケを払う時が来たんだよ」


 激昂した多賀崎が仮面たちに一歩踏み出す。

 腐っても幕内力士、腕には自信があった。


「舐めるなよ! 素人風情が‼︎」


 仮面の男の一人が前にいる男の肩を叩き、多賀崎を睨んだ。


「なあ、勢さん。そいつは俺にやらせてくれよ。目の前で親方を刺された不覚の借りを返してえ」


「わかった、わかった。やれよ」


 張天山は悪戯、もしくは己に不満を持つ者たちの反撃と見做して顔を赤らめ、多賀崎に怒鳴りつける。


「チッ……! 力士の恐ろしさ見せちゃれや! 多賀崎ぃぃぃ‼︎ 殺してもかまわん‼︎」


「ではここはお任せを」


 そうして、白石は多賀崎と向かい合うと仮面の下で笑った。


「おい、見せてくれよ。お前らの相撲って奴をよ」


 四股を踏み、両手を構えると多賀崎は余裕の笑みで白石を睨みつけた。

 多賀崎は体格と身長差で遥かに見下ろす相手に負ける気はしなかった。


「クククク……‼︎ お前ら一般のモンは八百長じゃなんじゃと随分とワシらを舐め腐ってくれとるが、こちとら年中土俵で相撲やっとるんじゃあ! お前みたいな細いのに負けるわけがなかろうが!」


「そうかい。きな」


 くい、と指を振り挑発する白石に激昂した多賀崎は両腕を突き出し、思い切り突進していく。


「この! クソがぁぁ‼︎」 


 しかし、二人がぶつかり、白石が跳ね飛ばされようという瞬間、多賀崎の突っ張りを身体をひねってかわした白石はその首を腕を回して絡め取るとそのまま後ろへと倒れ込む。


「うっ……⁈」


 そして、多賀崎の顔面を地面へと打ちつけた。


「あがあ……‼︎」


「あーあ…… お前の相撲がなんだって?」


 多賀崎は鼻血を流しながら、急いで立ち上がろうとするが身体がびくとも動かない。

 白石の腕ががっちりと首を押さえつけているのだ。


「……グッ! がっ‼︎ このっ!」


「こっちは年中殺しの仕事やってんだ。お前みてえな力ばかりの汚ねえ奴に負けるはずないだろ?」


 白石はそう言うと躊躇うことなく、両腕の角度を変えて力点をずらした。

 ゴキリ、と嫌な音が闇の林へと響き渡る。


 白石が手を離し立ち上がると、声もなくあらぬ角度に首を捻じ曲げた多賀崎が泡を吹いて絶命していた。

 張天山は思わず叫ぶ。


「多賀崎ぃぃぃぃぃぃ⁉︎」


 白石は落ち着いた様子で、横綱を馬鹿にしたように見つめた。


「さて、横綱。次はアンタの番だが、あちらさんがお相手してくれるってよ」


「……何⁈」


 白石が指を差した方を振り返ると、腕組みをした狐面の小男がじっと佇んでいた。


「張天山、ちいと胸貸してくれや」


 張天山はみるみるうちに顔を紅潮させて、己の腹をパン、と叩き戦闘態勢に入る。


「……この薄汚い殺し屋風情が‼︎ 多賀崎ごときに勝ったくらいで調子に乗るなよ! わしゃあ横綱じゃぞ‼︎ お前らなんぞまとめてワシがぶっ殺してくれるわ!」


 横綱の前に出て向き合った狐面は片手を前に出し構えると静かに口を開いた。


「威勢だけはいいな。張天山、俺に勝ったら黙って無傷で家に返してやるよ」


「……どこのどいつじゃ!? 貴様らぁ! なめんなよ‼︎ まとめて殺したるわい‼︎」


 四股を踏む張天山を冷たく見つめながら、壬午郎は去年同じ場所で起こったという悲劇に思いを馳せる。

 今ここで折っておかなければ、こいつは何年経っても同じ事を続けるだろう。


「威勢はいいな。横綱さんよお」


「たりめえじゃ‼︎ ワシが素人相手に負けるかい‼︎ おい! 多賀崎をやってくれたよなあ⁉︎ ワシがお前らをぶち殺しても言い訳が立つっちゅうわけじゃ‼︎」


「なんなら、お前について悪さをしていた力士どももまとめて始末してやったぞ」


「……ふん 戯言を」


「信じなくてもいいが、己の力を過信し過ぎじゃねえか? 八百長塗れのクソ横綱さんよ」


 そして、張天山は加速をつけて壬午郎へと突進していった。


「ほざけっ! カスが‼︎」


 しかし、張天山が壬午郎の顔を張り手で穿とうとした瞬間、景色が反転して腰と頭に激しい衝撃が疾る。


「……グアッ⁉︎」


 痛みと驚きにたじろぐ張天山を狐面が冷たく見下ろす。


「どうした? 八百長ばかりで相撲の取り方を忘れちまったか?」


 張天山は怒りに任せて起き上がると、狐面目掛けて張り手をかますが、またしてもひょいと避けられる。


「ぬかせっ……! 今のは偶然はまっただけだ! 調子に乗るな‼︎」


 そして、再び突進を繰り返す。

 結果は同じであった。


「ぐはあっ⁉︎」


 闇夜の空と狐面が嘲笑うように張天山を見下ろす。


「見苦しいもんだな、張天山。並の相手ならお前の敵にもならんのだろう。しかし、もうお前に横綱の資格はねえ」


「……こ、このっ‼︎ 妙な技を使いおって‼︎ これならどうじゃ⁉︎」


 張天山は起き上がると今度は着物を脱ぎ、褌一丁となる。

 狐面の投げ技が達人の域を超えていると判断すると、掴む部分を減らし、技の効果範囲を抑えにかかったのだ。


 感心したように壬午郎は顎をなでる。


「ほう…… 少しは考える頭があったんだな」


「ぬかせっ‼︎ 今度こそぶち殺す‼︎」


 先ほどよりも勢いよく、毛むくじゃらの張天山が加速をつけて迫りくる。

 しかし、張天山の手が狐面に到達する寸前に腰と脚にふわりと持ち上がるような感触を覚えたと思うと、景色が反転した。

 張天山は思いきり腰を地面へと打ち付ける。


「ぐ、ぐう……⁉︎ ば、ばかな! この俺が……⁉︎」


 そして、今度は這いつくばったままの身体を返されると右腕を後ろ手に捩じり上げられた。


「服を脱いだくらいで勝てると思ったか? 才能と体格にかまけて鍛錬を怠ったな、張天山。引退の時は近いんじゃねえか? なあ?」


 張天山はみしみし、と音を立てる己の関節にたまらず必死で懇願する。


「……ま、まて! 誰か知らんが金は払う! 多賀崎を殺したことも黙っててやろう! ひとまず俺をこの場からかえさんかい! わしゃあ、天下の横綱じゃぞ‼︎」


 小さく星が瞬く闇に狐面の冷たい声音が刺すように木霊した。


「そうやって今までは金と力で全てを通してきたんだな、お前。哀れな野郎だ…… ツケを払う時がきたんだよ」


「な、なにっ……⁈ くはっ⁉︎」


 更にギリギリと捻り上げられる腕に悲鳴を上げ、必死で抵抗するが、張天山の身体は微塵も動かない。

 壬午郎は刺すように冷えた声で言った。


「いいか? 無様に這いつくばりながらよく聞け、張天山。去年、お前が竜ヶ峰を痛めつけたこの場所でな。伏虎はお前とは違う。正々堂々とした取り組みが望みだ。明日は逃げずに、そして汚い手を使うことなく戦え。そうすればこの場は生かしてやろう」


「ふ、ふざけるな‼︎ ……ぐぅっ⁉︎」


 張天山の右腕がますます捻り上げられる。

 狐面がどうやら人の命を奪う事に躊躇がない、ということに張天山は今さら理解した。


「それとも今すぐ死にたいか? 約束を守るだけでいいと言ってるんだ」


 震える声で痛みに耐えながら張天山は声を絞り出した。


「……わ、わかった‼︎ 伏虎とは正面から戦う! 約束する!」


「言ったな。いいな? 張天山。もし明日、汚ねえ手を使ったり、逃げたりしたら俺たちがお前を殺す。覚えとけ」


 そして、首筋に鋭い痛みが走ったと思うと張天山の意識は闇へと溶けていった。

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[一言] さて、約束は守られるのでしょうか。
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