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必殺・裏稼業  作者: Taylor raw
横綱仕置
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江戸場所開幕

 真っ青な空に江戸の街は賑わう。

 チンドン、チンドン、と銅鑼や太鼓が打ち鳴らされ行き交う人々に混じり、ブンヤたちはビラをばら撒き囃し立てた。


「さあさあ! 号外! 号外! 今日から江戸場所がはじまるぜ! 今回の見ものは横綱張天山に挑む新星二人の取り組みだ! コイツは大声で言えねえが、ノミ屋もあちこちで賑わってるからどんどん掛け札も買ってくんな!」


 快晴の青空の元で本日から江戸場所が始まるのだ。


 多くの人たちが江戸場所の取り組みに沸きながら楽しげに歩く中、藍色の小袖を着た少女が横に並び歩く男たちを見上げて微笑んだ。


「仕事とは別に相撲も楽しみだねえ。ねえ、兄さん、勢さん」


 兄、と呼ばれた町人風の切れ長の目の男は頷いて答える。


「ああ、各地から強い力士が集まるからなあ。おい、勢さん、また掛け札買ったのかよ」


 勢、と呼ばれた男は手元に握った札を見やりながらニッと笑みを浮かべた。

「ノミ」と呼ばれる賭博の札である。


「おうよ、これが全部当たればあんなボロ長屋とはお別れだぜ!」


 優勝予想とは別に本日分の勝ち負け予想を当てる札を買い込み、勢二郎はご満悦の様子だ。

 勢二郎が買った札を見ていた白石はしばらくするとお駒を振り返る。


「……ん〜 見せてみろよ、どれどれ…… おい、お駒。勢さんが買ったやつと逆の掛け札を買ってこいよ」


「なるほど!」


「おいコラ、俺の博才を馬鹿にしてんのか⁉︎」


 勢二郎は剣は滅法強いが賭け事の才能はない。

 この二人はその事をよくわかっている。


「ああ、もちろんだな」


「勢さんの逆張りしてれば当たるよね」


「……お前ら 俺は別の席で見るからな!」


 すっかり機嫌を損ねた様子の勢二郎の肩を叩きながらお駒は笑う。


「拗ねんなよ、勢さん」


「そうそう、弥太郎も来るんだから。ほら、言ってる間に」


 待ち合わせの場所に着いたらしい。

 利発そうな少年がハキハキした声で挨拶してくる。


「皆さん、こんにちは!」


 後ろには付き添いの壬午郎も無愛想に佇んでいた。

 白石は白い歯を見せながら相変わらずの調子を取る。


「おう、元気そうじゃねえか弥太郎。壬さんも今日は休みとったんだって? さあ、みんな席を取って相撲観戦しようぜ」


「さあ、いこいこ」


 まだ何か納得いかない様子の勢二郎は舌打ちしながらお駒に手を引かれ、仲間達の後へと続いた。


「……ったくよお」





 とある藩邸の一室で上座に座る初老の男が平伏する老侍を睨むように見据えていた。


部坂へさかよ、今年も楽しみにしておるぞ。我が帯崎藩の誇る三角山部屋の優勝を」


「はっ。もちろんに御座います」


 帯崎藩おびさきはんお抱えの三角山みすみやま部屋は横綱張天山の所属する名門の流れを組む部屋であり、家老である部坂の管轄であった。

 藩主である初老の男は誇りを持って毎年江戸場所の観戦に訪れている。


 帯崎藩の藩主は顔を上げた部坂に更に続ける。


「今年は幕閣の皆様だけではない。千秋楽には御大老の御臨席も決まっておる。分かっておるの? 私に恥をかかせるなよ?」


「……ははっ!」


 威勢が良い返事だけは返ってくるが、この殿は近頃高まる張天山の悪評に辟易していた。


「張天山は大丈夫なのであろうな? 随分と稽古をサボっておると、聞いておるが」


「も、申し訳ござりません…… 彼奴は素行に問題がございまして…… ただ殿の面目を潰すような真似だけはさせませぬので……」


 しどろもどろになり答える部坂に殿は内心でため息を吐く。


「去年は随分とみっともない取り組みを見せてくれたのう。優勝したから良かったものの、さる方からは嫌味を言われたわ」


 みっともない取り組み、とは勿論昨年の千秋楽の悲劇の事を指す。

 竜ヶ峰が潰されたあの一番は民衆の間だけではなく、観戦していた幕閣の間からも不評の声が多い。


 遂には何も返す言葉がなくなり平伏する部坂に、殿は少し声の調子を落として話を締めようとする。


「のう、部坂よ。我が藩の面目を潰す真似だけはしてくれるなよ?」


「ははっ! 心得ましてござりまする!」

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― 新着の感想 ―
[一言] もう勢二郎たちも楽しんでもいますね。
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