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必殺・裏稼業  作者: Taylor raw
横綱仕置
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悪の宴

 名門三角山部屋の借屋敷の大広間では日が沈みかけているうちから酒宴が始められようとしていた。

 音頭をとる多賀崎たがさきは居並ぶ力士たちに向けて手を叩く。


「さあ! 呑め! 呑め! 江戸場所優勝の前祝いだあ‼︎」


 宴会場の中央奥にどっかと居座る巨漢は今場所も優勝候補、横綱張天山である。

 太い眉を顰め、居並ぶ弟弟子たちをジロリと睨む。


 三角山部屋の弟子たちは音頭に合わせて盃を口にした。


「さすが横綱! 太っ腹だ、横綱! さあ景気良く呑めよ! お前ら!」


「「「はい! ごちなります!」」」


 掛け声と共に乾杯が終わり、力士たちは鍋をがっつき始めた。



 多賀崎は顔を真っ赤にしている張天山に酌をしながら恐る恐る問いかける。


「横綱、酒もいいですが少し練習しなくてもいいんですかい? アイツ・・・はもう居ないとはいっても今年も有力な若手は出て来ているようで……」


 その天性にかまけて、張天山はここしばらく練習をサボりがちだ。

 現に江戸場所に合わせて集まった各地の力士たちの合同練習には今場所参加していない。

 多賀崎が不安になるのは当然である。


 しかし、余裕の笑みを浮かべながら張天山は盃を啜る。


「フン! お前まで俺の強さを疑うか? しゃらくせえ。ククッ! 今場所も横綱の強さ見せてやるわ」


「……はい そりゃあ、横綱が負けるだなんて思っちゃおりませんが、やはり気になることもございやして」


「なんじゃあ? 何が気になる?」 


 顔を顰める張天山に多賀崎は恐る恐る小声で応える。


「去年、我々が痛めつけてやった竜ヶ峰は覚えとりますよね?」


「ああ、あの間抜け野郎か。あの夜は愉快じゃったな。ククッ! 今思い出しても笑えてくるわ! あの後女と心中したんじゃって? 間抜けめ! ほんと笑える野郎じゃったわ! カカカッ‼︎」


 腹を抱えて笑う張天山に多賀崎は背筋を凍らせる。

 確かに去年の竜ヶ峰は脅威だった。

 排除したことで自分を脅かす者は居なくなったと張天山は考えているのだろう。

 しかし……


 気を取り直して多賀崎は続ける。


「……その時の付き人が打倒横綱を公言しておって、この頃めきめき力を付けてきているようなんです。少し気をつけた方がよいか、と……」


「フン‼︎ 何を言うかと思えばそんなことかい! くだらんわ!」


 つまらない、と言うようにしっ、と手を振りながら張天山は鼻を鳴らした。

 横綱は若干語気を荒げ、そして多賀崎の顔を睨む。


「いいか! 今場所はワシに匹敵し得る竜ヶ峰とかいうクソもおらん! その弟弟子とかいう奴も竜より強いのか? フン! 取るに足らんわ! まあ、万一ワシの優勝が危ういと思ったら……」


 騒ぐ弟弟子たちを見つめながら、張天山は口の端を歪める。

 この中で自分の言うことを聞かぬ者は居らぬだろう。

 ……つまり、張天山の優勝は磐石である。


「去年と同じことをするまでじゃ。なあ、そうじゃろう?」


「はっ……! 仰る通りで……」


 床に手をつきながら多賀崎は頭の中で練習場で見た伏虎の動きを反復していた。

 ……恐らく奴は横綱と同等の強さであろう。

 で、あれば横綱の優勝はやはり磐石だ。

 いつものように八百長を使えば、十四戦取り組み終えた後の千秋楽での両者の残り体力の差は明らかだからだ。

 多賀崎は人知れず口元をにっと歪める。




 三角山部屋の屋敷を配達用の桶を持ったまま、ウロウロと歩くねじり鉢巻の男に手洗いに立った弟弟子の一人が声を掛ける。


「おいおい、配達員さんよお。迷ったのかい? うろちょろされちゃ困るぜ。お帰りはあっちだ」


 帰り道を教えられると人の良さそうな笑みを浮かべ済まなさそうに頭を下げながら、配達員の男は頭を掻く。


「へえ、すみやせんねえ。ではあっしはこれで……」


 さっさと屋敷を出て、道に出ると男の顔から笑みは消え失せ眼光が鋭くなる。

 そして今出てきたばかりの屋敷を睨みつけた。


「やはり、腐ってやがる。張天山とそれに与する一味め……」

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― 新着の感想 ―
[一言] いよいよ悪党に天罰が下りますか。
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