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ヒドラ討伐(2)

 うっそうとした森の中。

 マーカスが騎乗する白馬の後を、テコイたち四人が続いていく。

 日はまだ天高く輝いているはずなのに、あたりは少々薄暗い。

 生い茂る木々が、まるで天の恵みを遮るかのようである。

 時おり、鳥が鳴く声が聞こえるが、それ以外には自分たちの足音しか聞こえない。

 あまりにも静まり返った森の中。

 少々、薄ら寒い気もしないでもない。

 その嫌な気配を真っ先に感じ取ったオバラ、さすが女盗賊である。


 まとわりつくテコイの腕をギュッとつかむ。

「なぁ、テコイ、ヒドラって強いんだろ……アタイたちだけで本当に大丈夫かい?」

 先ほどから懐にしまった財布を服の上から何度も確認しているテコイは、上機嫌で答えた。

「俺たちは不死身だぜ! あのケロべロススケルトンでさえ、俺たちに傷をつけることができなかったんだぞ」

 オバラはそれでも心配そうにテコイを見上げた。

 今日はいつもに増して香水のにおいがきつい。

 そんなオバラを鬱陶しそうに見下しながらテコイは鼻をこすった。

「しかも、今日はあの英雄マーカスの旦那もついていらっしゃるんだ。万に一つも負ける可能性なんてありはしねぇ!」

 さらにギュッとしがみつくオバラ。

 ますます強くなる香水の香りが鼻につく。

 テコイはオバラを邪魔そうに押しのけた。

 ――もう、この女も賞味期限切れか……街に帰ったら新しい女と入れ替えるか。


「おい、ムツキ! エルフのアキコちゃんは元気か!」

 テコイは、シュンとしながらついてくるムツキに声をかけた。

 ムツキは、手に持つ花束をだらりとぶら下げため息をついた。

「元気だと思うよ……」

 力ない返事。

 それも仕方ない。

 ムツキがプロポーズをしようと気合を入れていたにもかかわらず、アキコちゃんはガン無視。

 あれだけ今日の出立しゅったつを見送りに来てねと言っていたにもかかわらず、全く姿すら見せない。

 これでは、ムツキが考えたプロポーズ大作戦が台無しである。

 そんなムツキの様子をみたテコイが笑う。

「帰ったらアキコちゃんのキャバクラに連れて行ってやる!」

 ムツキの顔がパッと明るくなった。

「ほ・本当かぁ!」

「あぁ、俺のおごりだ! その代わり、かわいい女エルフ紹介しろよ!」

「する! する! いくらでもするっす!」

 オバラは、そんな会話をするテコイをブスッと見つめあげていた。

 ――もしかして、こいつ、アタイを捨てる気じゃないだろうね……


「みんなぁ! 僕ちんの後ついてきてるかい! そろそろヒドラの巣が見えてくるよ!」

 先を進むマーカスがニコニコとしながら振り返った。


 このヒドラをやっつければ、はれて第七王女のアリエーヌ姫と結婚できるのである。

 銀髪の長い髪。

 透き通るような白い肌。

 切れ長の金色の目を見つめるだけで、下半身が熱くなる。

 やっと、やっと、その体に触れることができるのだ。

 というのも、マーカスはアリエーヌと婚約しているとは言え、今だ手すら握ったことがないのである。

 決してマーカスが奥手というわけではない。

 どちらかというと、そんなまどろっこしいことはすっ飛ばして、いきなりフィニッシュでもいいと思っているぐらいなのだ。

 だが、アリエーヌに拒絶されるのである。

「結婚するまで清い体でいようぞ」

 それが、アリエーヌのいつもの言葉。

 そしてそんなとき、マーカスが返す言葉は決まっていた。

「なら、結婚したら、あんな事やこんな事をやっても受け入れてくれるんだよね!」

 アリエーヌは白き頬を真っ赤に染めて恥ずかしそうにうつむいた。

 そして、小さくうなずくのだ。

 その姿を見るのがマーカスは大好きだった。

 恥じらいに抵抗しながらも、自分の姿を想像し頬を染めるアリエーヌ。

 いつしかマーカスの下半身にロケットがセットされていた。

 もう、秒読みなど無視して、勝手に発射されそうな勢いである。


 そんなことを思い出すマーカスの鼻息は荒い。

 もう、変態かと思うほど顔が緩んでいる。

 テコイたち4人は、そんなマーカスを白けた目で見ていた。


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