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倉庫のコンサート(3)

 俺は、オッサンとの約束を守るためコンテナをゴミ捨て場に運ぼうとした。

 そんな時、ふとオッサンがいっていたことを思い出した。

『昨日の兄ちゃんじゃないか』

 ということは、まだ、朝起きてから一日は経っていないようだ。

 今日の朝、オバラと会ったばかりなのに、もうすでに何日も前のような気がする。

 俺は、そんな出来事を懐かしむかのように、オバラが言っていた事を思い出していた。

 だが、またまた、思い出す。

『アタイたちの首が切られれば、ドグスの溜飲も少し下がるだろうからね』

 瞬間、俺の頬の筋肉が硬直したのが自分でも分かった。

 まだ一日経っていないという事は、おそらく今日の晩にでも、オバラたち三人のいずれかの首がドグスによってはねられるのだろう。

 ――まぁ、俺には関係ないことだ。

 俺は、自分に言い聞かせた。

 俺は、すでに【強欲の猪突軍団】を追い出された身なのだ。

 いまさら、元のパーティメンバーの事を気にする必要などある訳はない。

 だが、だがである……

 オバラの去り際の笑顔……

 やることはやった、思い残すことはないと言わんばかりのすがすがしい笑顔。

 それが、先ほどから無性に気になって仕方がない。

 いや、気になるというよりも、頭から離れないのだ。

 俺をパーティから追い出した時のように、底意地の悪いイヤラシイ目つきであれば、きっと気になることもなかったのだろう。

 しかし、あの透き通るような目には全く悪意が感じられなかった。

 それすら、朝日を背にするオバラが美しいとさえ思ってしまったのである。

 そんなオバラが、『ボヤヤンとの最後の約束ぐらいは守らないといけないから』と言い残して去っていったのだ。

 おそらく、自分が一番に首をはねられるつもりなのかもしれない。


 くそ!

 ……やっぱり、あの視線は反則だろ……


 そんな時、俺の背後から一人の女が声をかけてきた。

「ねえねぇ、君、この辺りで大声を出しても大丈夫なところない?」

 考え事をしていた俺は面倒くさそうに振り返る。

 と言うか、結構だるいんですけどね。

「はいぃ……?」

 そこには、野球帽をまぶかにかぶりサングラスをかける女がいた。

 明らかに素性を隠そうとするその姿は、どう見ても怪しい。

 これは、いつぞや流行っていたキャッチセールスの類ではないだろうか。

 美人なお姉さんが、モテそうにないオタクの子を呼び出して高額商品を買うと言うまでひたすら軟禁し勧めまくるのだ。

 ヒイロ君♥どうかな♥きっと君の人生に役立つと思うんだ♥私と一緒にチャレンジしてみない♥さぁ一緒に大声を出して!

『おぉぉぉ! 偉大なる教祖様! 私はあなたの従順なるしもべですぅぅぅ!』

 って、あやしい宗教の勧誘になっとるがな!


 俺の目は、そんな怪しいものを見るような警戒する視線になっていた。

「もしかして……怪しい犯罪組織の方ですか?」

 そんな俺の言葉にずっこける女。

「あのね……犯罪組織の方に近い人たちは結構、知っているけど……私がそう見える?」

 俺はコクリとうなずいた。

 はぁとため息をつく女。

 グラサンをずらすと、その隙間から上目遣いで俺に微笑んだ。

「私、この国では結構人気あると思うんだけどな……知らない?」

「ごめんなさい……知らないです……」


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