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アリエーヌ=ヘンダーゾン(2

「それはなんじゃ……」

 一人の女の子が俺に声をかけてきた。

 そこは騎士養成学校の校庭の隅に、ぽつんと一本だけある木陰。

 もうすぐ年度がわりのためか、新芽が芽吹き始めていた。

 当時、初等部一年生の俺は、ふと顔を上げる。

 そこには、銀髪の美少女が立っていた。

「だから、それはなんじゃと聞いておるのじゃ……」

 何も答えない俺に対して、イライラしたのか、腰に手を当てふくれている。

 俺の膝の上にはピンクスライムが気持ちよさそうに眠っていた。

「これの事か?」

「これ以外に何があるというのじゃ?」

「例えば、この俺とか……」

「フン! 下賤な男には興味はないのじゃ!」

「さいですか……」

「だ! か! ら! それはなんじゃと聞いておるのじゃ!」

 声がでかい……

 そんなに大声を出さなくても聞こえておるわ! ボケ!

「ピンクスライムだよ!」

「ほほう……これが、ピンクスライムか! と言うことは、これがモンスターと言うものじゃな!」

「そうだよ! だらか食われるかもしれないから、早く向こうに行けよ!」

「だれが食われるのじゃ?」

「お前だよ! お前!」

 銀髪の女の子は、キョトンとした顔で自分を指さした。

「ワラワのことか……」

「お前意外に誰がいるんだよ! 誰が!」

「おぬしじゃ!」

「はぁ、魔獣使いが、使役する魔獣に食われてどうすんだよ!」

「中には食われる愚か者もおるじゃろ」

「まぁ、そりゃぁ凶暴種とか使役していたらな」

「と言うことは、そのピンクスライムは凶暴ではないという事じゃな!」

「どういう意味だよ……」

「言葉通りじゃ。おぬしが食われておらんと言うことは、それは凶暴種でないという事じゃろ」

「ウゥゥゥ……間違いではないが、なぜか、腹が立つ!」

「まぁ、よいではないか、そのピンクスライムをワラワに抱かせてみろ!」

「はぁ?」

「何をしておる、早くしろなのじゃ!」

「ハイ……」

 銀髪の女の子は、胸に抱いたピンクスライムを愛おしそうに撫でた。

 その様子を眺めていた俺の心は、時間を忘れていた。

 木漏れ日の中で、光を散らす銀髪。

 ピンクスライムを見つめる目は慈愛に満ちている。

 すらっとした容姿にその美貌。

 今俺は、まるで一枚の絵画でも見ているような気がしていた。

 綺麗だ……

 思わず俺はつぶやいてしまった。

 ハッと顔を上げる銀髪の少女。

「おぬし、何か言ったか?」

「いえいえ、何も言っておりませぬ!」

 慌てて手を振り誤魔化す俺。

 だが、気になった。

 この少女はモンスターが怖くないのであろうか。

「お前……魔獣が怖くないのか?」

「魔獣? あぁ、モンスターの事か……こんな優しい心のピンクスライムが怖いわけないじゃろが……」

 そして、小さな声で続けた。

 本当にか細い声で、消え入るように。

「人間の方が……よほど怖いのじゃ……」

 そういうと、パッと顔を上げてほほ笑んだ。

「ワラワはアリエーヌ=ヘンダーゾン! キサラ王国第七王女じゃ! また、ピンクスライムを抱かせてくれ。これを抱いていると少し落ち着くようじゃ」

「俺は、ヒー……マーカス=マッケンテンナ」

「フン! いちいち下賤の者の名前など覚えてられないのじゃ! おぬしの事は、マジュインジャーとよぶ! よいな!」

「なんで! マジュインジャーなんやねん!」

「おぬし自分で自分の事をそのように呼んでいたのじゃろ……ぷっ!」

口に手をあて頬を膨らますアリエーヌ

「まぁ……常に5匹の魔獣を連れているのだからいいではないか、なぁ! 【魔獣戦隊マジュインジャー!】……ぷっ! ククク」

「というか、よく俺の事、知ってるな! お前!」

「お前ではない! アリエーヌ姫様じゃ! これからはちゃんとアリエーヌ姫様と呼ぶのじゃ!」

「はぁ?」

「まぁ、よいではないか、どうせ……嫌われ者同士なんじゃ……」

 そういうと、アリエーヌは俺にピンクスライムを手渡し走っていった。

 その先に取り巻きの女の子たちがゴマをするかのように集まってくる。

 ツンとした表情で、その真ん中を歩いているアリエーヌ。

 俺は、ぼーっとそんな彼女の背中を見送っていた。


 これが、俺とアリエーヌの最初の出会いだった。



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