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俺のドアが開くとき(2)

 うーん、時系列を思い出しながら、さかのぼってみよう。

 今、俺はこの自分の家の前にいる

 昨晩はアキ子さんの家に泊めてもらった。

 その直前で、テコイからクビを宣言されて裸で酒場に放り出されたのだ。

 その酒場には、レッドスライムの回復が終わったら行ったんだよな。

 ちょうど、3日前の晩にケロべロススケルトンを追いかけて、バカなテコイたちが無計画に突っ込むものだから、レッドスライムがダメージをすべて肩代わりしたんだよな。

 そして、日が変わった明け方になんとかケロべロススケルトンをやっつけた。

 だけど、あまりのダメージ量に、レッドスライムの回復が俺の回復魔法だけでは追いつかなかったんだよね。

 それで、急いで家にレッドスライムを連れて帰って……

 回復薬ぶち込んで回復魔法とのダブルの回復を図っていたはず。

 そんなこんなで何とかレッドスラムが元の体を取り戻したのが昨晩の8時ごろ。

 ほぼ、2日がかりでレッドスライムを回復していたわけだ。

 ふうと一息ついたら、隣の声が耳に入ってきたんだよね。

 耳に押し付けてその様子をうかがうと。

「僕ちん明日、ヒドラ討伐の冒険なんだよね! だから今日は一杯愛してあげるね!」

「あぁご主人様うれしい!」

「でも、この冒険が終わったら、僕ちん結婚しちゃうんだよね」

「えっ……やっぱり私とも終わりですかご主人様!」

「うん! ミーナ、君もいいんだけど、明日からは高飛車な銀髪美少女をビシビシと鞭うつことができるんだからね!」

「そ……そんなぁ……」

「だから君とは今日で終わりだよ!」

「ご主人様……実は……私……その……こなくて……」

「大丈夫! 大丈夫! こようがこまいがモウマンタイ! 嘘か本当かなんて僕ちんは気にしないよ! ハイ手切れ金! これで足りるかな!」

「こんなにもですかぁ! 【イーナ=ミーナ】はご主人様を愛しております!」

 この後はに女の喘ぎ声と鞭うつ音の繰り返し……

 いい加減、飽きた俺はレッドスライムを影に戻して、そのまま酒場に向かったんだよね。

 たしか、ポケットに握った鍵を入れて……

 うん?

 ポケットには手を入れたよね……俺……

 たしかに握っていたよね……俺……

 あれ?

 握るもの間違えた?


 まぁ、いいか! 結果オーライ! ザッツライ!


 ガチャリとドアを開けた。

 相変わらずかび臭いが充満した部屋である。

 真ん中の部屋というだけあって、日の光がほとんど差し込まない。

 だが、先ほどまでいたアキコさんの部屋に比べれば片付いている。

 というか、ほとんど物がないのである。

 ベッドと机。

 それに、冒険道具が少々部屋の隅に積み上がっているぐらいなのだ。

 料理はしないため、炊事場は使ったことがない。

 したがって料理道具もない。


 はぁぁぁ

 俺は大きく深呼吸した。

 やっと実感がわいてくる。

 俺は何とかこの部屋に帰ってきたのだと。

 とても長かったような気がする……

 一時はどうなることかと思ったが、無事、ここに帰ってくることができた。

 ほっとすると涙が出てくる。


 だが、ここも早々に引き払わなければなるまい……

 というのは、ここはテコイの『やり部屋』なのだ……

 テコイとオバラがホテルに行く金がもったいないからといって、ここを使うのである。

 そして、人の部屋だからと言って、もう無茶苦茶ざんまい。

 特にローションプレーは本当にやめてほしい。

 ベッドの上でそれをされると、その後の片付けが大変なのだ。

 あの二人が当然片づけるわけがないので、プレイが終わった乱雑な部屋は、その後部屋に戻ってきた俺が片付けることになる。

 あの生臭い匂いを消そうと、窓を開ける。

 だが、ココは中部屋、そうそう風も吹き抜けない。

 空のローションチューブに大人のおもちゃが、ベッドの上に散乱する。

 ベッドのシーツはぐちゃぐちゃに乱れ、その役目をすでに果たしていない。

 シーツを洗うだけならまだしも、大量に使ったローションがシーツを突き抜けてマットにまでしみこんでいる始末。

 せめて、気を利かせてビニールシートでも下に敷いてくれればいいのであるが、あのガサガサと言う音が聞こえると、やる気がなえると言って取り合ってもらえない。

 一応、このベッドは大家のおばあちゃんが備え付けてくれていたものだ。

 いわゆる借りものだ。

 だから、綺麗にしておかないと、最後に買取しないといけないかもしれないのだ。

 だから俺は、その後、必死でベッドのマットを乾かすのである。

 だが、ココは中部屋。

 日当たりも悪い。

 そこで、ベッドをアパートの外へと引きずり出して、無理やり天日で乾かすのである。

 道を行き交う人々が好機の目で俺を見る。

 仕事に通う女の人が口に手を当て目をそらす。

 そりゃそうである。

 天日干しをするマットには、でかでかと大きなシミができているのだ。

 寝ションベンでも漏らしたと思うぐらいの大きなシミだ。

 だが……そう、思ってくれている方がまだいいかもしれない。

 変態プレーでできたシミなどと思われたら、間違いなく俺には、彼女ができない。


 あっ……俺もう、ココを出ていくんだから、そんな後始末の事を感がる必要はなかったんだ。



 

 





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