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走れ! テコイ(3)

「なんや! まだあるんか! うちは忙しいんや! 今すぐにでもマーカスたんの様子を見に行かなならんのが分からんのか!」

「それは重々承知の上で申し上げます。これは、実はあるものの罠です! マーカス様を陥れようとする罠です!」

「なんやて! だれかがうちのマーカスたんを陥れようとしとったんか! それはどこのどいつや! 言うてみい!」

 凄い剣幕でドグスの顔がテコイの頭蓋骨に接近した。


「その……それは、その……」

 さすがのテコイもはっきりと言わない。

 というか、言えないのである。

 確かに、つい先ほどまでは痛みと恐怖のためにアイツせいだと確信していた。

 だが、今、こうやって痛みが引いた頭は、少々冷静になっていた。

 テコイが思っていることは、テコイ自身の想像でしかないのだ。

 アイツが犯人であるという証拠など一つもない。

 だが、ココで何かを言わないと、確実に明日、かまゆでの刑にされる。

 窯の中で真っ赤にただれてプカリと浮かぶ自分。

 そんな姿を想像すると、小さき金玉がヒュンとする。

 死にたくはない……まだ、死にたくはない。

 なら、背に腹は代えられぬ。


「はよ! 言わんかい! どこのどいつや! ウチが、どついちゃるけん言うてみい!」

「そ……それは……ヒイロという名の魔獣使いでして……」

 その名前を聞いたドグスの目が大きく見開いた。

 そして、先ほどまでの剣幕が、一気に覚めた。

 何かを思い出すかのように、ブツブツとつぶやいている。

「……ヒイロ……魔獣使い……ヒイロ……魔獣使い……」

「はい……」

 震える手で顔を覆うドグス。

 体中の肉がプルプルと震えている。

 まるでダイエット器具の振動マシンにのっているようで笑える。


「もしかして、その男の名は【ヒイロ=プーア】というのではないか…………」

「いや……苗字までは知りませんが、ヒイロと名乗っていることだけは確かです」

「そうか……分かった……」

「なら、俺たち許していただけるんですか!」

 その瞬間、ドグスの怒りが爆発した。

 先ほどまでの怒りよりも、さらに激しく噴き上がる。

 目が吊り上がり、口は裂けんばかりである。

 だが、ピンクの肉まんの真ん中で小さくであるが。


「ボケかぁぁぁぁ! だれがワレを許すというた! 今すぐそのヒイロをウチのもとへつれてこいぃぃいっぃぃい! お前が連れてこいぃぃいぃっぃ!」

「はいぃいいいい!」

 その代わりざまにのけぞるテコイたち。

 なんか地雷を踏んだみたい。

 だが、これで、かまゆでの刑は回避できたよね。俺たち……


「今すぐ行け! とっとと行け! はよ行かんかいぃぃぃ! ヒイロぉっぉぉおおお! あのガキぃぃいぃ! ぶち殺す! ぶち殺す! 人の恩を仇で返しよって! ぶち殺すぅぅう!」

 愛想笑いをするテコイは、両の手を突き出した。

「だけどですね……ドグス様、この手と足では……」

 それはもう手のひらすらないむき出しの骨。

 脚は足で、くるぶしから先がないのである。

 これでどうやって探しに行けと言うのですか……


「なんやそれぐらい! ほうてでも行け! なんなら転がってでもええ! はよ行けぇぇぇぇぇ!」

 もう、何言うてもあかんわ……このおばはん。

 諦めた四人はうなだれながら体を引きずった。

 だが、そんな四人の背中をドグスが引き止めた。

「ちょい待ちや!」

 もしかして、こんな体の状態を、やっぱり見るに見かねたのだろうか。

 さすがにこの状態で働かせたら労働法違反ですよね。

 ブラックですよね。

 義手、義足ぐらいつけさせていただけるのだろうか。

 せめて、一日ぐらいゆっくり休ませてくれるのだろうか。

 いや、温かいお湯だけでも、せめて一杯……

 そんな淡い期待を胸に、四人は後ろを振り返った。


「テコイ! あんたの言うことは今一信用できへん……その三人は人質や! ヒイロをウチの前に連れてくるのが一日遅れるごとに、そいつらの首一つずつ切り落としてやるさかい!」

 ムツキとオバラとボヤヤンは同じことを思っていた。

 異なる三人が同じことを思う。

 その思いは、まさにシンクロ!


 何言ってるんですか……このおばはん。

 俺らの首を切るなんて。

 昨晩、ヒイロのクビを切ったばかりなのに。

 今度は俺らのクビを切る?

 なんでや?

 なんでや?

 しかも、本当に首を切るんだって、なんて素敵なジョークなんでしょ!


「テコイ。そのほうがあんさんもやる気出るやろ♥」

 細い目でウィンクするドグス。

 自分ではめっちゃ可愛いと思っているに違いない。


 このおばはん! 本気や!

 ひぃぃぃ!

 互いに互いの顔を見つめるムツキとオバラとボヤヤン。

 テコイがヒイロを連れて帰ってこなければ、自分たちの首はプッチョンパ!

 この状況、まるでメロスみたい……

 走れ! テコイ!

 時間までに戻るんだ!

 ………………

 …………

 ……

 ……というか、コイツ……絶対に逃げるよね……

 アタイらの命なんてくそとも思ってない奴や。

 コイツ、絶対かえってこんで!

 どうする!アタイたち

 どうする!俺たち!

 どうするのよ!ワタクシ!




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