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順番に

作者: タマネギ

よく忘れないですね。

そんなにたくさんのこと。

どうしたらそんな風にできるのか。

こつなど、教えてもらいたいです。

システム課のYさんが言った。


どうやら、大切な依頼を忘れて、

相手に怒られたらしい。

相手の名前を聞くと、

若くて前しか見えない人物だけに、

ことの雰囲気がわかる気がした。


何をどう工夫したって、

忘れてしまうことはある。

忘れてしまえるから、

生きていられるってこともある。

仕事場で、哲学者になっても

しょうがない。


Yさんは、その相手から、

仕事を頼まれても、

受けたくないとまで言い出した。

それもわからないではなかったが、

そういうわけにもいかないだろう。

なんと言おうか。


……なんでも完璧ににやろうと

してないですか。

思ったままを言うことにした。

思ったまま、感じるままに、

言ってみるしか言いようもない。


ブロックを積み重ねるみたいに

仕上げていこうとすると、

よけいに上手くいかなくなる

気がするんです。

システム課だから

そうなるんでしょうけど。


……行ったり来たりする間に、

予定表を眺めて、何にもなかったら、

何かなかったかなと不安になってみる。

だから、忘れないというか。

そんな感じで……とりあえず、

自分のことを言ってみた。


ちなみに、自分の予定表は時間か

チェックマークしか書かれていない。

えっと、あの時間はあれで、

あのチェックはなんだったかな、

そうそう、あれね、と気にかける。


そうですか、そんな風になれたら

いいのですが、器用じゃなくて。

Yさんは俯いたまま、

手帳に貼りつけてある付箋紙のメモを、

端から順番に剥がし始めた。


Yさんらしい動きだった。

結果ばかりを求められると、

人はこうなってゆくんだと思った。

人は結果ばかりを求められるようには

もともとできていない。


むしろ、途中経過を体験するために、

生まれて来ているんだろう。

忘れたり、怒られたりするのも、

Yさんの体験としてあるんだろうと、

順番にこだわっている指を見て思った。


仕事場でする話としては、

わかりにくいだろうと

そこからは、口にはせず、

持ってきた缶珈琲を取り出した。

Yさんに、どう、と言って差し出すと、

付箋を剥がすのを止めて、

いただきますと言ってくれた。


そこに、仕事をしたくないという

相手から内線があった。

Yさんは、また呼び出しですと、

手帳と缶珈琲を鞄に入れ始めた。

おつかれさまやね、大変やろけど、

また様子聞かせてと言った。

どんな体験談になるやら。


あっ、システムの相談に来たのに。

順番は、あってもないようなもの。

あとにしよう。

先にその部屋を出た。

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