七話 戦いの時
「――とまあ、用はお前達の計画通りにことが進んでいるわけだ」
光る魔石を中心とした広場で、いつもコウタロウが立つ台に細いローブの男が腰掛けていた。性別がわかるのは、その低い声からだ。また、その隣には肩幅の広くがたいのいい男が巨大な大剣を手に立っている。
すでに広場には全員が集まっており、戦えるものはリリが作った刀を持っている。
まだ不安げな一同。それを気遣って、コウタロウが声を上げた。
「あんたたちも戦ってくれるんだろ? 自分たちが死んじゃ元も子もないからな」
「当たり前だ。まあ、俺は非戦闘員だから、あとの二人に任せるが」
ざわざわと声が上がる。それはもちろん戦力的な不安。たった二人でどうにかなるものなのか? そもそも敵の数は? そこかしこから疑問の声があがり、それは尽きることを知らない。
それを見てローブの男は仰々しくため息を吐く。するとみんなの視線が一斉にローブの男へと集まる。それを見越していたようで、男は重たそうに口を開いた。
「……わざわざ俺という貴重な恩恵者を遣わせたんだ、お前らが思うような量の死体は出ない。……それに、俺だってこの地獄を味わってる」
フードに隠されていない口元は、唇を噛む動きを際立たせる。
それだけで、騒いでいた誰もが口を閉じた。その空気をぶち壊すため息は、いやに響く。
「はぁ~。ったく。今から面白いとこだってのに、何そろいもそろって辛気くせぇ面してやがる」
アレックスは不機嫌そうに立ち上がり、視線を尖らせて人々を見ながら、語り始める。
「いいか。俺たちは一回死んでる時点で本来ならゲームオーバーなんだよ。なのに運良くもう一個の残機を貰えたにすぎねぇ。だったらその命ちゃんと使い切りやがれ。へこたれて日和って負け越しになってんじゃねぇよ」
それだけ言い残して、アレックスはあぐらをかいて刀を弄ぶ。
にわかに弛緩する空気。その中で、そっとミタツが手を上げた。
「あの……さっき、黒騎士に背の小さなローブの子が戦いに行ったんだけど」
「は? マジで?」
なんとも間抜けな声。男が素の反応を見せる。そして数秒固まったかと思えば、今度は頭を抱えて悶絶し始めた。台の上に背を投げ出して、右へ左へ体をひねり不気味なうめき声を漏らす。
それをよくわからない気持ちで見つめる人々の視線に気づき、男は体を起こした。
「……よし、すぐに動こう。まず、敵は七人。一人はその黒騎士。もう六人、なんの能力も持たないただの騎士だ。近くの川を伝ってきてるから迎撃は用意だろう。偽情報を掴ませているおかげで、半端な兵しかいない。それでも鎧は着けてるから、とりあえずは頑張って馬を殺せ。あとは死なないように気をつけろ。頑張れ、生きろ。俺にはそれしか言えない。健闘を祈る」
最後の方をかなり適当に締めくくって、男は森へ駆けていった。
全員、こんな状況だというのに呆気にとられ誰も動かない。そんな中、やはりコウタロウが声を上げる。
「みんな! 俺たちはまだこんなところで死ぬわけにはいかねぇ! 精一杯やりきるぞ! 戦闘班は俺についてこい! 行くぞ!」
「「「おう!」」」
男達は強気なかけ声とともに、刀を持って立ち上がる。その最中に、コウタロウはミタツにささやく。
「お前はここに残れ。それで、みんなを連れて逃げるんだ。女子供だから、逃げてきてもきっと助かる。逃げたから処分なんてことはないだろうし、恩恵はどうせ五年のうちで発現するんだから、そんな危険な目には遭わない。……とりあえず、ここは生き延びられるんだ。任せたぞ」
「……うん」
ミタツはただうなずく。もちろんコウタロウや他の男達とともに華々しく散ろうとも考えた。だが、コウタロウに頼まれたのなら、断る理由はない。
ふと今から自分が預かることになる命の数を考えた。その数は、到底ミタツにはもてそうにない。だが、覚悟を決めなければならない。
コウタロウが、アレックスとともに立ち上がり、刀を持つ。そして、吹っ切れた笑顔で、コウタロウは叫ぶ。
「行くぞ! お前ら! 格好づけてそのままの勢いで生き延びてやるぞ!」
「「「おう!」」」
男たちは、コウタロウを中心にして森へ吸いこまれていく。残された全員が、最後尾の背が見えなくなるまで、その姿から目を離せずにいた。
そしてその背が木々に阻まれて見えなくなったころ。ミタツは声をかける。
「今度は僕たちの番です。勇敢な彼らの死は無駄にしちゃいけない。僕たちは、生き延びる。折角の異世界なんですから。ここで無駄にしたら、損ですよ。……生きましょう、行きましょう」
目からこぼれた涙を拭わずに、ミタツは歩き出す。
その後ろを、若い女性、老人、小学生ぐらいの男の子がついていく。
ゆっくりと、ゆっくりとその背は広場から見えなくなってしまった。




