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五話 賢人アレックス

 その夜。キャンプという任務にかり出されている総勢三十名の異界人たちは、魔石の光源をたき火代わりにして集まっていた。その誰もが眠たそうに目をこすったり、今から何の話がなされるのかとそわそわして落ち着きがない。


 その彼らの目の前で、ミタツはコウタロウにうなずきかける。それを合図にコウタロウは台にのぼり口を開いた。


「集まってくれてありがとう。今から何の話がされるのかとか、眠らせてくれとか、まあいろいろあるだろうが一回聴いてくれ。――これは俺たちの生死に関わる問題だ」


 にわかにざわめきが起こった。


 それは、あの日このキャンプの説明をなされた時のような、怒りにも似た抗議のざわめきがあちらこちらで行われる。


 そのうちの一人が手を上げた。


「それ、根拠はどこにあるんですか」

「根拠ならあるぞ。こいつが話してくれるだろう」


 コウタロウが不安げな笑みを浮かべる。その後ろから、一人の男が台を上がりコウタロウの横に立った。


「……俺になにを説明しろってんだ、あ?」


 アレックスは、不機嫌そうにコウタロウを睨んだ。だがコウタロウも負けじとその垂れ目を強気ににらみ返す。


「お前が言うから意味があるんだ。適当に喋ってくれればいい。それに、お前の信頼度も上がって戦闘の時には役に立つかもしれないぞ?」

「……けっ、心にもねぇ適当ほざきやがって」

「あちゃ、バレるか、やっぱり」


 ガシガシと夜の闇の中でも映える金色の頭をかき、けだるそうに口を開いては虚空を見つめ、ようやくアレックスが語り出す。


「……俺らを狙った敵どもが攻めてくるってのは、監視役のきめぇローブどもからたまたま聞いた話だ。信憑性はしらねぇ。だが、わけもわからずやられるのは――腹が立つ」


 アレックスの不機嫌さはさらに増し、鋭くなった瞳が森の奥へ向けられる。


「忠君愛国なんざ柄でもねぇ。だが死にたくなんかねぇ。だったらそのやってくる帝国の犬どもを、ぶちのめして、嬲り殺す。そのためにてめぇらもさっさと働くんだな。……あー、調子狂うったらありゃしねぇ」


 それだけ言い残して、アレックスはブツブツと文句を垂れ流しにしながら去って行った。それを台の下のミタツは苦笑いで見送る。


 そしてここからはミタツの出番だ。


「今アレックスが言ったみたいに、僕たちは想像以上に危険な任務をやらされているみたいなんだ。でも、打つ手がないわけじゃない。ここに、アレックスが書いてくれたやるべきことのリストがある。どうか、力を合わせるために協力してください。お願いします」


 そう言って、ミタツが深々と頭を下げた。話を聴いている人々の頭には、このキャンプのリーダー的な存在になっているコウタロウとの接点がよぎった。


 誰もがその信憑性と危険度を考え、頭を悩ませる中、また一人から手が挙がった。


「あの……今から逃げるっていう手は……」

「そりゃ無理だな。なんていったって、あのローブどもは俺たちの監視役だからな。――実際ここを見られているともわからない」


 ローブの存在を忘れていた人々は、さらにざわめいた。どうする。立ち向かうか? だがどう信じろと。そんな声が絶え間なく上がる。


 そこで追い討ちをかけるようにコウタロウが口を開いた。


「みんなは、死ぬ前に動画サイトとかを見てたか? 見てた人ー」


 コウタロウが挙手を誘導すると、八割方の人々から手があげられた。


 満足気にコウタロウがうなずく。そして笑いながら尋ねる。


「ちなみに、アキレスっていう実況者を知っている人は?」


 すると、今手を上げている半数は手を下げたが、もう半数は上げたままだった。


 ならばとコウタロウは告げた。


「あのアレックスっていう、まあ、いけ好かないやつもいるだろう。しかしあいつな、実は、あの有名プロゲーマーのアキレスなんだよ。わかる人にしかわからないだろうけどな」


 すると反応は顕著に表れる。嫌悪感に顔をゆがめる者、その実力を知る者は顔に笑みを浮かべる。アキレスを知る人たちは、思い思いに口を開き、あっという間に話は広まった。


 その反応を確認して、コウタロウは改めて提案する。


「それで、今からの考えに賛成してくれる人はどうかここに残っていってくれ」


 立ち去る人影は見られない。どうやら、良い方向へ話が伝わったらしい。その事実に心底コウタロウは安堵する。後ろを振り返れば、ミタツも同じような、気の抜けた表情をしていた。


 ふとミタツと目が合うと、二人ははにかむ。そしてコウタロウはみんなの方へ向き直り、笑顔で口を開いた。


「みんな、本当にありがとう。監視の目を盗んでどうにか今日の夜に話しておきたかった。行動は明日から行うから、今日はゆっくり寝てくれ! 本当に、ありがとう! 解散っ!」


 そのかけ声で、人々はまばらに立ち上がっては自分のテントへと向かって言った。発光する魔石の周りには、もうミタツとコウタロウ以外誰もいない。


 ミタツはコウタロウの元へかけより、笑って言う。


「良かったね。これでなんとかなりそう」

「だな。あとは、アレックスの計画がどれぐらい機能してくれるか、ってところだが……」


 コウタロウはズボンの尻ポケットから、四つ折りにした紙を取りだし、そこに書いてあることを読む。この演説までに何度も読み、脳内でシュミレーションしたそれは、十分な仕事をしてくれるとコウタロウは確信している。


 ふうと小さく息を吐いて、コウタロウはまた四つ折りにして今度は腰のポケットへしまった。そして、今頃別の仕事をしているだろう、あいつのことを考える。


「……ミクルはきちんとやってくれてるかね」

「まあ、ミクルならきっと大丈夫だよ。何より自分で役を買って出たんだから」


 ミタツの言葉に、コウタロウは静かにうなずいた。


―― ―― ―― ―― ――

おまけ:その頃ミクルは


「えっと、そのっ、あのっ、ですね……」

「……なんだ、何かあったのか」

「いえっ、とても健全に順調に過ごしてます!」

「そうかそれは良かった」

「それでですねっ!」

「……今度はなんのようだ」

「あのっ、えっと、ほ、ほんとに、興味本位なのですが!」


「……………………熊って、出ますか?」


「出ると思うぞ」

「あっ、ならっ、その、ですね……」

「今度はなんだ」

「そのー、く、熊対策に、ですね、キャンプの強化を……」

「ああ、別に構わないぞ」

「ありがとうございます! では!」


「……最後だけハキハキとどうしたんだか」

「まあ面白い子もいるってことじゃない?」

「……怪しい気がしてならんのだが。なあ、お前も思うだろ?」

「………………(コクリ)」

「まあまあ。いいじゃないか。どうせ帝国軍も来るんだし。もう探知に引っかかってるんでしょ?」

「ん、まあな」


 ミクル、奮闘。 

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