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三話 “キャンプ”

 ベル平原のその外れの森林、背後に大きな崖を背負って、ウルリアの異界人たちのキャンプは木々の中に展開されていた。


 キャンプと銘打たれたサバイバルが始まってからすでに三日。今は皆で生き残るべく、物資の調達や辺りの開拓に力を入れていた。


「よぉーし! みんな! 飯にするぞ!」


 その中心人物となっているのはコウタロウだ。彼は持ち前の行動力と人間性で、ともに一月を過ごす仲間達を説得し、団結させた。そして今は彼を中心に全てが回っている。


 もちろん、コウタロウが中心になるということは、同じ班であるミタツとミクルも働くことになる。


 コウタロウの声を聞き入れた人々が、炊事班の元へ行きインスタントのカレーをよそってもらって、仲間とともに頬張っている。それを嬉しそうにコウタロウが眺めている。


 そのコウタロウに、せわしなくおかわりの声に応えるミクルが声を掛けた。


「コウタロウさん、なんだか生き生きとしてますね」

「ん? そうか? まあ、はしゃぐのは見逃してくれ。俺はキャンプが大好きだったんだ」


 コウタロウがにっと自然な笑みを浮かべる。誰もが不満を持っていたはずなのに、今や団結して、むしろ楽しんでいるようにも見える。


 まとめ上げた功労者へ、ミクルは大盛りのカレーを手渡した。


「はい。食べてくださいね」

「おう、ありがとう。ミタツが戻ってからにするよ。ミクルは?」

「私は後で女性陣で話ながら食べますよ」

「そうか、じゃあお言葉に甘えるよ」


 コウタロウはカレーを手にキョロキョロとミタツを探す。すると、あの時の金髪の男と会話をしているミタツを見つけてそちらに駆けていく。


「おーい! ミタツ! 飯食おうぜ!」

「コウタロウ、うん、いいよ。それじゃあ」

「おう。後でな」


 ミタツが別れを告げると、金髪の男も右手を軽く挙げて笑ってその場を去った。


 コウタロウは尋ねる。


「お前、いつの間に仲良くなったんだ?」

「ちょっと狩りで会ってさ。それでいろいろ話してたんだ。ほら、これ」


 ミタツが地面を指さす。コウタロウがそれを覗きこむと、その地面にはこの辺りの地形が詳しく書き込まれていた。それを見てコウタロウが驚きの声を上げる。


「なんだ、これ……すげえな。お前達が?」

「うん。僕が崖周辺、あの金髪の人――アレックスっていうんだけど、アレックスが森を見てきてくれたんだ」

「ほぉう。それで、何をしようってんだ?」


 コウタロウがそう尋ねると、ミタツは辺りを気にするように視線をさまよわせ、そしてこっそりとコウタロウの耳元に口を近づけてささやく。


「聞いたんだ、僕たちをここにいさせる理由を」

「なんだそれ?」


 コウタロウは普通の音量で反応を示したつもりだったが、ミタツ的には大きく聞こえたらしく、口に人差し指を当てて慌てている。


 その反応が面倒に感じて、コウタロウはやれやれと息を吐いた。


 ミタツもミタツでそんなコウタロウの反応が不服なのか、人差し指をとある方向へ向けて口を開いた。


「監視役の人たちの会話聞いたの!」


 その指の先には、「皆様の安全のために」派遣されたらしい三人の人影。小柄な者と平凡な者と肩幅の広い者。だが三人ともローブを羽織っており、顔まではよく見えない。


 さらにミタツが説明を重ねる。


「あの人たちが話してた。『転生者が強力な戦力になるということはベリル帝国も知っている。だからきっと襲いに来る。そこを覚醒した恩恵者とともに我らで潰す。それが本命だ』ってね」

「マジかよ……」


 コウタロウが眉間を抑えてうなる。いろいろと思うことがあるのだろう。ふと半分は完成したキャンプに目をやり、ため息ともつかぬ息を吐いた。


 そしておもむろに顔を上げて訊く。


「……誰か死ぬかもしれない、か?」


 神妙な面持ちでミタツはうなずく。


 コウタロウはそれを確認して、腰に手を当てて空をあおいだ。


「よーし! わかった!」


 コウタロウは覚悟を決めた。


「そのアレックスとかいうやつのところに連れてってくれ」

「わかった。ふふっ、実はそう言ってくれると思って、いろいろ考えてあるんだ」


 そう笑ったミタツの顔は、悪巧みを考える無邪気な男の子の笑顔であった。


「ただカレー食ったあとな」

「あ、僕もとってこよう」


―― ―― ―― ―― ――


「アレックス、お待たせ」

「よーう。おー? なんだ、新入りじゃねえか。あとカレーの匂いすげえな」


 ミタツたちはキャンプの中でも最も崖に近いテントへと脚を運んだ。その中には退屈そうに寝そべる金髪で長身の男、アレックスが、眠たそうな垂れ目に青色の瞳を輝かせてコウタロウを見ている。


「……いや、おめーどっかで見たな」

「前の説明会の時に、ミタツの隣にいたんだから嫌でも目に入ってるだろうな」

「なるほどなぁ」


 世間一般的には“イケメン”と称されるであろう美貌は、だがしかし尻をかくという中年男性のような行為のせいで全く意味をなさない。


 退屈そうに欠伸をするアレックスにコウタロウは訊く。


「それで、どんな活動をするんだ?」

「んあー? そうだな……。んー……なんも考えてねえや」

「おいミタツ、話が違うぞ」

「いいや? ちゃんと考えてるよ、僕が」


 なるほどそういうことかとコウタロウは理解する。この男、期待しているほどいいやつではない。


 しかしコウタロウが優しいだけで、もうとっくの昔、それこそキャンプ一日目にここの人々はそれに気づいていたわけだが。


 額に手をやるコウタロウ。それを見てアレックスはごそごそと上着の内側から一枚の紙を取りだし、それをミタツの方へスライドさせた。ミタツはそれを受け取って目を通す。


「まずは崖の上に櫓だ。近代物資いろいろあんだから加工パイプやらなんやらで適当に作れ。あとは川だ。あのそこそこでかい川には誰かしら行くだろ。そこを突かれてもつまんねぇからそれとなく伝えとけ。あとは風の吹いてくる方向を確認。そんでもって適当に武器作らせろ。いろいろと話たり考えたりするのはそれからだ」


 そう言い捨ててアレックスはテントを出て行こうとする。ミタツの手柄を横取りした。そうコウタロウは思いミタツを見る。しかしミタツはきょとんとした顔で呟いた。


「あれ、僕まだアレックスには話していないはずなんだけど……」


 それが聞こえてコウタロウがアレックスを呼び止める。


「待ってくれ、すまない。俺はてっきりお前のことを口が悪いだけの変なやつだと思ってた」

「けっ。素直に言うだけ優しいなぁおい。なあ、知ってるか?」


 アレックスは口角をつり上げて、怪しい笑みで言った。


「英雄アキレスって呼ばれた男をよ」


 そう言い残して、アレックスはテントを出て行った。


 ミタツがアレックスの言ったことを理解できないままでいると、コウタロウが呟く。


「……プロゲーマーのアキレスじゃねえか」


 プロゲーマーの、アキレス。


「……何それ」

「格ゲー界に突如現れては天才とか神とか呼ばれるやつらを嬲り殺してったゲーマーだ。あまりのひどさに恨みを買って、別のプロの信者から毒殺されたんだ」

「へー。……そう聴くとすごい人と交友関係持ったなぁ」

「だけど、あんだけ心強い助っ人もいねえだろ。確かサバゲーも出来るし、有名な大学にいたはずだ。なんだよ俺の中での評価くるっくるじゃねえか」


 ミタツから紙を受け取って、目の色を変えたコウタロウは熱心に内容に目を通す。

 

 そして最後まで読み切って、にやりと笑った。


「やべぇ、楽しくなってきやがった」 

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