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十七話 少女フェリと秘密基地

 その日ミタツはフェリに呼ばれあの真っ黒な部屋に来ていた。つい一日前の、ミタツにとっての初任務の振り返りをするとのことだ。


 ミタツはドアをノックする。しかし返事は無い。不安になってドアの取っ手を押してみれば、どうやら鍵は掛かっていないらしい。


「……勝手に入れってことなのかな」


 不安になり一人で呟いて、決意を固めてミタツはドアを押し開ける。靴を脱ぐ習慣の無いはずの玄関で、無意識に靴を脱いで恐る恐る廊下を渡りリビングに入る。しかし不思議なことにそこにフェリの姿は無かった。


 代わりに、フェリがいつも座る席に一人の少女がいる。


 胸まである桃色の髪を二つに結び、ネコのようなつり目はツンツンとした雰囲気を与えているが、かえってそれがその少女の魅力を引き立てているようにミタツは感じた。


 ミタツが得たいの知れない少女の存在に硬直していると、少女はおもむろに立ち上がって、ミタツを下から上まで眺めた。


「……誰?」

「……こ、っちの台詞でもあるかも」


 少女の想像以上に威圧的な態度に、ミタツは声を詰まらせる。なんとか口に出した台詞は、少女を納得させるには十分だったらしく、うなずいて口を開いた。


「名乗ってもいいけど、まずはあんたが名乗りなさいよ。フェリ様の部屋に来るってことは、そういうことなんでしょ?」

「わかったよ」


 確かに後から来て相手に名乗らせるのは失礼かもしれない。ミタツは軽く姿勢を正して少女の目を見て堂々と口を開く。


「僕の名前はミタツ。フェリの……なんだろう。助手? だったはず、かな」

「曖昧ね……」


 堂々としていたはずなのに、気づけばおどおどしていてミタツは苦笑いを浮かべる。そういえば自分が助手であったこともそこで思い出した。


 と、少女の目線がミタツの背後に向けられる。


「そして今日から正式にボクの助手になるわけだ」


 二人は驚いた表情を浮かべる。ミタツはいきなり背後にいたフェリに、少女は目の前の得体の知れない男が急に助手だと紹介されたことに。


 少女は動揺して、フェリに早口で問いかける。


「助手って……な、なんでそんないきなり!」

「ボクの気が向いたからだね」

「そんな……」


 少女はミタツをきっと睨む。心当たりの無いミタツはただ困惑して、居心地の悪いさを切実に感じていた。


 フェリが不機嫌そうに言う。


「別にいいじゃないか。何か問題でもあるのかい?」

「いや、別に、そんなわけじゃ……。ああもう、ずるい! ずるいわよあんた!」

「え、えぇ?」


 いきなり人差し指を向けられてさらにミタツの困惑は強まる。少女は頬を紅潮させて、フェリのことをチラチラと見ながらも“ずるい”と言い切った。


 なおも少女の怒りは止まらない。


「フェリ様に憧れて、ずっと頑張ってきてようやく部隊に入れたのに! こんなぽっと出のどこの馬の骨ともわからないへなへなな男が助手ぅ?! ずるい! やっぱりずるい!」


 肩ではぁはぁと息をつきながら、少女は指をゆっくりと体の横に戻す。熱烈な感情を向けられたフェリは、まんざらでもない表情で頭をかきながら、


「そう言われると嬉しいなぁ」


 と素直に照れていた。


 そこに内心でどうにかしてくれとツッコミながら、ミタツは気休め程度の反論をしておく。


「助手って言っても、まだ筋トレして初任務で二回死んで右の手首を切り飛ばされたくらいだけどね」

「その死亡カウントのうち、一回は自爆じゃないかい?」

「脚から落ちてても死んでると思うなぁ」

「ちょ、ちょっと待ってよ。え? 死んだ? 二回も? じゃあなんで今ここにいるのよ。空想の中の回復魔法でも見つかったの? それとも霊系の能力者……恩恵者?」

「恩恵者の推理まではあってるね」


 少女はこめかみに両手を当てて、猫背になるほどに頭を回している。目の中にぐるぐるという記号が入りそうな動揺の仕方だ。


 そんな少女とミタツに替わって、フェリは余裕そうな笑みで教える。


「ミタツ。この女の子は、ボクの直属の部隊のうちの一人。メアリーだ。君と同じ恩恵者で、土を自在に操れる。メアリー。今言ったようにこの男の子はミタツ。ボクの助手をこれからしてもらうんだ。そして、不死の恩恵者なのさ」


 そこで少女――メアリーの思考能力は限界に達したらしい。


「不死……不死? 助手、世界の理……あー、もう! 何がどうなってんのよー!」


 メアリーの叫び声がリビングに反響して消えた。


「と、いう感じで、なかなか面白い子でしょ?」

「面白い、のかなぁ……」


 ケタケタと年相応の笑い声をあげるフェリ。その向こうでメアリーは肘を机について頭を支えて何かをぶつぶつと呟いていた。おそらく考えを整理しているのだろう。


 しばらくしてガバッと顔をあげて、メアリーはミタツをジト目で見ながら聞いた。


「……恩恵者なのね。日本?」

「うん。メアリー……は?」

「イギリス。Fuck you」

「そんな流暢でネイティブな感じで言われても」


 ミタツはたじろいで一歩下がるが、フェリに背中を押されリビングの中に戻される。


「まあまあ、こんなところじゃなくて、一回あそこに行こう」

「あそこ?」

「そうそう。ゲバラー」


 フェリが誰かの名呼ぶと、一瞬のうちに景色が変わった。


 そこはどう見てもつい先ほどまでいたはずのフェリの部屋ではなく、白い壁に黒い床というモノクロデザインの部屋で、奥に茶色のドアがありその前には一人のがたいの良い男が立っていた。男はスキンヘッドで黒いサングラスをかけた厳つい見た目をしている。


 フェリがその男に歩み寄る。ミタツたちもその後ろに続く。


「ありがとうね、ゲバラ」

「どうも。お帰りなさいませ副隊長」


 そう言ってゲバラと呼ばれた男はドアをあけてフェリを通す。メアリーは鼻をふんと鳴らしながらゲバラの隣を横切り、ミタツも慌ててドアをくぐる。


 その先にいたのは、六人ほどの人々。誰もがこちらを、主にミタツを見ている。そこに仲間内に対するような打ち解けた感情はもちろん無く、あるのは警戒心のみ。


 フェリは言った。


「みんな、いきなりで悪いけど、このミタツという少年をボクの助手にすることにした。仲良くしてやって欲しい。ほら、ミタツ」

「あ、よ、よろしくお願いします」


 突然振られ、ミタツは流されるがままに挨拶をする。思わず噛んでしまい、下げた頭の中は「やってしまった」という後悔と困惑でいっぱいだ。


 刹那の沈黙。その直後。


「酒持ってこーい! 宴だー!」

「「「おーう!」」」


 陽気なかけ声とともに突然パーティーが始まり、ミタツは口を呆然と開けて立ち尽くすしかなかった。 

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