トオルの疑問
これは少しだけ先の未来の話。
「ねぇ、お父さん。だれがこのご飯を作ってるの?」
少年は新聞を読んでいる父親に尋ねた。
毎日毎日食卓にはおいしそうな料理が並ぶが、それは一体誰が作っているのか。今まではそれを当たり前と感じていたのだけれど、今日始めてそのことに少年は疑問を感じたのだった。
「ロボットだよ」
父親は新聞をたたむと簡潔に答えた。その顔には、またか、というような表情が浮かんでいる。
「どうしてロボットがご飯を作るの?ロボットはご飯食べないのに」
少年は続けて疑問を投げかける。
「我々人間のためにロボットはご飯を作るんだよ。それが彼らの仕事だからね。」
「どうして人はご飯を自分で作らないの?この間学校の授業で昔は人が料理をしていたって習ったよ。なんで辞めちゃったの?」
「それはだな、ロボットが昔料理を作れなかったからだよ。だから人が自分で料理を作らなくちゃいけなかった。でも今は便利な世の中になって、なんでもロボットがやってくれるようになったんだ」
「ふぅん」
父親が答えると、少年はとりあえずは納得したようだった。
父親はほっと胸を撫で下ろす。息子は朝から晩まで質問ばかりしてくる。そういう年頃なのだと分かってはいるが、煩わしさを感じてもいた。
同年代の子と比べても、息子の何でも疑問に思う癖は群を抜いているのだ。他の子ならこんなにしつこく聞いてくることはないだろう。やはり、息子は特別なのだ。口を開くのは疑問ばかりで、簡単なものならいいが自分が知らない事を聞いてくることもあり、答えるのに苦労する。父親の威厳を保つためになんとか答えようとはしているのだが。
その時、下を向いてなにやら考え込んでいた息子が顔を上げた。
「じゃあ、ロボットはどうやって料理を作っているの?」
これには父親も参ってしまった。答えを知らない。
便利だから使っているだけで、その構造までは知らなかったし、考えようとしたこともなかった。確かに一体どうなっているのだろうか?父親も疑問に思った。
しかし、今は息子の疑問にどう答えるかだ。
「トオル。何でも人に聞くのではなくて、自分で考えることも大切だよ。考えて分からなかったら、自分で調べるんだ。それでも分からなかったら、お父さんに聞きに来なさい。分かったね?」
父親はそう息子に向かって諭した。
息子は素直に頷いた。素直な子なのだ。父親は質問をかわせたことに安心すると再び新聞に目を戻した。
これで時間稼いだ。ロボットの構造がどうなっているのか調べておかないとな。父親はそう思った。
しかし、十秒後にはその疑問をすっかり忘れてしまっていた。
少年トオルは自分の部屋に戻ると、さっきの父親とのやり取りを思い出していた。結局最後の疑問は分からずじまいになってしまった。
今までは父親に聞けば何でも答えてくれた。しかし、疑問は後から後から溢れ出して頭は疑問で一杯になってしまう。一つ答えが分かっても、また新しい疑問が生まれるみたいだった。
自分でも何故こんなに疑問が出てくるのか不思議だった。でも、それくらいこの世界が不思議でいっぱいなんだろうとも思うのだ。
トオルはその不思議を知りたくて、それが疑問となっているのだった。
空はなんで青いのか?夕方にはなぜ赤くなるのか?夜はなんで暗くなるのか?
なんで眠たくなるのか?大人はなんで子供より眠らないのか?夢は何なのか?
鳥や飛行機はなんで空を飛べるのか?人はなぜ飛べないのか?重力とは何か?
トオルには目に映るもの全てが不思議で、分からないものだらけだった。
そこで父親の言葉を思い出して、トオルは一つの決心をした。
自分で答えを見つけよう。
今までみたいにお父さんに聞くのではなく、自分で調べるんだ。
トオルはそう心に誓うと、早速行動に移した。とは言っても、
「どうすればいいのかな?」
トオルは早速一つ目の疑問に直面した。
とりあえず、さっきの「どうやってロボットは料理を作っているのか?」を調べようとは思うのだけれど。
トオルは家にある自動調理ロボットを眺めてみることにした。それは家の壁に埋め込まれており、内部が見えなくなっているが、食べたいものをロボットに知らせれば、わずかな時間でその料理が壁から出てきて食卓に並ぶのだ。今の時代、全ての家庭にこのロボットが完備されている。
トオルはその自動調理ロボットを調べてみようとした。しかし、壁を開ける方法が分からない。
どうも完全に壁と一体化しているようだった。
トオルはしばらく考え込んだ。どうすればいいのか?
「あ、そうだ。ロボットを買ったところに聞けばいいんだ」
そう思いつくと、トオルは電話に向かい、受話器を取った。
「僕の家にある自動調理ロボットを売ってる会社につないで下さい」
ダイヤルもせずにトオルはそう受話器に話しかけた。すると、電話の向こうから機械的な女性の声が聞こえてきた。
「かしこまりました」
それだけで、電話からは呼び出し音が聞こえてきた。かつてトオルは父親に聞いたことがある。
「いつも電話に出る女の人はだれなの?」
父親はその時こう答えてくれた。
「あれはオペレーターロボットだよ。昔はダイヤルを毎回しなきゃ電話は通じなかったんだが、今はどこにかけたいかロボットに言うだけでいい様になったんだ。もちろんイタズラ電話なんかは強制的に切断されるんだ」
トオルはその時のことを思い出すと、どうやってイタズラ電話かそうでないか区別しているんだろう?と疑問に思った。どんなシステムになっているのか調べてみなくちゃ。
新しい疑問を胸にしまうと同時に、呼び出し音が終わり電話が通じた。
「はい、クック電器株式会社です」
電話に出たのはまだ若そうな男性の声だった。
「はい、えと、ちょっと聞きたいことがあるんですけど…」
トオルは急に緊張して来て、つっかえつっかえしゃべることになってしまった。
「はい、どのようなことでしょうか?」
「え~と、あの、家に料理を作るロボットがあるんですけど…」
「はい、自動調理ロボットですね」
「あ、それですそれです。それなんですけど、え~と…」
そこでトオルは詰まってしまった。どういう風に言えばいいのか分からなくなってしまったのだ。
電話の向こうのオペレーターがトオルの質問を待っているのかと思うと、余計に焦ってしまい頭がよく回らなくなってしまう。
「故障でしょうか?でしたら、我が社のロボットはすべて完全保証ですので、直ぐに修理もしくは交換させて頂きますが?」
オペレーターが聞いてきた。
「あ、違うんです。あの、ロボットがどうやって料理を作っているのか知りたいんです」
トオルはようやく質問することができた。
「えっ…」
オペレーターの男性はとても驚いているようだった。こんな質問をする人は珍しいのだろうか?トオルはちょっと恥ずかしくなってきた。
「ロボットがどのように料理するかお知りになりたいということですか?」
「はい、そうです」
「かしこまりました。確認いたしますので少々お待ち頂いてよろしいでしょうか?」
「あ、分かりました」
トオルが答えると受話器からは優しい音楽が流れ出した。
どうやらオペレーターの人はロボットのことを知らなかったらしい。変な事を聞いてしまったのだろうか?トオルは心配になった。でも、ボクは答えが知りたいんだ。そう思って、恥ずかしさを忘れると、オペレーターの人を待った。すると、「もしもし」と返事があった。
「はい」
と、トオルが答えるとオペレーターの人が謝ってきた。
「申し訳ありません。自動調理ロボットの構造と調理段階については、私では分かりかねます。担当の者が本日は休みを頂いておりますので、ご質問にはお答えできかねます。本当に申し訳ありません」
「あ、そうですか」
トオルはがっかりしながら言った。
「じゃあ、明日また電話します」
「本当に申し訳ありません」
トオルは受話器を置くと、落胆を覚えた。しかし、直ぐに気を取り直した。また明日電話しよう。そうすれば分かるはずだ。
トオルはその日、疑問を抱えたまま過ごして眠った。胸にもやもやしたものがずっとあるような気がして、なんだか変な気分だった。
次の日、昨日と同じ時間にトオルは電話をかけた。昨日とは別のオペレーターで若い女性が出た。一度こなしているだけに、トオルはすんなりと質問を聞くことができた。
「自動調理ロボットはどうやって料理を作るんですか?」
「えっ」
やはり昨日の男性の人と同じように、この女性のオペレーターもびっくりしたようだった。
「恐れ入りますが、確認いたしますので少々お待ち下さい」
そう言って、オペレーターは電話を保留にした。昨日も聞いた優しい音楽が流れ出した。この音楽は何の音楽だろうと思いながら、トオルがしばらく待っていると、オペレーターの女性が再び戻って来た。
「大変お待たせいたしました。ご質問ですが、担当の者が本日はお休みを頂いておりまして、申し訳ありませんが私どもにはロボットについて分かりかねます」
「えっ?だって、昨日も同じ事言ってましたよ。担当の人が休んでるって。今日も休んでるんですか?」
「……」
トオルの答えにオペレーターは沈黙してしまった。どうしたんだろう?トオルが不安に思っていると、女性が言いにくそうに話し出した。
「申し訳ありません。実は、私どもはロボットの販売を専門としておりまして、製造に関しては別の会社に任せているのです。お手数ですが、そちらにお電話をお願いしてもよろしいですか?」
「あっ、はい、わかりました」
トオルはちょっと驚いたが、確かにロボットを売っている会社がロボットを造ってるとは限らないと納得した。
「じゃあ、どうもありがとうございました」
トオルはそう言って電話を切った。しかし、切ってから気づいたが、なぜ担当の人が休んでいるなんて嘘をついたのだろう?と疑問に思った。なんだかまたもやもやした気持ちになってしまった。
「変なのっ」
女性オペレーターは「申し訳ありません」と言って、受話器を置いた。その女性は若いながらもこの仕事に対しては自信を持っており、お客様の満足できる対応を常に心掛けてきた自負があった。
しかし、今の電話をしてきたお客様、多分子供だろうけど、その質問には答えることができなかった。今までに経験したことのない質問だったのだ。どう対応したらよいのか迷ってしまった。結局、マニュアル通りに答えたのだけれど。
「はぁ」
女性オペレーターは一つため息をついた。
「ため息なんかついて、どうしたの?」
ため息を聞かれてしまったのか、横の机にいる男の同僚が尋ねてきた。
「うん、今ね、多分子供だと思うんだけど、自動調理ロボットはどうやって料理を作るのかって聞いてきたのよ。私うまく答えられなくて」
「あっ」
男性オペレーターが突然声を上げた。
「何?」
「いや、俺のところに昨日同じ質問が来たんだ。多分その子供だよ」
「そっか、昨日電話したって言ってたわ」
「うん、そうそう。珍しい質問だから覚えてるよ」
「そうね、大抵は使い方や故障や苦情だもんね。あんな質問初めて」
「俺は前に似たようなのが一回あったっけなぁ」
男は思い出すように言った。
「その時はどうしたの?」
「マニュアル通り対応したよ。担当の者がいませんって」
「それで?」
「それっきりさ」
首をすくめて男が言った。
「大概はそれで終わるんだよ。そもそもそんな質問をする人は滅多にいない。いたとしても、そのマニュアル通りに対応すればいいんだ。そんな疑問なんてすぐに忘れられるんだから」
「でも、今日の子供は覚えていたわよ」
「そうなんだ。だから、驚いてるんだよ。珍しい子供だよなぁ」
男は心底不思議そうに首を傾げた。
「それでどうしたんだ?」
「マニュアル通りよ。他のとこに電話して下さいって」
「そっか」
そう言って、男は考えるように上を見上げた。
「どうやって料理を作るのか、かぁ。売ってる俺たちも知らないもんなぁ。本当に一体どうなってるんだろうな?構造もよく知らずに使ってるけどさ」
男がそう言った時、二人の机の電話が一斉に鳴り始めた。話していた男と女は、再びオペレーターの仕事に戻った。
そしていつもの仕事に戻った時には、さっき疑問に思ったことなどすでに忘れてしまっていた。
トオルは女性オペレーターに言われた通り、実際にロボットを製造してる会社に電話をしてみることにした。
「僕の家にある、料理を作るロボットを造ってる会社につないで下さい」
そう言うと、いつもの通りにロボットオペレーターが、「かしこまりました」と返事をし、呼び出し音が鳴る。
今度こそ答えが分かるぞ。トオルは期待で一杯だった。
「はい、クッキング機器株式会社でございます」
中年女性の声が出た。ついに繋がったのだ。
トオルは自己紹介を済ませると、早速疑問を聞いてみることにした。
「自動調理ロボットがどうやって料理を作っているのか教えてくれませんか?」
「それでは、製造してる者に代わりますので、少々お待ちくださいませ」
「お願いします」
やっぱりここだ。ロボットを実際に造ってるところなら分かるんだ。
そう喜んでいるトオルの耳に、あの優しい音楽が響き始めた。
あれ?ここでもこの保留音楽なんだ。なんでだろ?有名なのかな?
トオルが音楽を聞き込んでいると、音楽が突然途切れ、男性の声が聞こえてきた。
「もしもし?」
「はい」
「ロボットがどうやって料理してるか聞きたいんだって?」
「そうなんです」
さあ、いよいよだ。トオルは受話器に耳を押し付け、一言も逃すかと集中する。
「それなんだがな、俺も実際分からないんだよな」
「えっ?」
「すまないな」
「え?でも、ロボットを造っているんですよね?」
「ああ、そうだよ」
「じゃあ、分かるんじゃないですか?」
トオルは勢い込んで、聞いた。ちょっと混乱していた。ロボットを造っているのに、そのロボットがどうなってるか分からないなんて。じゃあ、どうやって造るんだろう?
「うん、あのな。うちはロボットの組み立てをやってるんだ。部品と組み立て方の指示が送られてくるから、それを指示通りに組み立てて販売店に出荷するだけなんだ。組み立ても検査も全部ロボットがやってくれるしな。だから、ロボットがどうなってるか分からなくてもいいんだ」
「そうなんですか」
トオルは落胆を隠せなかった。期待していた分だけ落ち込んでしまった。
すると、その雰囲気が伝わったのか男が言った。
「その部品を送ってくる会社なら分かるかもしれないぞ」
確かにその通りだ。トオルは元気を取り戻そうと明るい声を出して礼を言った。
「どうもありがとうございました」
トオルは受話器を置いた。
また分からなかった。しかし、こうなったらとことん調べてやるという気にもなっていた。胸のもやもや感は大きくなるばかりなのだ。
「よし、今度こそ」
そう言って、再び電話を取った。
一方、クッキング機器株式会社の男は受話器を置くと、悩み始めた。
今の子供はなぜロボットのことなんか知りたがるんだろう?今時珍しい子供だ。男にも二人子供がいるが、そんな事を聞かれたことがなかった。家に帰って料理を食べる時に、「この料理を作ってくれるロボットな。お父さんが作ってるんだぞ」と言ったことがある。しかし、子供たちは父親の仕事に興味がないのか、「へぇ~」と言っただけだった。
「子供から電話なんて初めてですね」
男が電話を終えたのに気づいた事務の女性が話しかけてきた。
「そりゃ、そうだ。子供が会社に電話を掛ける機会なんて、そうそうないだろうからな」
「そうですよね。本当に珍しい」
女はうんうんと頷いている。
「ところで、子供の質問には答えてあげたんですか?」
そう言われて、男は困った。その弱気な心を隠すために、語気を強くした。
「いや、うちとは関係ない内容だったろ。仕事が忙しいのに答えてられないよ」
男はそう言って逃げるように部屋を出て行った。
しかし、部屋を出てから男は考える。果たして、本当に関係ないことなのか?自分の会社が作っているロボットの機能を知らないのは問題ではないだろうか。男は長年この会社で働いてきたが、たった今までその疑問を思い立つことはなかった。考えてみれば、どうやって料理を作っているのかは確かに不思議だった。
「どうやっているんだろうな」
ポツリと男は呟いた。しかしその時、部下の社員が急いだ様子で走り寄って来て叫んだ。
「大変です。工場のラインが止まってしまいました」
「なんだって」
男は部下の後に続いて走り出した。その時にはもう、先程の疑問はすっかり頭から忘れさられていた。
トオルは再度電話を手に取った。
「僕の家にある、料理を作るロボットの部品を造ってる会社につないで下さい」
ロボットの返事と呼び出し音が耳に届く。
「はい、ロボットパーツ株式会社です」
男性の声が聞こえてきた。トオルは今までと同じように自己紹介をし、疑問を聞いてみた。
「ロボットはどうやって料理を作っているのでしょうか?」
言い終えると、トオルは息を呑んで返事を待った。しかし、なかなか電話の向こうの男は返事をしない。
どうしたんだろう?
「あの…」
心配になって様子を窺ってみる。すると、ようやく返事がした。
「ああ、悪かったね。この質問を他人からされたのは初めてだったんで、ちょっと驚いたんだ」
そう言って、男は話し始めたが、その声の調子はなにか深いものがあるような気がした。
「ロボットがどうやって料理を作るのか、それは私にも分からないんだ。おかしいと思うだろう?ロボットの部品を造っているのに、そのロボットがどうなっているのかさっぱり知らないなんて。私もずっとおかしいと思い続けてきたんだ。ずっとずっと疑問だった。一体私は何なのだろう。仕事をこなしてはいるが、その仕事を何も理解していない。ただ設計図通りに造るだけだ。本当に不思議だよ。私の造ってるロボットはどうなってるんだろう?」
そう言うと、男はまた考えに戻ったのか黙り込んでしまった。
トオルは何を言っていいのか迷った。電話の男の人は、自分と同じ疑問を持っているようだ。そして、ずっとその疑問を考え続けているのだろう。
ロボットの部品を造っている人が考え続けても分からない疑問の答えを僕は見つけようとしていたのか。
「あの…、ロボットの設計図はあなたが書いているわけではないんですか?」
まだ沈黙している男に、トオルは恐る恐る話しかけた。
「いや、私じゃない。設計図は送られてくるだけなんだ」
「じゃあ、その設計図を作っている会社に聞けば分かるんじゃないでしょうか?」
「それは私も考えた。だけど、その会社を見つけることができなかったんだ」
「え?どういうことですか?」
「それも不思議な話でね。設計図を作ってる会社はロボット設計事務所というんだが、そんな事務所は存在しないんだ」
「え?」
トオルは絶句した。存在しない設計事務所から設計図が送られてくる?そんな話があるなんて。
「何回も電話をしたんだが、一度として繋がったことはないよ。まぁ、設計図は毎日必ず送られてくるから、仕事に問題はないんだけどね」
男はそう言って、少し笑った。疲れたような、乾いた笑い声だった。
トオルはもう頭が疑問で一杯になってしまい、参ってしまった。でもこれだけは伝えようと思った。
「僕は必ずその疑問の答えを見つけようと思いますよ」
そう力強く言った。
電話の向こうは少し息を呑むような気配があった後、声が聞こえてきた。
「そうですか。私は毎日部品を眺めて、ロボットがどうやって料理を作るのか考えたが駄目だった。君はがんばって答えを見つけてください」
「えっ、じゃあ」
と、トオルが声を上げた時には電話は既に切られていた。誰も聞いていない受話器に向かってトオルは話し掛けた。
「じゃあ、部品を眺めてただけだったんだ…」
そう言って、トオルは受話器を置いた。
電話で話した男は、確かにトオルと同じ疑問を持っていた。しかし、彼は疑問を持っていただけだとトオルは感じた。
彼の仕事は送られてきた部品を造って、それを組み立てる会社に出荷することだろう。しかし、彼は疑問の答えを見つけるために何か行動をしたわけではなかった。思えば、彼のしたことは設計事務所を知ろうと電話を掛けたことだけだろう。
「今の僕と同じだな」
トオルも電話を掛けているだけだ。
「でも、僕は絶対諦めないぞ」
トオルは自分の部屋で荷物をまとめ始めた。
疑問を解き明かす旅に出るのだ。うまくいくか自信はなかった。しかし、やってやろうという気持ちだけは、トオルの中でむくむくと育っている。
トオルは親に黙って行くことにした。言っても分かってもらえるとは思えなかったし、下手をすれば反対されるだろう。なにより、自分だけでこの問題に立ち向かいたいという想いのほうが強かった。父親も自分で調べろと言っていたし。
そこでトオルは、今度の学校の休みの日に、友達の家に泊まるといって出かける手はずを整えた。両親はその嘘を疑うこともなく、承知してくれた。
「誰も知らないなんてやっぱりおかしい。僕が知ってやる」
トオルは決意を胸にその日を待った。
そして、待ちに待った休みの朝、トオルは旅立った。
世界にとっては何の変哲もない一日の始まりだったが、トオルにとっては大きな冒険の幕開けのように感じられる。
「絶対に答えを探し出してやる」
完
これはかなり昔に書いたショートストーリーで、時期としては大学生だった自分が就職して新入社員になり、一年目あたりに書いたものです。
久しぶりに読み返すと、なるほど、どうやら私は相当何かに迷っていたようです(笑)。
初めて社会に出て、何も分からず右往左往する自分をトオルにして、何かを分かろうとする物語を描いたっぽいです。
分からないものを分からないまま進めても仕事としては回ることもある。
それでよしとする人もいるだろう。
でも自分はそれに納得しないぞ。ちゃんと理解して進めたい。
ただの歯車なんかになってやるもんか。
そんな気持ちでいたのを思い出しました。
それでこんな小説を書いちゃうなんて、わー若い若いww
読んで頂きまして、ありがとうございました。