表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

救出

あの時、この場所でアルフレド・ツェーザル・ヴァールブルクとして目を覚ましてからどれだけの月日が経ったのだろうか。


この場所に陽の光は注がないため、実際にどれくらいの月日が経ったのかは分からないが、もう何年もここに閉じ込められているような気分だ。


以前は疑っていた異世界転生という説も、このあり余った時間で何度も何度も考えた末に確信へと変わっていた。


何よりの証拠となったのが、おぼろげに、断片的ではあるが残っている、自分の物ではない記憶。そこから引き出せる情報は無に等しかったが、それでも自分がいつの間にか新たな別世界の人間に生まれ変わっていると考察するには十分だった。


現在、自分と、この世界についてわかっていることが少しだけある。


この世界はおそらく、僕が元居た世界とは別であるが、魔術の概念は大体同じであること。これは、ステータスから分かった情報だ。


魔術の属性がまるっきり同じだったのだ。この世界でも、火、水、風、地、光、闇、空、血の8つの属性からなる魔力は、変わらないらしい。


脱出に使えないかと魔術を試してみたが、魔封じの決壊でも仕掛けてあるのか、魔術は発動しなかった。つまり、今僕が使える魔術はステータスだけ。ステータスという魔術は面白いもので、どれだけ能力のない人間も、どのような条件下においても唱えれば発動するという特殊なものなのだ。


そのステータスを見る限り、肉体的性質は変わってしまっていたが、魂に刻まれた魔力の性質は変わっていないようで、魔術に関する能力値は同じだった。そもそも、この肉体には魔力ではまだ魔力が少なすぎるので実力の半分も出せないだろうが。


考えに耽っていると、コツンと何かが頭に当たった。跳ね返ったそれは牢の床を転がっていく。パンだ。僕は慌ててそれを追いかけるが小さなパンはころころと転がり、ついに格子の向こうへ出てしまった。


「あ、あぅあぅ」


上手く出ない声で何とか訴えながら、パンに手を伸ばすと、その手を踏みにじられた。


「あ゛!」


パンを投げ入れたのであろう兵士が僕の手に足を乗せたままにやにやと笑う。


「****、**、*********」


牢屋の前にやってくる人間が親切に言葉を教えてくれるわけもないから、僕は言葉の手がかりもないままだった。


男は、牢の鍵を開け、狂気に満ちた目で鞭を振り上げるーーー


ーーパンッ!


目の前で、男の頭がはじけ飛んだ。咄嗟に振り向くと、後ろの壁には男の頭を貫通したのあろう()()が埋まっていた。洗練された魔術だ…!


もう一度男の方を振り向くと、美しい薄紅色の髪色をした青年が、涙ぐんでこちらを見ていた。


「アルフレド……!」


肩まで伸びた美しい髪を纏めて左肩に流したその青年は、ウルウルと、目に貯める涙を増やしながらこちらに近づいてくる。


悪い人ではなさそうだ。

直感的にそう思ったが、僕の本能は何を警戒しているのか彼から距離をとる様に後ずさらないと、気が済まなかった。


それを見て肩を落とす青年。こちらに手を伸ばしながら、何かを話しかけてくる。


「******、****、アルフレド」


名前を呼ばれたのは、2度目だ。彼は確実に僕のことを知っている。おぼろげな“アルフレド”の記憶を必死にたどってみるも、なかなか思い出せない。牢屋の端でうずくまるようにしていると、彼はにこやかな笑みを崩さないまま、僕のおもちゃを差し出した。


ーーー()()…おもちゃ?


途端に、アルフレドの記憶が僕の中に流れ込んでくる。5歳の少年が覚えていることは大してなかったが、家族との思い出の日々があふれるように僕の中を渦巻く。


目の前の青年が自分の兄であることを知った。


震える手を恐る恐る差し出すと、その兄らしき青年はついに貯めていた涙を流しながら僕の手を取った。温かく優しい手は、僕の腕をそっと引き、彼の大きな胸へと僕をいざなった。


ざっざっと大人数の足音が聞こえてくると、青年の後ろの大量の兵士がやってくる。おびえて体を硬くする僕に、青年はやさしく微笑みかけると、僕を抱いたまま立ち上がった。


狭い階段を上った先に、陽の光が見えた。それは暖かくてとてもやさしいー。


僕は助かったんだ。と、心からの安心が僕の胸を温めた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ