古井戸
<現地>は京都駅の南東にかなり離れた住宅地だった。
コインパーキングに車を停めて歩く。
市内だが
海外からの旅行客が立ち寄るエリアでは無い。
それでも、
道の傍らに(教科書に載ってる)歴史上有名な人の
墓はあっちと看板がある。
飲食店の数が多い。
学生が急ぎもせず、歩いている。
京都は大学が多いので、どこにでも
自由なファッションの学生が歩いている。
聖は、
京都らしい、と少し懐かしい。
ちなみに、聖は散髪を怠って伸びた髪を、無造作に太い輪ゴムで後ろに束ねている。
人混みで<人殺しの徴>を生々しく見たくないのでサングラス着用。
11月の下旬で、寒いから白衣の上に
クローゼットから適当に取った黒のレザーコートを羽織っている。
旧大戦のナチスのコートに似たデザイン。
久しぶりの外出。
何となく、コートに合わせて片手に革手袋。
やはり、何となく、靴も合わせて黒革の編み込みブーツ。
(今の、○○○、だよね)
(イタクない。でもスタイルいいよ)
(アジア系? 不明)
と、すれ違った女子高生が聖を二度見している。
さっと、写真も撮っている。
ゲームキャラ(サブキャラ)のコスプレに見えたのだ。
でも、聖は気付かない。
自分が、随分前にクリアしたゲームだが、無頓着。
最初に、<芦川雪菜>の家を見に行く。
前庭が広く、植木が或る日本家屋。
祖父母の家も見に行く。
広い庭に石灯籠が或る。
塀は低く。門に扉は無い。
間のマンションは3階建て。横に長い。
1階10室。
両側の自転車置き場は思ったより広い。
それぞれ50坪はある。数台の単車と自転車が置いてあった。
芦川家の前でちょっと立ち止まる。
祖父母の家の前まで、すっきり見えている。
3才の子を一人で行かせた事実に違和感があったが、
母親が、家の外で見送ったとしたら、不自然では無い。
<雪菜>は家を出て、左側へ歩く。
鋪道は広く人通りは少ない。
雪菜は鋪道を歩いて行ったのか?
いや違う。マンションの敷地内を通ったのだと思う。
鋪道とマンションの間にはフェンスがあるが、
通り抜けできる。鋪道より安全な通路だ。
母親は、本家(祖父母の家)に娘が入ったのを見届けたと、思った。
実際には、違うのに見誤ったとすれば、<雪菜>が通りから消えた位置は、
マンションの自転車置き場に入ったとしか、考えられない。
聖は、本家隣接の自転車置き場に足を踏み入れたとたん、ゾワゾワした。
怖いモノがいる。
どこだ?
探した視線の先に、
自転車置き場の奥に、ブロック塀で囲まれたスペースがあった。
120センチほど高さにブロックが積まれている。
「なに、あれ?」
およそ2メートル四方。
側に行って、塀の中を覗く。
すると、
そこには井戸があった。
地面から50センチほどの高さの石の筒。
直径60センチほどの、
口を塞いでいるのは竹製の蓋。
かなり古い。
井戸の由緒を記した小さな看板が脇にある。
江戸以前の年号が読み取れた。
こんな古井戸は京都には珍しくない。
マンションの敷地内に古井戸があって、
由緒あるモノだから、取り壊さないで保存している。
それも、ありがちな事だ。
ブロック塀は、子供が井戸に落ちないように作られたのだ。
珍しくも無い。
ありふれた古井戸に、
なんでだか、
聖は禍々しい気配を感じた。
「まさか、あの井戸に……落ちてないよな」
呟く。
薫は、本当の山本マユは20年前に死んでいると推理していた。
……どこで死んだ?
<雪菜>の失踪地点の、此処だとしたら?
……ブロック塀は、どう見ても20年も前のじゃ無い。白っぽくて綺麗だ。
……では、20年前は、コレは無かったのか?
……だとしたら、子供が落ちる可能性もある。
……警察が捜索したはず。
……いや、待てよ。……メモが入っていたから、その日のうちに、誘拐事件になったのか。
……警察犬使って、足取りは追うだろ。母親が祖父母の家に行くのを見ていたのに、忽然と消えたのだから。
……あ、でも、警察犬使ったとしても、捜索対象は<雪菜>だ。
……警察犬は<山本マユ>を追ってたんじゃない。