一人で推理
翌日、薫から山本家の住所を知らせるメールが来た。
でも、最初に<元の住所>とあり、
「タイへ夫婦で逃げた。海外移住や。一足遅かった。計画的や」
と、続いていた。
「まさかタイまで行けないし。手がかりは消えたな」
と、夜に電話をかけてみた。
「そう言うことや。腹立つ。山本マユに関しての情報は集めてるけど」
薫は、聖に調査しろとは、言わない。
山本夫婦を遠くからでも見て、人殺しかどうかの判断を依頼しただけだ。
自分で調べるつもりなのだろう。
「カオル、この住所調べた。マンションの画像も見た。なんか見覚えがあると思ったら、殺人事件の犯人が住んでいたよな、確か」
聖は、ある考えがあって、言ってみた。
「そう、なんか?(暫く間があいて)ホンマや。双子老婆殺人事件の犯人の……隣の部屋、やんか」
「隣、なんだ。……色々知ってるかも」
「分譲マンションで……年齢的に、同じ小学校に通っていた確率が高いな」
「……そうなんだ」
マユは<やさしいお兄ちゃん>だったと
言っていた。
ヨウムの為に叔母二人殺した男。
男は、山本家とマユの暮らしぶりを知っていたに違いない。
聖は生前のマユと接触の合った人間に会いたかった。
男は堀の中。どうやって合えば良いのか
刑事にでも聞かないと、わからないではないか。
<死者>と認識したくなくて、ずっと知るのを避けて、
生前の事を何も聞きはしなかった。
自分はマユの事を何も知らない。
ソレが今は歯がゆい。
「セイ、なんで、殺人犯が隣に住んでいたと、知っていた?」
刑事は訝る。
想定内だ。
答えは用意してある。
「あの事件、アルビノのヨウムを飼育するのに金が欲しかったんだよ。俺、ヨウムが気になって覚えているんだ。……飼い主が収監されたら、あの鳥はどうなっちゃうのかなって」
「はあー。成る程。……そういう事か。セイの興味は鳥か」
薫は納得した。
「アルビノのヨウム、珍しいんだ。……引き取り手が無いなら、貰いたい」
「……分かった。調べる。そうか。ヨウムの件で面談希望やな。死刑を求刑され、まだ確定されていない。留置所で面会は可能や。本人が拒絶しなければ。隣に住んでたんや。実際の山本家の生活を知っているに違いない。マユと友人やったと言って聞き出してくれるか?……要請してみる。すぐには無理やで」
「……俺、20年前の誘拐事件も興味あるけど。京都の、事件だし」
「あ、セイは京都の大学、行ってたんやった」
「うん。……カオルは現場を調べたのか?」
「いや。京都の事件、それも20年前に、現場は調べ尽くしている。奈良の俺がチョロチョロできない」
「行ってないのか。……彼女の墓には行ってないか?」
「それは行ったよ。T寺に」
……T寺、と聖はメモする。
一番知りたかった情報を得た。
「セイ、20年前、芦川美雪、『雪菜』の母親は、家の前で、娘がマンションの前を通り、本家に行くまで見送ったと証言している。当時3才の子供や。危なくない見通せる道だから、一人で行かせたと。……しかし、実際本家には行っていない。本家は、門に扉はない。母親が家の前から見て、門の中に入ったと思った、そう、言っている。思い違いか、錯覚か、分からない」
薫は最後に早口で、付け足した。
20年前、マユ(本当は雪菜)を誘拐したのは山本夫婦の可能性が高い。
どこで拉致したのか?
ポイントは限られてくるのではないか?
母親が、雪菜の姿を目で追い、本家に辿り付いたと、だから姿が消えたと、
錯覚したとしたら、やはり自宅と本家のマンションの、
本家に近い場所だ。
聖は明日にでも、現地に行こうと。心を決めた。
……マユは、今夜も現れない。
……自分一人で推理するしか、ないのだ。