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マユの事件

「カオル。山本夫婦は死んだ娘の身代わりに、ユキナを誘拐した、そういう事か?」

 しかし、そんなの、周りが気付く。

 無理だと、聖は、思う。


「子供が入れ替わっても他人には分からない、ケースもあるやろ」

 保育園に通っていない。

 両親以外の血縁と接触が無い。

 他人とも付き合っていない。


「元々人の目に触れていない子やったら誰も入れ替わりに気付かないやんか」


「……誘拐した子も、人目に触れさせないで育てたのか?」

「誘拐当時3才や。成長すれば面影も変わる。

 小学校に入る頃には、山本マユと名乗っている子を別人と(ユキナと)疑う者はいないやろ」

「周りはそうかも知れない。でも本人はどうだろう? 

 誘拐されて、すんなり山本家の娘マユになれるだろうか?」

「……セイ、3才の頃の記憶って、はっきりしてるか?」

 問われて考える。

 思い出してみる。

 川で父とシロと遊んだような……でも、もっと後の記憶かも知れない。


「曖昧やろ。俺も幼稚園の記憶は僅かや。運動会で怪我したらしいけど、覚えてない。入園式は覚えてない。卒園式はちょっと記憶に或る」

「確かに、記憶がハッキリしてるのは5才くらいから、かな」


「そうやろ。俺は小学2年でこの村へ引っ越して来たけど、その前は覚えてない」

「へっ? カオルは生まれたときから、至近距離に居たと思ってた」

「幼少期の記憶はそんなもんやねん」


「本人が環境に馴染む年頃の記憶が重いのか。物心が付く前の記憶は薄いのか」


「多分。でもな、誘拐当時に恐怖があれば記憶に残るんちゃうか。

 犯人は知り合いの優しい人やったかも。知らない怖い人には懐かない」


 薫は、<芦川雪菜>の近辺に<山本>が居たはずだという。


「調べるのか?」

「そうや。山本が事件当時どこに住んで何をしていたか調べる」


 薫が帰ってから、<芦川雪菜>事件について

 ネットで調べ直す。


 ……当時の母親の姿。白い肌、細い顎。

 ……一目見て、マユにそっくりだと思う。

(あの子は心臓が弱くて……薬を飲まないと発作が起きるんです)

 ……マユと同じ声。

 もう興味の無い事件では無い。

 

 コレは、マユの事件だった。


芦川家の。前の道路は広い。

祖父母の家に行くのに通過するのは、間にあるマンションだけだ。

だが、住民がシロなら、車で連れ去られたのではないか?


事件当時のワイドショーを編集した動画があった。


「赤ちゃんの時から、よく知っていますよ。こっちの本家に行くのに、マンションの前を通りますからね。ママと一緒に。最近ですよ、一人で来るようになったのは」

 マンションの前で60才くらいの女がインタビューに答えている。

 廊下は通りに面している。

 両端に階段。右に自転車置き場がある。

 鋪道は広くガードレールがある。

 3才の子供が一人で歩いて危ない感じはしない。

 芦川家は3つのマンションのオーナーで、このマンションもその一つであった。


「車で連れ去ったとしたら、マンションの住人に見られる危険が高い……それに、マユがここを一人で歩いていたのは、たまたま、なんだ。犯人はどこかで車を停めて家から一人で出てくるのを待っていたのか?」

 ……いや、違う。やっぱりマンションだ。

 さっき見た動画で、住人は(一人で来るようになった)と言っていた。

 マンションに、来ていた。

 つまり、遊びに来ていたという事では無いか?


「そうや、山本の家に遊びに行ってたんや。山本は事件のあった半月前、つまり2月末まで、あのマンションに住んでいた」

 次の日に、薫が電話を掛けてきた。

 

 あっさりと接点は証明された。


「引っ越していった1階の女の子と廊下や階段で遊んでいたという証言はあった」

 山本は103号室に住んでいた。

 一緒に遊んでいた子は本当の山本マユなのだろう。

 事件当時、住人で無いから捜査の対象にならなかったのか?


「いや、一応東大阪の引っ越し先に行ってる。事件の1週間後に。任意で室内も確認してる」

(ニュースを見て驚いています。

 うちのマユとユキナちゃんは、時々マンションの廊下で遊んでいました。

 ほんの短い時間です。私は側に居ましたし、ユキナちゃんのママも家の前から、見てらっしゃった)

 母親は、こう話した。

(マユ、いなくなって可哀想だね)

 父親が、娘に話しかけると、

 娘は

(かわいそうだね)

 と言い、涙を滲ませたという。

 親子3人、夕食中だったらしい。

 では、子供は本当のマユだったのか?


「分からない。ユキナだったかも知れない。

 髪型を変え山本夫婦と自然に過ごしていたとしたら、捜査官が見落とした可能性はある」

 

 僅か3才では警察官が質問することも出来ない。

 山本夫婦は金銭に困っていた訳では無いし、誘拐犯と疑う理由も無かった。

 

「ところで、セイ。確か、人殺しは見たら分かるん、やったな」

 薫が軽く言う。

 聖は、それには答えない。

 警察官に軽く答えられない。


「山本マユは20年前に死んでいると思う。死因は分からん。

 親が殺ったかは、セイが見たら分かるん、やんか」

 

 山本マユの両親を見に行けと。

「しょうがないな。カオルの為なら……断れない。ヤバイ俺、お前に惚れてるかも」

 冗談で返した。

 マユの真実を知りたい。

 薫から手伝えと言われて有り難い。

 自発的に動くのは不自然だから。


「有り難い。明日にでも住所メールする」

「了解」


教えて貰わなくても、住所なら知っていた。

隣に殺人犯が住んでいたのも知っている。

教えてくれるなら<芦川雪菜>の墓がどこにあるのか、知りたい。

だって、どうもマユの本名は、そっちだろ。


山にあったマユの骨は、捜査官が全て持っていってしまった。

だから……マユは此処には来られない。


墓に行けばあえるかも

それは……僅かな望みだった。

二度と会えないと、諦めはじめていた。




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