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刑事の推理

薫が予告したとおり、

次の日から、暫く、県道にマスコミの車が停まっていた。

もちろん、神流剥製工房にもやってきた。


聖は秋田犬の仔に続いてフクロウ、リス、と続けて仕事が入り、忙しい。

日中は、ほぼ作業室。作業室から出ると、勝手に中に入って居た記者たち、と、出くわした。

「呼んでも、返事がなかったので」

と、名刺を出して愛想笑い。

相変わらず、入り口のドアに鍵は無い。


「通報しますよ」

聖は、怒りを抑え、言った。

足下で、シロは今にも跳びかかりそうな様子で唸っている。


血が一杯飛び散った白衣を着て、

片手にピンクのビニール手袋。

素手に、内蔵や肉片が載ったトレイ。


二人か、三人か、ちゃんと見なかったが、

家宅侵入していた記者達は、

怖いモノから逃げるように、

あっさり出て行った。


警察官は一度来た。

見覚えの或る人たちだった。

シロは吠えない。

彼らは最初に「シロ」と名を呼んだ。


ここに薫の関係で刑事達が来たのは一度や二度では無い。

警察署にも最近、シロと行った。

「過去五年くらいの間に、遺体発見現場近くの県道に、不審な車が停まっていたことは無かったですか?」

質問はこれだけだった。

覚えが無い、と答えた。

そんなことが有れば記憶に残っている。

あんな場所でエンストでも無い限り誰も停まらない。

カーブで道幅は狭い。

今は警察車輌が停まっているので片側通行になっている。

警察は、<芦川雪菜>は車に乗せられて死体発見現場まで移動したと推測しているらしい。

聖を怪しんでいる様子も、工房の中を調べることも無かった。

過去に薫が盗聴器を付けたり、張り込んだりした場所に、

被害者が監禁されていた可能性はゼロに近いと、

誰だって思うに違いない。


その後、1週間ほどで、事件の報道は途絶えた。

新たな殺人事件にマスコミは群がっている。

現場捜査も終了して、捜査官も居なくなった頃、

待っていた薫からの電話があった。


「久しぶり。……それで、同一人物だったのか?」

聖は感情を抑えて聞いた。

<山本マユ>と無関係を装う。


「いや。あのな、マユちゃんの遺体が見つかっていた」

薫は、辺りを気にしているのか、小さな声で言う。


「……何、それ?」

どこで?

いつ?

そっちが、マユなの?

問いたい事は山ほどある。

が、我慢して薫の説明を待った。


「2週間ほど前に、行き倒れの遺体を、両親が確認に来て、引き取った」

場所は新宿。

死因は泥酔、嘔吐による窒息。

発見は1ヶ月前。

事件性は無い。(解剖はしていない)

鞄、携帯電話を所持しておらず、

身元が分からなかった。


「親が、本人だと確認したのか」

「そうや。年齢、身長、体重は一致している。まあ、だから親が自分の娘かもしれないと思ったんやろうけど」

「……そうなのか」


聖は(新宿で、泥酔)に、引っかかった。

薫も、同じ考えを口にした。


「山本マユは、生まれ付き心臓に重い障害がある、と行方不明者リストに親が申告している。そんな子が新宿で……失踪してから今まで、どうやって暮らしてたんや」

 近いうちに、また行く、

 そう言って、電話は切れた。


新宿、行き倒れ、若い女性、

聖は早速検索する。

……無い。

警察署のホームページにある身元不明リストから、既に消されているのだ。

事件性が無いなら、記事も存在しないだろう。


<山本マユ>のデータも消えていた。行方不明者では無くなったから。

写真を取り込んでおけば良かったと後悔する。

二度と会えないかも知れないのに……。


<芦川雪菜>を検索してみる。

新たな報道があるかも知れない。


(遺体発見現場にまつわる怖い話・イノシシ男の怪・霊感剥製士)

とか、いっぱい出てきた。

面倒だから画像に絞る。


ざっと眺める。


20年前の誘拐事件現場。

家と、祖父母宅は近い。

家は50坪、祖父母の家は300坪の敷地。

二軒の間には3階建てのマンションがあるだけだ。


「ユキナちゃんは祖父母の家へ、向かった。このマンション、怪しくないか?」

薫に、聞いてみた。


案外早く、電話の2時間後に、もう、来たのだ。

「徹底的に調べたが、住民はシロやった」

「そうなのか」


「セイ、俺は、山本マユの両親が怪しいと思えてならない」

山で死体が発見され、

<芦川雪菜>だという電話があり、

その後で新宿の、

身元不明の遺体を引き取っている。

怪しい、と繰り返す。


「身元不明の遺体はマユじゃなかった、と疑っているのか?」

「そうや。人口の少ない奈良県でも身元不明者は多いねん。

 新宿やで。家出してきたり、家族と連絡が途絶えてる若い子が、どんだけおると思う?

 身元不明者は捜す者がいないから身元不明なんや」


 行方不明の娘を捜している両親が、特徴が一致する身元不明遺体を確認に来て、

 娘だと、連れて帰った。

 どこにも不自然な点はない。


「他人の死体を、嘘ついて、連れて帰る……必然性は少ないからな。疑わん」

「その嘘、バレるんじゃないか。後から本当の家族が問い合わせるかもしれない」


「一旦行方不明リストから消えたら、

 今後、本当の家族が行方不明者として捜索願いを出したとしても、

 照合する身元不明者のリストには無い、ということや」


「つまり、誘拐犯は山本マユの戸籍上も両親で、

 山本マユの名で、行方不明だと届け、遺体が発見された時点でユキナ、だと電話をかけた。

 その後で山本マユの死を偽造したのか?」


 何の為にと、聖は考える。

 死の偽造が必要な理由を考える。

 薫は、コンビニの袋からチューハイの缶を出して、一気に飲んだ。


「おい、こんな時間から飲むのか」

 午後四時。そとは明るい。

「明日は仕事やねん。早く飲んで酔い覚まして夜に帰るねん」

 と言い訳する。

 薫は動揺している。

 セイだって負けないくらい動揺している。

 でも、酒に手を伸ばすのは我慢した。


 酔って、余計なことを口走ってもいけない。

 自分はマユを知らない。

 知っていると、薫に言えない。

 それだけは、言ってはいけないと、思っていた。


「山本マユは、20年前に死んでいる。それなら山本夫婦の行動に辻褄が合う」

 薫は、言った。




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