表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

君は誰?

一夜明けて、

ヘリコプターの音で目覚めた。

聖と薫は酔いつぶれ、

ソファで眠った。


昼に近い時刻だった。


「もう、来よったか」

薫が先に起き、テーブル周りを手早く片付ける。

低血圧の聖は、すぐに身体が動かせない。

暫くまどろむ。

薫の姿が視界から消える。


どれくらいの時間が経ったのか。

「……ん?……カオル、仕事行ったのか?」

顔を舐めるシロに聞く。


「いや、今日も休みやで」

薫が作業室から出てきた。

「朝めし、食べよか」

大きなオニギリが乗ったトレイを持っている。

作業室で作ったらしい。

「冷凍ご飯、無かった筈」

「炊いた。上等の梅干し見つけた」

「そんなの、あったの? 忘れていた」

炊きたてご飯の手作りオニギリ。

ゆうべ食べたコンビニオニギリとは別物の美味しさ。

ステンレスのトレイは仕事用。

解体途中で中身の臓物を載せている。

でも、大皿としても使えるのだと、知った。


「おう、出てる」

薫はスマホを見て言う。

「セイ、大人になったユキナちゃんの、CG画像も出てる」

「そうなんだ。熱いお茶、入れてくる」

聖はマユでなかった死体より、美味いオニギリに心が取られてる。

「うん。俺も欲しい」


お茶を持ってくると、何故か薫はパソコンの前に座っていた。

(勝手に触るな、)

と言いたいところだが、薫の顔つきが怖いので言えない。


「どういう事や?……これは、マユちゃんやんか」

薫は画面を指差して言う。

「……え?」

聖は画面を覗く。

すると、そこにCGマユが……マユの顔があるではないか。


「うわ、……どうみてもマユ、」

そこまで、口から出で、慌てて自分の口を押さえた。

自分が山本マユの顔を知っていると、薫にバレては、マズイ。


「カオルが一目惚れした行方不明のマユちゃんに、似てるのか?」

と、聞き直す。


「似てるなんて、もんやない。比べてみるで」

行方不明者情報のサイトから、マユの画像を取り込み、ユキナのCG画像と並べる。

山本マユは、白い、小さな襟のシャツを着て、微笑んでいる。

すこし茶色がかった長い髪、白い肌。

背景は青い空と白い建物。

CG画像は、無表情で肌は平均的な色合い。髪は前が短く真っ黒で重たい感じだ。

雰囲気はまるで違う。

でも、

「頭蓋骨が、同一骨格に見える」

と聖は呟いていた。

「セイが言うなら、確かや……同一人物としたら誘拐されたユキナちゃんは、山本マユとして……」

誘拐犯に育てられ、成人して殺されたのか?

では、何故わざわざ行方不明の届けを出した?

薫は、思いついた謎を並べる。


聖はまだ、頭の整理が付かない。

それに、画像2枚比べただけの判定は完全では無い、と考え直す。

「カオル、偶然、二人が、似たカタチの頭蓋骨だった可能性はあると思うよ。スナップ写真1枚では正確にはカタチを読み取れないし」

「成る程。まず専門家に確認して貰う必要があるな。同一人物の疑いがあれば、山本マユの家族に任意で聴取出来る」

髪の毛一本でも取れたら、ユキナとマユが同一人物かどうか判る、

そう言って、

慌てた様子で、薫は出て行った。


「どういう事、い、一体何で? どう見たって、絶対、これはマユだよな。他人だろ。双子ならともかく、似すぎてる」

薫のオートバイの音が遠ざかったのを確認してから、

聖は、大きな声でシロに感情をぶつけた。

「なあ、こういう事だよ、マユは小さい時誘拐されたユキナちゃん、誘拐って事は、犯人に監禁されていたのか?……逃げだそうとして殺されたかも知れないんだ。……俺、心臓発作で亡くなったと、思い込んでいただけか?」


 聖は、行方不明サイトのマユの写真を、瞬きもせずに、見つめ続けた。

 そして、マユが自身について語った事を、記憶から捜した。


初めて工房に来たとき、自分が死者と知らなかった。

春にダウンコートを着ていた。

靴を履いていなかった。

モコモコした薄茶色の靴下。

ダウンコートはロング。

コートの下に何を着ているのか

多分スカートだろうが、

見えはしない。


解決済みの事件の犯人に、心当たりがある。

<人殺しは見れば分かる剥製屋>

に、犯人らしき人物を見て欲しいと。


住んでいたのはマンションだ。

病院と家の中で殆ど過ごしていたと言っていた。

他に?

家族のこと……聞いたのだろうか?

覚えが無い。

聞いたけど、忘れたのか?

自分がマユの事を何も聞かなかったのかも。

過去を話せばマユが死者だという現実に繋がりそうで

生前の話を避けてきたのだ……。


「マユに会えたら、全部分かるのに」

本人に聞けばいいのだ。

でも、その夜もマユの訪問は無かった。


事件があって刑事の薫が出入りすれば、

どこかで眺めているかのように、

全て知っているかのように、

気付けば隣に、居てくれた。


でも、今回は違う。

それが、何かの答えかもしれないと、

聖は思い始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ