表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/15

急展開

「何が、見えているのですか?」

 聖は聞いた。

マユの母は古井戸の周りの、<何か>を目で追っている。


「カタチが歪でヒトか何か分かりません。黒い影が井戸の周りに群がっている……、所々が生々しい。悲しげな目、部分的に肌色。真っ赤な血が眉間から噴き出して……そんな有様です」

「……そんなモノが見えているんですね(怖い)。僕は何も見えない。でも、怖い、です」


聖は、ブロックの囲みを乗り越え、井戸の蓋を外そうとした。

しかし、蓋に手をかけたとたん、身体に妙な感触。

見えない小さな柔らかい手が、

足にすがり、背中を叩き、腕を掴んでいる、

そんな感じ。

(ヤバイかも)

躊躇していると、

ポケットのスマホが鳴る。

着信。


薫からだった。


側にいる<マユの母>にも、聞いて欲しくてスピーカーにした。


「急展開や。新宿の身元不明遺体、身元が割れた。山本マユではない、とバレたで」

 と、言う。


「キャパクラのボーイから、たれ込みがあった。客が店の子を、筋弛緩剤と酒を飲ませ、意識不明状態で路上に放置したんやと。同じ手口で貢がせていた風俗嬢を殺して捕まった。暴力団関係者や」


 ボーイは<怖い客>が捕まったと知って、警察に話に来たという。

 殺されたキャパ嬢とは親しい関係だった。

 画像、動画も提示した。

 遺棄された日のもあった。

 服装が、<山本マユ>として引き取られた身元不明と一致していた。


「ガイシャはうなじに大きめのホクロが2つあった。親が自分の娘と間違うとは考えられない。山本に、聴取する理由が出来た」

だから、古井戸は触るなと、

早口で言って電話は切れた。


「聞こえていましたよね?」

「はい。ここも再び捜査の対象になるかも知れない、そういう事ですね」

  20年前は誘拐された雪菜の捜索だった。

  

 今度は<山本マユ>の捜索だ。


「雪菜がマユちゃんとして育てられていた……警察が調べれば事実はすぐに判りますね」

 娘がどこの学校に通っていたか、通っていた病院も、知りたいと話す。


「病院……、あの、どうして入れ替わりは病院ですぐバレなかったのかな」


3才で、突然、<生まれ付きの心臓の障害>が、出現したら、おかしい、と思われないか?


「薬を飲まないで普通の生活をさせていたら、発作が起きたと思います。山本さんは驚いて病院に連れて行った。そこで初めて障害を知った。……初めて知ったと医師に話しても疑われなかったと思います」


 障害のレベルと現れる症状のレベルは必ずしも一致しない。

 出生時に見過ごされて幼児期に見つかる障 害や病気もある。


「神流さん、井戸を見るのは、今は止めましょうね」

「はい。出来るなら見たくないですよね。……では、」

聖は、(では)の次に(また)とは言えなかった。


<マユの母>は

軽く頭を下げ、井戸から離れ、そのまま家の方へ。

振り向きもせず、行ってしまった。


後ろ姿が、老いて、悲しげに見えた。

マユに似た優しい顔は、綺麗で五十代には見えないのに……。

後ろ姿に、過酷な人生が、深い影を落としていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ