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ep6 わたしは人間の街に出かける。とても楽しみだ

 差し出されたワンドを、ホルダーごと受け取った。メルフェレアーナの顔を見ると、笑顔で頷いてくれた。

 麗奈は立ち上がって、ベルトを腰に巻いた。これだけで、魔法使いになったような気がした。あ、もう魔法使えるんだった。


「似合っているわよ。それなら街に行っても大丈夫ね」

「これ、わたしが貰っちゃってもいいの?」

「もちろん。大事な娘が、魔法を使えるようになったんだから、そのお祝いよ。

 本当は、かわいいお洋服とかの方がいいのかもしれないけれど」

「ううん。すごくうれしいよ、ありがとう」

 麗奈は思わず、メルフェレアーナに抱きついていた。立っているとメルフェレアーナの方が頭一つ分ほど大きいため、胸元に飛び込んだような形になった。

 気がつくと、そっと頭を撫でられていた。何だかその手が優しくて、嬉しくて、自然と麗奈の目から涙があふれていた。


「あらあら、麗奈ちゃん相変わらず涙もろいのね……」

「だって、嬉しかったんだもん」

「うふふ。喜んでもらえたのなら、私も嬉しいわ。

 ちょうどいいくらいの時間ね。そろそろ街に出かけましょうか」

 そう微笑んでいるメルフェレアーナの腰元には、麗奈と同じワンドが同じホルダーに収められていた。




 木々が鬱そうと茂る森の小道を抜けて、街道まで出る。歩いているうちに、背中に背負った籠が何度か肩からズレて、その都度背負い直した。地味に肩が痛い。

 敷地から出たら、出来るだけ魔法を使わないように言われた。人間に混じって生活するための、大切な知恵だって。


「レアーナさんは、いつもこんなに重い荷物を持って歩いて行っているの?」

「そうね、徒歩以外に街まで行く方法もないし。引き車はこの小道を通れないから、使っていないわ」

「魔法で容量を拡張した袋とかないの?」

「あるわよ。魔術師のお店で売っている魔道具に、稀に売られていることがあるわね」

「やっぱり、値段が高いのかな?」

 三十分位歩いただろうか。小道を抜けた先には広い街道があって、森の中を長く貫いているようだった。小道の脇には、メナルア果樹園と書かれた立て看板が立っていた。

 麗奈とメルフェレアーナは、籠を下ろして道端にある岩に腰をかけた。水袋から水を飲んで、喉を潤した。


「値段も確かに高いけれど、それ以前に維持費がかかるから、使っている人がほとんどいないわね」

「維持費?」

「ええ。入れた物が袋の元々の容量を超えると、超過した容量に応じて魔力を消費し続けるのよ。中に魔石を一緒に入れておくんだけれど、上手に使わないとあっという間に魔石の魔力が無くなっちゃうのよ」

「確かにお金がかかりそう……」

 空はカラッと晴れている。今年の秋は長雨が降らなかったから、過ごしやすいって教えてくれた。日本と同じように、この世界にも四季があるらしい。

 冬になるとそれなりに寒くなるけれど、雪はあまり降らないんだとか。


 ふと、気になる言葉があった。


「ねえレアーナ? 魔法と魔術って何か違うの?」

 籠を背負い直し、再び歩き始める。

 街道には轍がいくつかあった。蹄の跡と轍の幅から、それが馬車の物だと言うことが分かった。それなりに重要な街道なのかもしれない。


「魔法は麗奈ちゃんも使っているわよね。

 魔術は魔方陣と文字で魔法効果が顕れる技術で、麗奈ちゃんの腰にあるワンドにも使われているわ。

 人間は魔法を使えないけれど、魔術を使うことで魔法の代わりにしているのよ。だからこそ、魔石が重要な資源になっているの」

「魔石は、魔獣が持っているんだっけ?」

「正確には、魔獣の魔力器官が空気に触れることで結晶化した物が、魔石よ。体内にあるときは、普通に柔らかいのよね」


 お喋りをしながら歩いていると、森の先に大きな壁が見えてきた。高さは四メートルくらいはありそう。街道の先には両開きの大きな扉があって、今はしっかりと開けられている。

 扉の脇には左右に門番が立っていて、麗奈とメルフェレアーナをじっと睨んでいるように見える。思わず睨み返そうとして、慌てて目を逸らした。駄目駄目、ここで問題を起こしたら絶対に迷惑かけちゃう。


「こんにちは、今日も林檎を売りに来ました」

「ああこんにちは。いつもご苦労さま。メナルアさんの農園の林檎は、いつも美味しく頂いていますよ。

 ところで、そちらのお嬢さんは?」

「うちで一緒に暮らすことになった、私の娘よ。これからは一緒に林檎を売りに来ることになるわ」

 そう言いながら、メルフェレアーナは門番に小袋を手渡した。チャリンと金属同士が当たる音が聞こえる。

 門番は小袋を受け取ると、それを自分の懐に滑り込ませた。


「後で税収官のところで、住民登録の手続きをしておいてくれ。

 それから、これをお嬢さんの腰元の見える位置に吊しておくといい」

「ありがとう。そうさせてもらうわ」

 メルフェレアーナは門番から色紐を受け取ると、頭を下げて門をくぐっていく。一連のやりとりを見ていた麗奈も、慌てて頭を下げてメルフェレアーナに付いていった。


「レアーナさん、さっきのは?」

「そうね、通行料みたいな物かしら。中には銅貨が六枚ほど入っているだけよ。

 それからこの紐を腰の見える位置に縛っておいてね。どこの門から入ったのか、証明する目印みたいなものよ。同じ物を私も持っているわ」

 確かに、メルフェレアーナの腰元には同じ色紐が縛られていた。麗奈は色紐を受け取ると、腰のワンドホルダーのベルトに縛り付けた。メルフェレアーナとお揃いで、何だか嬉しくなる。


 そう言えば……と、気になって周りを見回すと、見える範囲の人が腰に白い紐を吊していた。

「白い紐がここの街の住民ね。私たちが入った西門の紐は緑よ。他にはそれぞれの門によって赤、青、黄色の全部で五色があるわ」

 通りを歩きながら、メルフェレアーナが色の違いを説明してくれた。

 目的地の果物屋さんまでは、まだもう少しかかるようだ。


 麗奈が入った街は、それなりに大きな街みたいだ。

 西門から続く通りにはたくさんの店が軒を連ねていて、今は夕飯の買い物客で賑わっていた。

 店舗や家屋はほとんどが木造で、屋根には瓦が乗っていた。

 何となく、昔の日本を彷彿とさせる風景だった。


 ただ、道を歩く人々は、どちらかというとヨーロッパに見られる白人の顔立ちをしていて、もの凄い違和感を感じた。この中に居れば、いくらエルフでも耳さえ丸ければ違和感ないとおもう。

 逆に、黒髪黒目は麗奈だけなので、さっきからちょくちょく視線を感じている。ただ大抵の人が麗奈の目を見てから、興味を失ったかのように視線を外していく。

 何か意味があるのかな。そう言えば、メルフェレアーナと最初に会ったときに、目をじっくり見られたような気もする。


「忌み子って呼ばれていて、人間の中に極稀に黒い髪で、赤い瞳の子が産まれることがあるの。そういう子達は、赤子うちに教会が引き取っていくのが慣習なのよね。

 だから、黒髪の麗奈ちゃんが珍しいのよ。

 地域によっては黒っぽい髪の人種もいるみたいだから、しばらく私と一緒に行動していれば、この街の人たちならじき見慣れるはずよ」


 程なくして、果物がたくさん並べられているお店に着いた。

 店頭には色々な果物が置かれているけれど、そのうちの一角に何も置かれていない場所があった。店頭に立っていた男が、メルフェレアーナに気付き大きく手を振ってきた。


「メナルアさん。いつも美味しい林檎をありがとうございます。いつも通り、そこの一角を空けてありますよ。

 もっとも、夕方までには元の状態に戻ってしまいますが。

 ところで、そちらのお嬢さんは?」

「そうは言っても、あと一ヶ月ぐらいしか収穫できないわよ。無くなりそうになったら、早めに言うわね。

 それからこの子は、うちの娘の麗奈よ。林檎が獲れるうちは、一緒に来ると思うわ」

「隠し子ですか? 髪の色は違いますが、お顔はそっくりですね。

 麗奈さん。ここの果物屋をやっているロイドと申します。よろしくお願いしますね」

「あ……はい。よろしくお願いします」

 突然挨拶されて少し戸惑ったものの、背負ってきた籠を一旦、果物屋のロイドに手渡した。ロイドは手早く計量し、林檎を並べた後、店頭に並べていた。そして今日は麗奈の籠の分が多かったからか、一籠は店の奥に一旦置きに行っていた。


「はい、これは今日の分の銀貨二枚と銅貨五十枚。多少色を付けてありますよ。

 次は三日後くらいですかね? また空けておきますね」

「あらあら。ありがとう。

 そうね、今度は二日後には来られると思うわ」

 メルフェレアーナはお金を受け取ると、枚数を確認してから腰の袋に入れていた。貨幣の価値が分からない麗奈には、持ってきた林檎がどれだけの値段で売れたのかが分からなかった。


「さて次は、麗奈の住民登録に収税官の庁舎に向かいましょう」

 麗奈は、メルフェレアーナに付いて、街の真ん中に向けて歩き始めた。


 ふと振り返ると、納品した林檎に人だかりが出来て、さっそく売れているようだった。


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