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澪ちゃんがやってきた、というか逃げてきた(1)

 それから――早一ヶ月。

 

 この世界にきて二ヶ月半経った。

(いったい何時になったらこの国を救うのかな~?)

 と私は、出前の弁当を運び終わり、ガーディアンを漕ぎながら鷹の目亭に帰宅中。

 

 相変わらず勇者パーティの評価は悪く、ますます下がって最低を振り切ってる。

 だって、まったく城から出てこないんだもん。


「城の外が怖いのかよ。まったく勇者も世も末だ」

 なんて市民のあざけり笑う声を多々拝聴している私ですが――

(そもそも……その『国の危機』という場面を見たことがござーません)

 魔王や魔物、そして瘴気に取り込まれた人々や動物――なんてのをまだこの目で見たことがない。


 平和そのものな街の日常。

(もしかしたら城下街の外で、そういう騒動が起きてるのかな?)

 そうしたら噂で耳に入ってきてもおかしくないよね?

 いつも店でたむろってるウィルドさんのお友達が、色々情報を仕入れてくる。

(ウィルドさんのお友達は一体、何のお仕事をしてるんでしょう?)

 今度聞いてみよう。


「さーて、ガーディアン! お腹すいたね、お昼食べたらエネルギー充電してあげるからね!」

 そう、彼は私の治癒の波動が栄養源。

 なので私の腹が満たされないと、治癒の波動が提供できないのです。

 ガーディアンはリーン! と同意のベルを鳴らす。

 

 今日もランチタイムでたくさん働いた。夕方まで暇になるからそれまでガーディアンをメンテナンスしたり、昼寝したり、たまに仕込みを手伝ったりとダラダラと過ごすのが毎日の日課。

 ウィルドさんは、前に言った通り「いったい何時休んでる?」というくらいいつも動いてる。

 一緒に動いていたら「絶対倒れる。止めとけ」と回りから止められるし、ウィルドさん本人からも「夕方までしっかり休め!」と叱られるのでお言葉に甘えている。


「今日のまかないランチは何かな~」なんてウキウキしながらガーディアンを漕いで、鷹の目亭は目の前! という距離で私はブレーキをかけた。

 それでも前へ進もうとするガーディアンを「ストップストップ、どうどう」と、ほぼ馬の扱いで制止させる。

 おどおどした様子で道を歩く女の子の姿に、見覚えがあったから。

 まるで初めて外に出ました! みたいにキョロキョロして不安げに周囲の人を見てる。

 黒髪サラサラヘアに、懐かしき日本の学生服。

 私も学生服のまま召喚されたけど、飲食のお仕事をしてるからここの世界の汚れてもいい服に着替えてる。

 けれど、異世界で学生服ってめっちゃ目立つわ。


「澪……ちゃん?」

 名を呼んだ私の声に反応してビクッと全身を震わせながら、こっちに振り向く。

 私は念のために、もう一度名前を呼んだ。


「澪ちゃん? 澪ちゃんだよね? 私! 実里。及川実里!」

 

 覚えてるかなー? 数分で城から追い出されたこの身を。


「実里ちゃん!」

 覚えてたー! 私、ホッとしたのも束の間。

 澪ちゃんは涙腺を崩壊させ、私に抱きついてきた。

 

 ガッ、ガーディアンが倒れる……!? と思ったけど、この子一人(台)で立てる子だった。



◇◇◇◇◇



「へぇ……『ミオ』っていうのか。勇者パーティの『聖女』として召喚された……」

 ほうほう、とウィルドさんは頷きながら私と澪ちゃんにアイスカフェオレとまかないランチを提供してくれた。

 今日は、黒パンにウインナーを茹でたのを野菜とマスタード、ケチャップではさんだものとフライドポテト。そしてジャム入りのヨーグルト付き。


 ――ホットドック!


 澪ちゃん、ケチャップを見て黒目がちの目を白黒させてる。

「ミサトに聞いてそれらしいものを作ってみたんだが、ケチャップ。味をみてくれ」

「わかりました。では食べましょう! 澪ちゃん」

「で、でも突然押し掛けてきて、ご飯をいただいてもいいんですか?」

 戸惑ってる澪ちゃんにウィルドさんはがはは、と笑う。

「なんだ、日本人という種族は遠慮がちな民族だな! いいんだ、食え食え! ケチャップの出来も知りたいしな」

「澪ちゃん、食べましょ?」

 私も勧める。だって働いてお腹ぺこぺこですから!


「いただきます!」

「い、いただきます!」

 私と澪ちゃん、一緒にガブッとかぶりつく。

「……ぉ、美味しい……!」

 口をモゴモゴさせながら澪ちゃんは、びっくりしたように感想を言った。

「美味しい~! このケチャップのトマトゴロゴロ感が良いです~! パンも軽く焼いて噛むとパリッと、中はもっちり!それにこのウインナー! すっごいジューシー! 噛むとぷちっと皮が弾けて肉汁がたっぷり出てきて、肉の感触がまた最高です! 茹でただけなのに! 物が違うんですかね?」

「茹でただけじゃねぇよ。茹でながら焼くんだ。うちは『蒸し焼き』にしてる」

「手間一つでただのウインナーが、こうも美味しくなるんですね。ウィルドさん、物知りです」

「まあな」とウィルドさんはちょっと照れながら、下拵えの続きをし始めた。

 

 澪ちゃんと二人で「美味しい美味しい」ともぐもぐして、アイスカフェオレをいただいて(これも澪ちゃんびっくりしてた)お腹を満たしたところで、身の上対談。

 だって『聖女』の澪ちゃんが護衛もつけずに、一人であんなところにいたら驚くじゃない?


「それで、他のパーティの人達は?」

 澪ちゃん、肩を強ばらせてぎゅっと制服のスカートを握りしめた。

「……知らない。ほんと、腹立つんだから」

「――えっ?」

 

 ぽつりぽつりと澪ちゃんは顔をしかめ、拙い話し方で自分の身の上に起きた城での出来事を話し始めた。



◇◇◇◇◇



『聖女』として召喚されて、一ヶ月くらい経ってからかな……。

 それまで私を含む勇者パーティの人達は、最小限のレベルは上げてそれから城の外へ行こうと決めていて、私もこの国の魔法を扱える人達に教えてもらいながらレベルを上げていたの。

 うん、国の歴史や召喚された理由とかも教えてもらった。


 テレビもないし、スマホも使えないでしょ?

 それにトイレや風呂とかも現代日本とは全然違ってるし、食事もジャンクフードとか嗜好品とか娯楽に慣れちゃった私達にはしんどくて「帰りたい」と泣き出す人もでてきたの。

 ……私も帰りたいと思っていたけど、勇者パーティとして召喚されたし、田舎に住んでたから不自由に慣れていたんだと思う。

 他の人達より耐性はあったんだ。

 それに、そういうの素直に出すのって駄目かなって思ってた。


 だって、国民の期待ってあるじゃない?

 一応、能力は召喚された私達の方が高いようだし、そんな私達が国を救う前に泣き言言っちゃいけない、って思ったの。

 そんな状況だから、王様も勇者として呼ばれた人も躍起になって次々に召喚しちゃって今、勇者パーティは合計で十四人いるの。

 ごめん、実里ちゃんいれて十五人。


 すごい人数だよね。


 その中でやる気のある人だけパーティ編成して、レベルを上げていたんだけど、色々問題が出てきちゃって……

 うーん、もう、色々!



「帰りたい!」って泣く人達で集まって、召喚できる人達を囲って「元の世界に戻せ」て文句言って、とうとう暴力沙汰になって部屋に監禁されてるし。

「国を救うために選ばれし者」ということにつけあがって我儘放題の人もいるし。

 

 うん、そうそう。あの大剣の人!

 

 やる気があるのかどうか分からないけど、一応レベルを上げることはやっていたよ。

 他のやる気あるメンバーと一緒に。

 そんなメンバーの中にも「さっさと国を救おう! そしてさっさと帰りたい!」という人達もいて。

 ……うん、私もその中の一人。

 だって、「レベル上げてから!」って、いつまで経っても外へ出ようとしないんだもの。あの勇者の人。


 勇者の名前?

『ミナトって呼んでくれ』って言ってたよ。

 お城の人達は「勇者様」って呼んでた。


 私を含む何人かは「もう出立しよう」ってミナトさんに言ったんだけど「まだ早い」って、なかなか「うん」て言わないの。


 そのうち、ミナトさんを見限って数人、城から出て行った。

 そうしたらうるさいのがいなくなったって、ミナトさんとミナトさんについてる人が好き勝手するようになっちゃって。

 レベル上げるのもさぼって、城の中で贅沢三昧。


「酒池肉林」うん! そうそう!


 国王もオロオロするだけで止めようとしないし。

 何人か城の人達が、ミナトさん達を諫めようとしたら返り討ちにあっちゃって……


 ――私?


 ……うん、その……。実はここに召喚されてからすぐに、王太子のエルバート様から告白されてお付き合いしてて……

 ――そ、そんなに驚かないで!は、恥ずかしい!

 そういう事情で、私はなかなか城から出ること躊躇って。


 ――どうして今、城から出てきたのって?



 ……………………エルバート様に三股かけられてた。


 しかも、ミナトさんに下げ渡そうとした。

 何が「君が色仕掛けで勇者殿のやる気を起こさせてくれ」よ……

 ハーレム状態の奴に、私がいっても無駄じゃん。


 ショックで部屋に閉じこもっていたら、ミナトさんがやってきて「ハーレムの一員に加えてやる」って馬鹿いってるから、ひっぱたいて城から出てきたの。




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