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ガーディアン号、自我が目覚める(1)

『一向に討伐に向かおうとしない』

『なんだかんだ言って、城の中から出てこない』

『どうやら、勇者が気に入るメンバーになるまで召喚続けているらしい』

『勇者が美女を侍らしている』

『城の中で贅沢三昧』


 今までの中で一番『役に立たない勇者とそのメンバー』と評価されている。

 同じ世界から召喚された私としては「身内の恥」を見せられたように思えて、勇者の噂を聞く度に肩をすぼめてしまう。


「はぁ……追い出された私なのに、肩身の狭い思いをしてしまうんですが」

 ぼやきながら愛車「ガーディアン」に治癒――いわゆるメンテナンスをする私。


「ガーディアン」はこの自転車の商品名だけど、私の愛すべきゲームのタイトルの一部な故に即決したお買い物。

 この子と一緒に召喚されてよかった――おかげでこの世界が、少しだけ過ごしやすい。

 だってこの世界、庶民は基本徒歩だし。しかも馬車はあってもガタガタ揺れて、乗り心地めちゃくちゃ悪い。

 一度興味本位で乗って降りて、即吐きした(汚い)

 同じ道をガタガタ揺られていくよりガーディアンに乗ったほうが、揺れが少なく感じてまだ心地よい。


(この道に乗り慣れてきたのかな?)

 なんて思う。 

 なので、通常はガーディアンに乗って移動している。

 出前もガーディアン。城下街から外へ出るのもガーディアン。


「――よし! メンテナンス終わり! あとは汚れ落としてっと」

 自転車と異世界トリップしたしたのはいいけれど、私がいた世界より明らかに道路状況が悪い。

 その道路と私の体重で酷使されているガーディアンのタイヤの空気が、特に不安だった。

 パンクしたらそれまでだし。チェーンが雨に濡れてさびないようなガード使用の自転車だけど、油差しもない。

 

 そこで役にたったのは私の「治癒能力」だった。


「いや~。まさか物にまで有効なんて、いい力持ってたわ、私」

 メンテナンスしたい場所に手をかざし、「元の状態に戻って」とお願いすればOK。

 あら不思議! 新品同様の姿に!

 

 けれど、泥はねとかは無理なようで、汚れだけは落とさないと。

 木桶に水を張り、雑巾を絞って鼻歌まじりに「ガーディアン」を拭う。

「おデブな私に文句を言わないで、乗せてくれるあんたはえらいよ! 感心だよ! またよろしく頼むよ!」



「おーい、ミサト」

 ガーディアンに話かけていた私に、ウィルドさんが声をかけてきた。

 ――あ、変な人に思われたかな?

 しかしながら、さすがウィルドさん。大人のスルースキルでいつもと変わらない様子です。


「お前に話があるって――こちらアルト商会のホセさんだ」

 背が高くてがっしり系のウィルドさんに隠れちゃって見えなかったが、後ろに小ぶりのおじさんがいた。

 ウィルドさんはでかいから、それと比べたら小さい――わけでなく、本当に小さい。

 私より小さいから!


(……あら? もしかしたらこの方)

 ずんぐりむっくりな身体に鬱蒼とした髭を見て私は、あるゲームの種族を思い浮かべる。

「驚くかい?」

 わはは! と小さな身体に見合わない大きな笑い声。

「すいません、もしかしたらと思ってジッと見ちゃいました」

「もしかして、というのは?」

「間違ってたらすみません。……あの、ドワーフ……さんとか?」

 そう、ファンタジー世界で武器職人としてほぼ、重要人物の一族。

 鍛冶師として腕を奮ってるという、地下が住処で鉱物の産出も得意なキャラクター。

 だけど、そんなキャラの方がいったい私に何の用なんだ?


「正解! 分かってるようなら話は早いな。そのお嬢さんが乗っている変な乗り物、買い取らせてくれ!」

「嫌です」

 私、即答。

 いや、話が早いってなにさ?


「全然、話が見えません」

 私はウィルドさんに回答を求める。

「ホセさんよ、ミサトは分かってるようでも、この世界にきてまだ日が浅いんだぜ? きちんと自己紹介して、どうしてこの『ちゃり』? っていうのが欲しいのか言って交渉しろって」

 

 そうホセさんに話してくれるけど――

「いや、交渉されたって売りませんって。私の交通手段ですし、一緒にこの世界に来た愛車ですから」

 私は、ばっさり切り捨てる。


「望むだけの金は渡す! そうだ! なら、この国の市民権も! 『勇者パーティ召喚』された者は一時的にしか市民権が発生しないから、これは有利だと思うが!」

「事が済んだら帰るんでいいです」

「ええい! ならミサトの望むものはなんだ!」

「元の世界へ帰ることです。でも、この子は渡せませんよ」

 私とホセさんの間の空気が、だんだん険悪になっていく。


「おーい、ちょっと。ホセもミサトも落ち付けって。まずは、『こいつ』の意見も聞いてやれよ」

「『こいつ』って誰ですか?」

 ここには私、ウィルド、ホセの三人しかいない。

 けれど――ウィルドさんは、信じられない相手を指した。


 ――『ガーディアン』!?


「ウィルドさん、それはないわー」

 私、半笑い。

 そんな私に今度はウィルドさんが驚いていた。

「えっ? ミサト、気付いてないのか?」

「……えっ?」

「いや、ウィルドよ。それはないだろうよ」

 ホセさんも半笑いしてる。

「何だよ、気付いてないのか。いいからミサト、ここから呼んでみろ」

「えっ? えっ?」

「『こっちこい』って呼ぶんだよ。お前を主人として見てるならくるから! ホセもミサトに呼ばれてくるような物なら諦めろよ。そういうの主人以外が扱うと、たち悪いって知ってるだろう?」

 とホセさんに牽制してくれる。

 でも、本当に呼べばくるの……?


「ほら、呼んでみろ、ミサト」

「は、はい……」

 ごくり、と緊張に唾を飲み込み私は声を上げた。

「ガーディアン、こっちへおいで!」

 まるで犬でも呼ぶ感じだけど。

 ちょっと間が空き、「やっぱりこないって」って一瞬頭をよぎった――ら。

 ガチャン! と勝手にスタンドが上がって私はビクッと肩を揺らした。

 ――倒れる!?

 と駆け寄ろうと、一歩足をあげた瞬間だった。


「う、嘘でしょーーーーーーーーー!?」


 誰も乗ってないのに、こっちにやって来る!


「ぎゃーーーーーーー!」

「なんで叫ぶ?」

「幽霊乗ってるみたいでなんか怖い!」

 

 ウィルドさんの突っ込みに私、叫びつつ答える。

 びびってる私の目の前までやってきたガーディアンは、誰にも支えられてもいないのに、ピタッと止まり、自らスタンドを下ろして停止。


「……えー……」

 私、思わずウィルドさんにしがみついた手を離し、おそるおそるハンドルに触れる。

 

 ――そういえば

 最近、気付いたことがあった。

 ガーディアン号がほんのり温かく感じていたんだ。

 でも、この国の陽気のせいだと思ってた。


「じゃあ……最近、ガタガタ道でそう揺れなくなったのもガーディアンが……?」

 リン! とベルが鳴る。

 おお! これは! 「YES」という意味かな!?


「す、すごい! 自我がある! 会話できる!」

 私、大感激! 

 異世界補正すごい!


「てっきり私がこの道に慣れたのかとばっかり思ってた! 私の尻を守ってくれてありがとう! ガーディアン!」

 抱きついてサドルに頬ずり。

 リーーーーン! 今度は天高くベルが鳴った。

 

 感動に浸っている私とガーディアンを見ていたホセさんは、最初大きな眼をますます大きくして驚いていたけど、

「……仕方ねーなー。物に魂が宿って意志疎通できるパターンってままあるけどよ。主人と認めて仕える物っていうのは融通利かないからな」

 とあっさり諦めてくれた。


「その代わりといっちゃあなんだけど、そいつの型を取らせてくれないか? うちでも作ってみるわ」

「それなら良いですよ」

 と、承諾した。




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