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動けるデブは貴重ですか?(2)

「お礼をいいたいのは私の方です! 勇者パーティに相応しくないってポイされて、路頭に迷っていた私を拾って、こうして住まいとご飯を与えてくれるんですから! 働いてご恩を返すのは当たり前ですし、いえ、何かでご恩を返すといってもこんなことしかできないのは心苦しいんですが!」

「いやいや。十分頑張ってるよ、ミサト。疲れたら無理しないで言うんだぞ? 俺にあわせると大抵の奴は疲労でぶっ倒れるから、今まで雇わなかっただけなんだ」

「は、はい……!」

 

 雇用者にこんなお気遣いを! 私はその場でウィルドさんに向かって拝んだ。

「なんだそれ?」と首を傾げているウィルドさんの傍らで、お客のおじさんが呆れた様子でつぶやく。


「全く……あれだよな。勇者の連中、召喚される度に質が悪くなってくよな……」

「そうそう、あれで本当にこの国を救えるのか?」


 ここで働くようになって一ヶ月。

 常連の皆さんは、私が異世界から勇者パーティの一員として召喚されたけど、気に入られなくて放り出されたという事実を知っている。

 私はご飯をムグムグしながら尋ねた。

「国の危機って、そんなに頻繁にあるんですか?」

 言い方からして、みなさん慣れている感じだ。

「まぁな、早くて数年に一度、長くて十年に一度のサイクルだ」

「……そんなに魔王が出現するんですか」

「『危機』っていってもな、魔王だけじゃない。ドラゴンとか『魔物』も含まれるからな」

とウィルドさん。


 他の世界から人を召喚できるこの世界では、召喚できるのは人だけでないそうで。

 自然発生する淀みから他の世界からも忌まわしい生物や、瘴気が進入してくる。

 忌まわしい生物は大抵バカでかく、最大で国一つ覆うほどの大きさのものも出現。

 瘴気は、そのままで活動することは少なく、この世界の動物や人に憑依して破壊活動をする。

 最初、勇者パーティも数人はこの国の人間で、その時に揃えることができなかった人を召喚していた。

 しかし、勇者全員呼んだ方が能力値が遙かに高い者ばかりが揃うので、手っ取り早くそうするようになったそうだ。


「だけど、召喚する奴の能力が低いのか、それとも運が悪いのか、それとも召喚される奴らの人間性が悪いのか――変な奴がくるのが多くてなってな」

「……デブス、とか……?」

 私の突っ込みに、皆さん「違う違う」と返す。

 

 いや、勇者の奴に「バグだ!」と騒がれたし。

 あんたの頭の方がバグってるとか思ったけどな!


「呼びたい職業に、才がある人がランダムに選ばれるって聞きました」

「そうなんだよな。……それ考えると、たまたま運悪く、変な奴に当たり続けているだけなのかなぁ」

「ふーん」と私。


(ちょっと待て? それって私も『変な奴』の中に入ってるってことか?)


「その『変な奴』って……今までどんな人がやってきたんですか?」

「何でも現実の世界だと思ってなくて『死んでもまた生き返る!』って言って魔物に突っ込んで死んじゃった奴とか」

 ――ひぇええええええええ!

「……やっぱり、死んじゃう……んですか」

 当たり前、と皆生真面目に頷く。


「必殺技とか言うやつを叫びながら魔王に向かっていって、剣が重くて持ち上げられなかったり」

「回復薬作って高く売りつけたり」

「『魅了』をフル放出して巨大ハーレム作って、女どもの嫉妬で八つ裂きにされて肉片を配られた奴とか」


「いやああああああ! 最後が一番怖い!!」

 私、涙目。


「こんな感じで、国を救うために召喚されたのに、違う目的になってしまったことが多々」

「そうそう、国の救済が『おまけ』みたいになってるんだよな」

「国王が何とかしなけりゃならない問題だけどな」

 そうか、そうなってるのに、今の状況に甘んじている国王にも問題があるってことなんだ。


(大丈夫なのかな……?)

 召喚された面々を思い出す。

 デブスだと罵って追い出したファクター様もどき達はまだムカつくのでどうでもいいけれど、一人、気になる子がいる。

 

 肩に落ちるサラサラヘアに、くりくりした黒目がちの色白な儚げな美少女っぷりの「澪ちゃん」

 あの子だけは優しかった。

 裏表ある子かもって今までの経験で勘ぐっちゃうけれど、「いい子」に賭けたい。

 

 ――でも、私は勇者パーティから放り出された人。

 

 とにかく無事に自分の世界へ帰れるよう、国を救ってもらうしかないのだ。


「でもミサトはいい子だぜ。一ヶ月働いてもらってよく分かってる」

 ウィルドさんが親指を立てて見せる。いつもの癖だ。

「そうだな、ミサトみたいにいい子が勇者だったら良かったのにな」

「きっと余裕で剣を振えるぜ! ミサトは!」

 確かに満タンのミルクタンク二つ軽々もてるし、ビールジョッキ八本余裕だし、ジュウジュウ焼かれた鉄板ステーキを六人分一度に持ってこれます。

 七面鳥クラスの大きな鳥の丸焼きも一人で軽々です。

 

 ――けれど

「いやぁ……無理ですよ~。さすがに剣はふるえません。経験ないですから!」

「いやいや~、ミサトちゃんが勇者パーティの中心だったら良かったのにな、という話だよ!」

「でもそうだったら今頃、この『鷹の目』亭の看板娘はいませんよ?」

「そうだそうだ! ミサトがいないと寂しいぞ! そうだよな? ウィルド!」

「……まあ、そうだな。ここでミサトが美味しくご飯を食べてくれるおかげで『美味しそう』って注文が殺到するから売り上げ上がってるし」

「そうだったんですか! じゃあ私、どんどん食べますね!」

「ちげえねえ」とあはははははは! と一同大笑いした。


 ――でも、


(確かにこの世界にきてから、力も強くなってるし、体力も上がってる……)

 女子力下がってる方が気になって、人外になってきてることよりショックな私だった。




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